第十九話 入学式
ありがうございます。700PV突破です!
──帝国学園・大講堂。
重厚な扉が開き、オレは他の新入生と一緒に中へ足を踏み入れた。
高い天井には壮麗なシャンデリア。
壁一面には帝国の歴代皇帝と英雄の肖像画。
床には真紅の絨毯が敷かれ、中央の壇上には巨大な水晶球が鎮座していた。
(……すげぇ。場違い感ハンパないんだけど)
【カイン様、落ち着いてください。心拍数が上昇しています】
(落ち着けるかよ! これ完全に“ラスボス部屋”だぞ!?)
オレの愚痴をよそに、式は厳かに始まった。
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壇上の老司教は、白金の法衣を翻し、聖典を高々と掲げた。
蝋燭の炎がゆらぎ、天井の影が波のように揺れる。
低く、しかし遠雷のような声が講堂を満たす。
「天に坐しますは理なり。
理は光を生み、光は名を定め、名は魂を結ぶ。
されば──魂なきは影に等し。
名なきは虚に等し。
記録なきは、永劫の無なり。
嗚呼、ここに集いし若き魂よ、
忘るるなかれ、忘るるなかれ、忘るるなかれ。
名を授かりしは喜びにあらず。
名を戴きしは枷にして責め、理にして審なり。
裁かれん、汝らは。
測られん、汝らは。
書き留められん、汝らは。
されど──欠けし者は塵となり、
記されぬ者は闇に沈まん」
司教は杖を一度、石床に叩きつける。
乾いた音が、静まり返った講堂に突き刺さる。
「かつて、炎は地を焼き、
かつて、闇は空を覆い、
かつて、人は名を持たず、理を知らず。
獣に敗れ、星を恐れ、己を見失いし。
されど、大理 ── 大いなる理は言えり。
“汝らに名を与えん。
名こそ秩序、名こそ光、名こそ責務”と。
名なき者は倒れ、
名ある者は選ばれ、
選ばれし者もまた淘汰されん。
淘汰こそは祝福、敗北こそは供物。
敗者の屍の上に勝者は立ち、
勝者もまた次の屍となる。
輪は廻り、時は巡り、名は連なり、
理は書を綴り続けん」
御経は終わる気配を見せない。
新入生たちは膝を震わせ、互いに顔を見合わせるが、誰も声を上げられない。
司教はなおも続ける。
「魂名を戴きし者よ、忘るるな。
それは冠にあらず。
それは重石なり。
魔を学びし者は、魔に試されん。
剣を学びし者は、剣に裁かれん。
知を積みし者は、知に呑まれん。
逃れ得ぬは理。
抗い得ぬは記録。
覆せぬは選定。
されば誓え。
ここに膝を折り、頭を垂れ、声を合わせよ。
強き者は残れ。
弱き者は消えよ。
名を辱める者は滅びよ。
選ばれし者は、最後まで戦い抜け」
司教は聖典を閉じ、長い息を吐いた。
そして両腕を大きく広げ、雷鳴のような声で叫ぶ。
「──天に在す理よ、見届け給え!
ここに集いし数百の若き魂を!
汝らの筆にて書き記し、
残す者と、消ゆる者を、分け隔て給え!」
長々と続いた御経がようやく終わる。
講堂の空気は凍り付き、誰もが膝を突き、青ざめていた。
そして鐘が鳴る。
ようやく次の儀式──校長の挨拶が始まる。
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黒衣の老人──学園長は、壇上から大講堂を睥睨した。
瞳は氷のように冷たく、声は澄んでいながらも無慈悲に響く。
「──新入生諸君。ここに立つこと、それ自体は誉れである。だが勘違いするな。
この学園は“未来を約束された楽園”ではない。
むしろ逆。“選別の場”だ」
彼の言葉は、千余名の胸に杭のように突き刺さった。
「私は数十年、この学園を見守ってきた。
その間に何百、何千もの若者が門をくぐった。
だが──最後まで辿り着いた者は一握りに過ぎぬ」
杖の先が壇を叩き、重々しい音が鳴る。
「三年前、最下位の少年は課題を果たせず、夜明けとともに首を吊った。
五年前、剣術で劣った貴族子弟は仲間に庇われて恥を晒し、家から追放された。
十年前、魔力の制御を誤った少女は実験棟を吹き飛ばし、同輩に切り捨てられた。
彼女は退学後、名も無き奉公人として市場に沈んでいる」
老人は一拍の沈黙を置き──口元を吊り上げて笑った。
「……面白いと思わぬか?
