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第五話 カイン連行


(サブ! オレは今、どこにいるんだ?)

【今は、ミレーユにロープでぐるぐる巻きにされて、肩に担がれて移動中です】


───は?


意識が戻ると、まず目に飛び込んできたのは、逆さまの天井。いや、違う。視界が逆転しているのは、誰かの肩に担がれているからだ。

身体は3歳児のものだが、脳内は前世の成人そのまま──言葉がすぐに浮かぶ。

ただ、身体が動かない。いや、動かせない。

全身がきっちりロープで縛られていた。しかも、なぜか肩と頭の間に枕が挟まれていて、微妙に肩が痛くない仕様になっている。

……なんで、そんなとこだけ気が利いてんだよ。


(何がどうなってこうなった……?)


サブが相変わらず冷静に答える。


【カイン様は先ほど、ミレーユ様に首元をチョップされ、気絶しておりました。そのため記録モードを起動し、映像記録を確認したところ、現在の状況に至ったと推定されます】

(推測って、おい……! なんで黙ってたんだ!)

【気絶時間、実測で3分29秒。報告よりも記録の保持を優先しました。なお、チョップの角度は極めて正確で、神経遮断における急所打ちとしては完璧です。さすがと言うべきかと】

(褒めるな! あとで絶対詰めるからな……!)

【カイン様!】

(な、なんだよ?)

【説明は後です。今すぐ息を止めてください!】

(えっ──わ、わかった)


言われるがままに息を止める。だが、三歳児の身体では限界が早い。肺が焼けそうになり、堪らず呼吸を再開した──その瞬間。


強烈な眠気が襲ってきた。


抵抗する間もなく、意識が暗転する。


───


次に目が覚めたときのことだった。


「着いたわ。ようこそ、私の“研究施設(ミレーユ・ラボ)”へ」


聞き慣れた、けれどどこか愉しげな声。

オレの視界には、異様な光景が広がっていた。

無数の魔導装置、天井から垂れる精密な管、意味不明な記号で埋め尽くされた魔法陣、そして──部屋の中心にそびえる、どう見てもヤバい形状の台。


「──コレ、拷問台じゃねぇかァ!!」

「違うわよ。観測台。寝心地も悪くないように、羊毛入りよ? ほら、特注」

「余計に怖いわッ!!」


がたがたと抵抗を試みるが、ロープの縛りが強すぎてビクともしない。すでに台に乗せられ、手錠でがっちり固定されている。完全に強制イベントだ。


「ねぇ、カイン。魂って、熱を持つと思う?」

「……なんの話だよ」

「気になってたの。魂に触れられるなら、そこに“波動”があるはずでしょ? だったら、熱源としての性質もあるんじゃないかって。つまり──」

「つまり?」

「魂用サーモグラフィ、作ってみたの。試していい?」

「やめろォォォォォ!!」


オレの絶叫が、地下室──いや“実験室”にこだました。

こうして、《神格交差実験》の日々が始まった。


───


すべての実験が終わったころ。

オレがまだ拷問──もとい観測台の上に縛られたままでいると、ミレーユが何事もなかったかのように言ってきた。


「そういえば、親には一応『姉弟の仲を深めてくる!』って言ってあるから。心配しなくていいよ」

「いやいやいや、まずこの手錠外せよッッ!」

「あっ、ごめーん」


明らかに反省ゼロの声色だったが、一応手錠は外してくれた。

自由になった途端、オレはあらためて周囲を見渡す。そして、ようやく気づく。

この空間にある装置群──すべてが、この帝国の文明レベルからして、あり得ない代物だということに。

───ミレーユ姉ちゃん、……本当に、どこの出身なんだ……?

サブが、静かに語りかけてくる。


【警告:対象ミレーユに関する文明出典、観測不能領域に突入】

(……それってつまり、やっぱり……)


彼女もまた、“この世界の外”から来た存在。

このとき、オレは確信することになる。

神の名を持った観測者であるオレと、“別の異世界”から来た観測狂──ミレーユ。


この二人の出会いは、やがて世界の理を揺るがす《実験》の、ほんの序章にすぎなかったのだ──。


─────




彼──長男フェリスの考え。


これは、一昨日の事だ。

神の名──《アストレイア》を弟のカインが授かった。

この帝国において、“神の名”を授かるのは、100年に一度程でしか現れない。

選ばれし魂のみに与えられる称号。

誰もが欲しがり、得られることはない。

それはラーファによって制御されていると考えられているからだ。


───そして、それを得たのは、“魔法適性0”の弟だ。

これまでの帝国史で、“魔法適性0”で、《神の名》を持つ者は存在しなかった。


初めは、信じられなかった。

なぜなら───

「俺だって、《神名》なんてものは貰ってないのだから」

そう、フェリス自身、全てにおいて優秀である自信があったからだ。

魔力量、学園での成績、家業への貢献、そして社交での振る舞い。

全てにおいて不足はなく、実績を積み上げてきた。

でも、《魂名》止まり。


それなのにもかかわらず、《神名》をまだ言葉も何も覚束ないような弟が賜ったのだ。

(その意味を──考えないわけには………)


フェリス=セラアミラはあらゆる可能性について考えていく。


「カインには、何かある。」

そう、確信するのであった。


次回へ続く

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