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実力主義社会なので、チートAIで下剋上を目指す!! (仮)  作者: しーよ
第二章

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第二十話 寮

 入学式を終えたオレは、全身の力が抜け落ちるような感覚に襲われていた。


 校長の悪役顔による説教演説。

 まるで呪詛のような長ったらしい司教の御経。

 さらに壇上で魂名を紹介され、視線の雨に晒され続け……。


(……胃が、ひっくり返りそうだ)


【カイン様、誇らしい瞬間でしたよ! 観測記録帳に“堂々と立った”と記録しておきますか?】


(堂々としてねぇよ! 震えてただけだ!)


【……震えも“堂々”の一種です】


(意味不明な詭弁やめろ!)


 ─────────────


 帝国学園寮・東棟。

 ここは、帝国史上でも限られた「実力者候補」が暮らすための棟だ。


 ちなみに学園の寮は三つ。


 西棟:主に地方領主や商家の子弟、いわゆる“金持ち”が住む。内装は豪華で食事も贅沢、ただし互いの牽制が絶えない社交戦場。


 北棟:軍属推薦や騎士団志望者が中心で、規律第一。武装も訓練も自由だが、上下関係が厳しく「実質軍営」と呼ばれる。


 東棟:それらどちらにも属さない者、あるいは“特例枠”が住む。表向きは“静謐と独立”が売りだが、裏では学園執行部が監視を効かせやすい造りらしい。



(オレが東棟ってのは……まぁ、“特例枠”ってことなんだろうな)


【そうです。“帝国史上五人目の魂名持ち”という立場、表向きは尊重されますが、裏では管理対象です】


(言うなぁぁぁ! 余計に胃が痛くなるだろ!)


 ──────────────────


 オレの部屋は三階の角部屋。

 広さは3LDKほどあり、机、ベッド、本棚、小さな収納に加えて、共有スペースのリビング兼キッチンまで付いている。

 質素だが、他の寮生からすれば破格だ。


 窓からは中庭が見え、既に同級生らしき生徒がちらほら行き交っている。

 ここから本格的な学園生活が始まる……はずだ。


 ただし、オレは一人ではない。


 護衛兼世話役として選ばれた二人――


 筋肉の塊、斧戦士ゴルド。

 そして、家事バカ女魔導師、エリアール。


 ──────────────────


 ──少し話を戻そう。


 ライナルトの屋敷の中。

 寮に入る前、ライナルトに言われて「護衛との自己紹介」を改めてすることになった。


「……じゃあ、順番に。護衛兼世話役、ゴルド」


 窓の外を眺めていた巨体が、ぐるりと振り返る。


「オレの名はゴルド=ウォール=アークバルト。ガキの命は、この筋肉で守る!」


(魂名まで言うのか!?)


【あっ、これは本来なら極めて異例ですね。魂名は“己の根源”を示すもので、通常は親兄弟にすら告げないのが慣習です】


(おいおいおい! いきなりプライベート情報だだ漏れじゃねぇか!)


 だがゴルドは全く気にした様子もなく、満面の笑みで胸を張った。


「それと……料理はできねぇ! 洗濯もできねぇ! 掃除もできねぇ! だが、お前は守る! よろしく頼む!」


(家事全部できねぇのかよ!)


【潔いまでに筋肉特化ですね】


 次にエリアールが、にこやかに両手を合わせた。


「はーい、私の名前はエリアール=レイン=ルヴァン。魔導師です!」


(お前まで魂名を言うのか!)


 彼女は続けて、目を輝かせる。


「戦闘もそこそこできますけど、戦闘より得意なのは家事全般! 料理、掃除、洗濯、裁縫、あと保存食作り! パンも焼けます! 漬物も得意です! 干し肉だって作れます!」


 止まらない。


「それから! 布団干し、シーツ交換、台所磨き、水瓶の苔取り、靴底の泥落とし、あ、油差しも! 鍋の焦げ落としなら三日三晩でも磨けます!」


(誰がそんなに頼むか!)


【カイン様、これは“家事に命を懸ける魔導師”です】


(死んで欲しくもないし、戦闘に発展させたくも無いけど、もっと戦闘に命懸けろよ!)


 ─────────────


 そんな調子で自己紹介を終えた二人。


 ライナルトが咳払いをして、補足を加えた。


「……本来、魂名を他者に口にするのは“己の心臓を差し出す”に等しい行為だ。よほど信頼した相手か、余程の理由がなければ告げることはない。だから、彼らの真剣さは疑うな」


(……そんな重い話だったのか)


【えぇ。だからこそ、この二人は、選抜通告書(面接の結果)が来たあとから“主にすべてを預ける”覚悟で来ているのです】


(……胃じゃなくて、胸が痛くなってきた)


 ─────────────


 そして現在。


 ゴルドは入ってすぐの部屋に荷物を置き、ベッドの横で腕立て伏せを始めている。

 エリアールはキッチンに直行し、持ち込んだ食材を並べ、鍋を磨き始めていた。


「うーん、この水瓶は交換した方がいいですね! この水道は鉄分が多すぎて水が硬いです! 味噌汁に向きません! 魔法で出しちゃいましょう」


「オレ、肉があればいい!」


(……落ち着け、オレの新生活。開始五分で方向性が迷子だぞ)


【むしろ、ある意味カイン様らしい始まり方です】


 ─────────────


 オレは椅子に腰を下ろし、窓から中庭を見下ろす。

 他の寮棟の説明を思い返す。


 西棟の煌びやかさ。

 北棟の軍営じみた厳しさ。

 そして、オレが選ばれた東棟の“監視と独立”の両面性。


(オレの役割は、ここから始まる……のか)


【はい。護衛は決まり、後見人も決まりました。次は、観測者として“記録”を始めるときです】


(……わかった。まずは胃を整えてから、だな)


【胃薬、三種類常備してますよ】


(お前ほんと便利だな!)


 ──────────────────


 こうして、オレの帝国学園寮生活が幕を開けた。

 護衛と共に。

 そして、まだ誰も知らぬ“観測者”としての使命と共に。


この話内では、サブは脳内再生で会話しています。


次回へ続く。


─────────────

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