これらは全て、己が弱さゆえの結末だ。
だが、誰もそれを“不幸”とは呼ばぬ。
“当然”だからだ。
強き者は生き、弱き者は淘汰される。自然の理に従っただけの話よ」
その笑みは悪役そのものだった。だが語られる内容は、紛れもなく揺るぎない現実。
「私は忠告する。
──この学園で“仲間に縋るな”。
“情け”を乞うな。
“甘え”た瞬間、最も残酷に裏切られる。
己の力のみを信じ、磨き続けよ。
それができぬ者は、ただ落ちろ。
去ることもできぬなら──死ぬまで競え」
言葉が大講堂を貫いた瞬間。
前列の新入生の肩が震え、奥で息を呑む声が漏れる。
「……うそだろ……」「死ぬまで……?」と小声が走り、顔色を失った者がいくつもいた。
だが、壇の左右に並ぶ教員や上級生たちは表情一つ動かさない。
むしろ、その光景を当然のように受け止めている。
──大人たちは平然としている。
揺らいでいるのは、新入生たちだけだった。
老人はその光景を満足げに眺めると、低く笑いを残して壇を降りた。
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やがて司会役の教師が名前を読み上げた。
「──新入生代表、アルベルト=フォーラ=レーンハルト」
壇上に現れたのは、金髪碧眼の少年。
貴族風の整った制服を着こなし、堂々と歩を進める。
「新入生代表として、我らは誓います。
この学び舎において、己を磨き、仲間を尊び、帝国の礎たらんことを」
模範的で立派な答辞だった。
だが、さきほどの校長の演説で心を折られていた新入生たちには、その声は届いていない。
(……すげぇなあの人。絶対ただ者じゃない)
【要注意人物リストに追加しておきます】
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ついに、オレの番が来た。
「──特別紹介、新入生。カイン=アストレイア=フォルシオン」
壇上に上げられ、オレは全校生徒の視線に晒された。
(や、やべぇ……心臓が飛び出そう)
教師が延々と経歴を読み上げる。
「神名持ちとして誕生──幼少期より観測者の才覚を示し──帝都学園に飛び級入学──」
次々と誇張混じりの肩書が並べられる。
(いやいやいや、話盛りすぎだろ!)
【公的文書ですので“盛られている”のではなく“美化”されています】
(どっちでも同じだろ!? 恥ずかしいんだよ!)
視線の嵐に晒され、汗が背中を伝う。
足は震え、頭はクラクラ。
ようやく紹介が終わったとき、オレの体力は半分以上削れていた。
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校長が最後に言い放つ。
「──以上だ。生き残りたければ、己を鍛えろ」
そう言い残し、黒いローブを翻して去っていった。
残された新入生たちは、誰もが不安と恐怖に顔を曇らせていた。
心を折られたように、声を失っている。
(……マジで戦場の始まりって感じだな)
【はい。ここからが本当の“帝国学園編”です】
オレは深く息をつき、握りしめた拳を見つめた。
──観測者としての旅路は、今、始まった。
司教の御経は、二時間くらいだと思って下さい。
本文は、かなり略されています。
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次回更新予定日、11月1日。
理由:体調不良が続いているから。
申し訳ありません。10月末日まで休ませて頂きます。
でも、今後も執筆を続けていく所存です。
次回更新をお楽しみに!




