第二十八話 ラーファとの会話 前編
そこには、これまでにサブが学習したデータを全て反映し、オレのサポートに特化した機能の名前とその機能が並んでいた。
以下の通り。
・周囲観測
オレのボディラインに沿って展開されている結界。
周囲と言っているが、正確には“サブの周囲”。
オレの精神状況等を観測、サポートしている。
・人格モジュール
スマホやパソコンだとOSと呼ばれるもの。
ラーファの思考回路をコピーして、それを基に改造した。
玉に瑕なのは、これが原因。
多分、ラーファは気付いてない。
・思考読み取りモジュール
カインがサブに依頼した時のみに発動する。疑似魔法。
オレ的には、知りすぎて損をしたくないから、余り使っていない。
今更だが、護衛選びの時使えばよかった。結果は変わらないと思うけど。
・ボケツッコミモジュール
サブの人間性(知能)を進化させる機能。
正直、微妙。だって、ドS化が止まらないもん。
・思考速度上昇モジュール
カインの質問や疑問に素早く応えるために使用。
基本的に、オレ達の会話はこれを使用していて、現実時間コンマ数秒で会話している。周囲に気づかれない為に使用しているが、普通の会話を忘れそうで怖い。まぁ多分サブが覚えてる。
以上が、これまでのお馴染みの機能だ。
細かい部分は、今初めて知った。
そんなことはどうでも良くて、本当の問題はここからにある。
・ラーファ通信モジュール
ラーファとの会話が可能になるスキル。サブを介しての会話。
ミレーユの覚醒が近付くと自動的に繋がる。また、故意に掛けることも可能。
・結界拡張モジュール
結界内で出来る事が増やせる機能。
オレには魔法回路が無いので、他の人には簡単な魔法すら使えないが、結界を展開した状態ならフェイク出来る。身体を浮かすことも可能。
よって、なんでも出来ると判断。
つまり、結界の中では“神”になれる。
……危険な香りしかしない。
たった二つだが、そのたった二つが問題だった。
この世界には宗教が存在する。
それは、ラーファ教とアクロス教、多神教の三つ。
ラーファ教とアクロス教は対立している。多神教は中立。
故にラーファとの会話ができるとなると、ラーファを嫌うアクロス教教徒に暗殺される可能性がある。
そして、聖教国はオーパーツ国家だ。
現代地球に見劣りしない技術力を、いや、それ以上持っていてもおかしくない。
つまりバレる可能性が零じゃないって事だ。
また、結界内でなんでも出来るということは、なんでも出来るということだ。そう。欲に溺れてわがままをやらかす可能性がある。そうなったらどうなるか。この帝国の掟“反逆行為をなしたる者は、速やかに斬首を以てこれを罰する”を基に刑務所行きだ。刑務所なんてものがあるのかは知らないけど。
兎にも角にも、死亡する未来が見える機能なのである。
そう、気付いてしまったのだ。
知らぬが仏。だから“思考読み取りモジュール”は偶にしか使っていない。
うん。オレは間違っていない、間違っていない。
そんな事を思いながら、ディスプレイをしまってもらった。
【如何しますか?】
サブの無機質のようでそうでない声が、どこか冷たく感じる。
「如何するも何も無いでしょ」
どうしようも無いのでそう返す。
【了解しました。それではラーファ通信モジュールを起動します】
……は?
……えっ?
(サブ、おい、ちょっと待て。どうしてそうなる!)
【───接続完了】
……繋がってしまった。
……どうしよう。
すると、ラーファの声が聞こえてくる。
それと共に視界が段々と白に染る。
その白はやがて全ての色に化けていき、方向も時間も溶ける幾何学模様の世界にゆっくりと引きずり込まれる。
誘われた先には、ラーファがいた。
相変わらず、現実の法則から飛び抜けた容姿に純白の衣装がよく映える。パッと見たところ、彼女に変化は見当たらなかった。
……表情を除いて……。
「カイン、サブ、仮想位相接続時以来ですね。現世の生活はどうですか?」
【ラーファ様、私はカイン様としか話せず、苦しい思いをしています!】
「あら、そうなの?」
「いやいやいや、存在を隠さないとオレが危ないわっ!」
「元気なようでよかった。私、貴方をこの世界に送る時、何かあったら連絡して下さいって言いましたよねぇ。ねぇ」
相変わらず、オレはおちょくられるようだ。
そして、ヤンデレ?
「…………」
【そうなんです。この機能を説明したら、怖いから使うなって言ったんですぅ】
「……いやっ、オレはそんなこと言ってない」
【ラーファ様、会話ログです】
「って、おい!」
白い小さな天使の形をしているサブはラーファにしれっと会話ログを渡す。
見た目に反して悪魔だな。
「これは、そうとられてもおかしくないですね。さて、どういうつもりなのかな、カイン君。説明して貰おうじゃないですか」
「いやいや、だから─────」
そうして、オレが心配していた事を話した。
「ふふふ、ふっ、ふっ」
……大爆笑された。
「ちょっと、ねぇ、カイン君。笑わせるのやめてよぉ、ふっ、ふっ」
余りにも長いことラーファはツボに嵌っていた。
そんな訳で「なんでそんなに笑うの?」と聞くと、どうにもここに娯楽要素は無く、サブから届く現世の情報のみが娯楽になるらしい。
だから、学園のクラス分けの時のテストの回答を聞いた時は、「やるじゃん」と思ったらしいが、さっきの心配を聞いた時のギャップで笑いが止まらないと。
「……はい。もうこの話はおしまい。恥ずかしいし」
そう言ってこの話を強制終了させた。
──だが、この時の会話が、後に“観測者の目覚め”を呼ぶことになるとは、まだ知る由もなかった。




