第三十四話 サブとエリアールによる魔法訓練 その2
それからは、魔法発現成功確率を少しでも上げられるように練習を繰り返した。もちろん、睡眠不足で倒れるなんてことが無いように、思考加速モジュールを使用し1時間ほどで火魔法の初歩が出来るようになった。
サブはまだまだなんて言うけど、オレはオレのペースでやらせてもらう。
初めて指先に灯った、あの小さな光。
ほんの一瞬で、僅かだったけど、確かに自分の力で生み出したものだった。
……正直、かなり嬉しかった。
こんなことで喜んでいる自分が、少しだけ意外なくらいに。
翌日。
学園生活が始まって今日で6日目。暦的には今日は休日。
部屋でゆっくりとしたい。
けど出来ない。
理由は単純だ。
【本日は訓練日和ですね】
サブが、八つ当たりのように魔法を覚えさせようとするからだ。
「誰目線だよ、それ」
【ラーファ様からの助言もありましたし】
……あぁ、あれね。
――あの魔導師、家事バカなぶん超危険魔法を平然と料理に転用しているのよ。
「……行くしかないか」
【推奨行動です!】
なんだろう。
逃げ道を塞がれた気分だ。
♦
リビングに行くと、案の定エリアールがいた。
普段通り、ご飯の時間はキッチンを往来している。
今日も、鍋に火をかけ、三人分の朝食を調理している。
「おはようございます」
「おはようございます! カイン様!」
エリアールは、パッと花が咲いたかのように明るく笑う。
朝から、かなりの元気だ。
まぁ、いつも通りとも言えるが……。
鍋をかき混ぜながら、こちらをちらりと見る。
「今日は休日なのに、どうかされましたか? もしかして、お腹がすごく空いているとかでしょうか?」
「いや、そういうわけじゃ……、でも空いてはいるか」
「では、少し多めに作りますね!」
そう言って、エリアールは鍋に振り返り、鼻歌を歌い始める。
カインは、その状況に慌てたが、落ち着く。
(……話が早い……、というか少しズレている)
【通常運転ですね】
……もう、そういうことにしておこう。
◆
朝食は、野菜のスープと焼きたてのパン。
あと、卵の何かが出てきた。
大抵、エリアールの料理は美味しいので、それが何かは気にしない。
そして、休日だからか、少し豪華だ。
ゴルドは、既に外で筋トレを始めているらしく、食卓には、二人分だけが並んでいる。
「あの~、エリアールさん?」
「はい?」
スープ皿を置いた手を止め、ぱちりと瞬きをする。
相変わらず、無駄に澄んだ目だ。
「その……少しお願いがありまして」
「おかわりですか?」
「違います」
即答だった。
エリアールは「違いましたか」と素直に頷き、椅子にちょこんと座る。
姿勢が妙に良く、少し騎士っぽい。
「魔法の稽古を、つけていただけないでしょうか」
一拍。
「……私で、よろしいのですか?」
声音が、ほんの少しだけ変わった。
普段の軽さが抜ける。
「昨日、火の初歩は出せました。でも、安定しなくて」
「まぁ……!」
ぱあっと表情が明るくなる。
「もう初歩まで? すごいです! さすがカイン様です!」
「いや、まだ一瞬だけで」
「一瞬でも灯ったなら、それは才能です!」
……評価が甘いのか、本気なのか分からない。
【感覚派ですね】
エリアールは立ち上がり、くるりと回った。
「分かりました! 本日は特別訓練日です!」
「特別って」
「安心してください。危なくない範囲でやります!」
「“範囲で”って付けると逆に怖いんですけど」
「え?」
首を傾げる。
本気で分かっていない顔だ。
――あの魔導師、家事バカなぶん超危険魔法を平然と料理に転用しているのよ。
ラーファの言葉が、脳裏で再生される。
【妥当な警戒です】
◆
食後、寮の裏手にある簡易訓練場へ向かう。
地面は踏み固められ、所々に焦げ跡がある。
……見なかったことにしよう。
エリアールは両手を腰に当て、にこっと笑った。
「では、昨日できたという火を見せていただけますか?」
深呼吸。
回路を繋ぐ。
魔力を流す。
指先へ集束。
パチッ。
小さな火花。
次の瞬間、豆粒ほどの光が――
揺れて、消えた。
「……今の、見えました?」
「はい! ちゃんと灯りました。形になる一歩手前です」
「一歩手前?」
「魔法は、“出す”より“保つ”ほうが難しいんです」
そう言って、エリアールは人差し指を立てる。
ふわり。
そこに、小さな火球が生まれた。
昨日の自分のそれとは違う。
安定している。呼吸しているみたいに、静かに揺れている。
「力を押し出すのではなく、包むイメージです」
「包む……?」
「火を敵だと思うと暴れます。でも、仲間だと思うと落ち着きます」
理屈になっているのだろうか。
微妙だ。
【感覚論です】
だが、不思議と腑に落ちる。
再度、集中。
押し出すのではなく、留める。
指先に、熱。
今度は逃がさない。
小さな赤い光が灯る。
揺れる。
消えるな。
……一秒。
二秒。
三秒。
ふっと、消えた。
「……3秒維持できた?」
【はい、私の手助け無しで!】
エリアールは、嬉しそうに笑った。
「上出来ですよ、カイン様」
胸の奥が、じんわり熱い。
昨日は一瞬だった。
今日は、保てた。
ほんの僅かな進歩。けれど確実な前進。
サブはきっと「まだまだ」と言うだろう。
エリアールの火球を思い出す。
あの安定。あの余裕。
追いつけるのか?
いや、違う。
追いつくんじゃない。
超える。
そう決めたはずだ。
それでも。
心のどこかが囁く。
――もし、これが限界だったら?
炎の代わりに不安が灯る。
「「本日の訓練、継続しますか?」」
サブとエリアールの声が重なる。
……一度、落ち着こう。
「少し休ませて」
エリアールが、くすりと笑う。
「では、あと五回だけにしましょう!」
「それ、休憩じゃないですよね?」
青空の下、
休日は静かに、燃え始めていた。
また、しばらく更新無いかもです。
すいません。




