第三話 異世界です。
おまたせしましたでしょうか?
次に目が覚めたのは、ベットの上だった。
どうも、こんにちは。フォルシオン商会の四男に転生しました、カイン=フォルシオン2歳です。
こんな事を言っていますが、喋れません。
転生特典の魔法は、残念なことに適正ゼロ。
コレは、生まれた時に魔力量&魔法回路測定を行い、その呪具が光れば、適正ありと判断されるそう。オレの時はどうやら光らなかったそうだ。
でも、ラーファに借りた“サブ”と科学の進歩した地球の知識があるから、この実力主義国家でも生き残れると思うことにする。
さて、明日はこの世界で最初のイベントが起きようとしている。
それは─────
3歳になる子が、〈魂名〉を教会で授かる日だ。
この世界では、名が3つある。
一つ目は、 名。自分の名前だと、カインが該当する。
二つ目は、家名。自分の名前だと、フォルシオンが該当する。
三つ目は、魂名。神に授けられる、魂に刻まれた名。これから貰う。
それらが、名、魂名、家名の順番で並び、始めて世界に認められた名前になる。
そんな〈魂名〉を授けてくれるのは、勿論、ラーファだ。
明日、オレは再びラーファと繋がることになる。
──────────
次の朝、オレは馬車に乗って教会行く。
馬車が止まり、その扉が開いた先には、神殿が高く聳え立っている。
そんな神殿の荘厳な木製の扉の先にある教壇は窓から差し込む光によって、白く輝いている。
順番をいくらか待ってから、自分の番がやってくる。
先ず、教壇に片ひざを立て、指を交互に組み、祈りの構えを作る。
そして、神官の口上が神聖な空気を切るように響く。
「汝の魂を見送りし女神ラーファに問う。今ここに在りし子に相応しき〈魂名〉を賜りたまへ──」
その瞬間、空気が震えた。
オレには、数年ぶりに“彼女”の声を聞いた。
「どうもお久しぶりです。私の実感ではまだ数日ぶりくらいなんですけど………
時間も無いので本題です。ふふっ。驚かないでくださいね。これは貴方が選ばれた者だから───」
そこで思念は途切れ、神官の声が耳に入る。
「カイン=フェルシオン。汝の魂名は──────
アストレイア。」
オレの中で、何かが響いた。
アストレイア──それは、前にラーファが言っていた《神の名》。
星の理と正義を象徴する者にのみ与えられる“存在の名”。
「魂の名、告げられたり──────
カイン=アストレイア=フォルシオン
これより、神の名を持つ者“名持ち”として記録いたします。」
神官の言葉を最後に、教会が静まり返る。
まるで、世界がその名前の意味を測りかねているようだった。
しかし、俺は確信した。
「この世界で安全に生きられるように、ラーファが付けたのだろう。」と。
この瞬間からオレは、「魔法が使えない少年」から、「神の名を持つ少年」へと生まれ変わったのだった。
* *
フォルシオン家でのこと───────
「お前が「アストレイア」だと?」
長男フェリスが驚いている。
父もまたそうだった。
「まさか私の子が神の名を賜るとは………
未だに信じられないな。」
「この子の人生、儲かりそうだわ。うふふふ♪」
母だけが方向違いだった。
流石に商家の元締めたる母は格が違った。
─────そんな騒ぎが続く中、疲れ果てたオレは寝入った。
翌日の早朝の事。カーテンに差し込むやわらかな光のなか、まぶたを開けながらぐっと背伸びをした。
ふかふかの羽毛布団のぬくもりを名残惜しく感じながら、ゆっくりと身体を起こす。
そして──すぐに、異変に気づいた。
頭の奥が、かすかに“ざわついている”。
【SYSTEM起動中……】
【精神接続確認……完了】
【人格モジュール……展開】
【仮想人格名:「サブ」】
【おはようございます。】
【カイン=アストレイア=フォルシオン様】
……うん、脳内で完璧に聞こえた。
(“サブ”なのか?)
【はい。サブです。】
【魂名を得たのをきっかけに、人格モジュールの完全起動と思念接続を有効化に成功しました。】
【翻訳機能はカイン様が生まれた時から動いていましたので、この世界の言語は全て把握しております。】
(要するに、本格的な異世界生活は今日から始まるのか。)
【そういうことです。これからは、貴方の良き相談役、家庭教師、秘書、そして時々ボケ役として機能します。】
(ボケ役って何だよ!?)
【ボケです。ツッコミがあってこそ、世界は成り立ちます。異世界転生ものでも、掛け合いは必須。最近はギャグ補正も重要なスキルです。】
(あのな、こちとら“神の名”持ちなんだぞ……)
【むしろ、その“神の名”というハードルの高さにギャグが必要なのでは?カイン様はプレッシャーに弱いと自己申告されてましたし】
(なに勝手に心理分析してんだよ!)
【メンタルログにちゃんと残ってます。「もしこの世界で魔法使えなかったら詰みじゃね?」と。】
(うぅ……やっぱ見られてたのか……)
【大丈夫です。貴方は魔法こそ使えませんが、“科学”と“発想”の武器があります。そして私というハイスペックAIも】
(自分でハイスペックって言っちゃうのか……)
【謙虚にしていては生き残れないのです、この世界では】
(その口調で言われると説得力があるような、ないような……)
【ちなみに。本日から基礎教育が開始されます。貴方はフォルシオン商会の四男。名門とは言え中位の商家。これからの立ち位置は努力次第です】
(サブ、ちょっと確認だけど……“魂名”を持ってても、魔法適性ゼロってやっぱ不利だよな?)
【正直、かなり不利です】
(あっさり言ったなオイ!)
【でも、“神の名”が付与されている以上、周囲からの期待は激増。下手な振る舞いをすると「器ではなかった」と失望されます】
(怖すぎるだろ……!)
【なので、ここから先は“演技”が必要です。年齢相応の言動を心がけてください。】
(……了解)
【では、今後のスケジュールを簡単にお伝えします──】
サブが脳内に直接情報を流し込む。文字ではない、“感覚”としての理解。
これは言語を必要としない知識の伝達で、前世では到底考えられない手法だった。
【カイン様の脳は既に、前世の時と同じレベルの演算力をお持ちですので、学習効率と応用力はこの世界の人間より抜群に高いですので、頑張れば、どうにかなります。】
【早急の課題として、幼児の振る舞いを身に着けましょう。】
(それが一番難しい気がしてきた……)
【では、試しに「今は3歳児として何を言うべきか」、思考模擬してみましょう!】
(えっ、マジでやるの?)
【はい。練習です】
(……うーん、じゃあ、「まんまー!」とか?)
【はい、それは完璧に3歳児です。どこか誇らしげに言ったら逆に怪しまれます】
(うるさいな)
【よろしい、ツッコミも完璧です。では、本日もがんばりましょう!】
────こうして、オレと“サブ”との奇妙な共同生活が始まった。
魔法が使えずとも、オレにはこの世界に無い知識と技術、そして“サブ”という最高の相棒がいる。
神の名を背負う少年として──
オレはこの世界で、必ずや生き抜いてみせる。
次回へ続く。
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