第十八話 後見人ライナルト
───帝国学園への入学が決まり、護衛と後見人も選定されたカイン。
その次なる舞台は──後見人ライナルトの屋敷だった。
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帝都の北側、軍人街と呼ばれる一角に、ライナルトの屋敷はあった。
華美な装飾はなく、石造りの質実剛健な建物。
門の前には、帝国軍の旧式紋章が刻まれている。
馬車が止まり、扉が開く。
「……ここが、ライナルトさんの家か」
カインは護衛の斧戦士と魔導師に挟まれながら、門をくぐる。
【カイン様、緊張してますか?】
(そりゃするだろ。軍人の家だぞ?)
【ご安心ください。ライナルト様は“誠実”の塊です。怖いのは見た目だけです】
(それが一番怖いんだよ……)
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屋敷の中は、まるで訓練施設のようだった。
廊下には剣や槍が並び、壁には戦術地図。
書斎には帝国軍の戦史がぎっしりと並んでいる。
ライナルトは、カインを迎えると、静かに頭を下げた。
「ようこそ。今日から、私の屋敷が君の“学園前線基地”になる」
「前線基地……?」
「学園は戦場だ。君は情報を集め、縁を繋ぎ、家を守る。
そのためには、ここで戦術を学び、心を鍛える必要がある」
【カイン様、これは“軍式家庭教師”の予感です】
(うわぁ……)
その日から、カインの“学園準備生活”が始まった。
- 朝:ライナルトによる帝国史と戦術講義
- 昼:魔導師による生活訓練(洗濯・料理・礼儀作法)
- 夕:斧戦士による体力訓練(筋トレ・剣術・逃げ足強化)
【カイン様、逃げ足の強化は“修道女対策”にも有効です】
(なんでまだその話引きずってんだよ!)
そして、夜。
ライナルトはカインに一冊の手帳を渡す。
「これは“観測記録帳”。学園で得た情報、人間関係、気づいたこと──すべて記録するんだ」
「……これって、スパイ活動じゃ……」
「違う。“観測者”の仕事だ。君は神名を持つ者。
ならば、世界を測り、記録し、未来に繋げる責務がある」
【カイン様、これは“観測者としての第一任務”です】
(……わかった。やってみるよ)
こうして、カインは後見人ライナルトの屋敷で、
“観測者”としての第一歩を踏み出した。
帝国学園への入学は、もうすぐ。
その日を前に、少年は静かに──そして確かに、成長していく。
次に訪れるのは、帝都学園の門──
そして、世界の理を観測する日々の始まりだった。
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───帝国学園寮・東棟、入学式前日。
カイン=アストレイア=フォルシオンは、深緑の制服に袖を通しながら、窓の外を見つめていた。
帝都の空は澄み渡り、遠くに白亜の講堂が見える。明日、あの場所で入学式が行われる。
部屋は質素だが清潔で、机とベッド、そして小さな本棚が備えられている。
ライナルトの屋敷での訓練生活から一転、ここは“学び舎”としての静けさがあった。
【カイン様、寮の環境はどうですか?】
(……静かすぎて逆に落ち着かない)
【それは“嵐の前の静けさ”というやつです】
(やめろ、怖い)
護衛の魔導師は隣室に滞在しており、斧戦士は寮の外で待機中。
後見人ライナルトは、学園の管理局に挨拶へ向かっていた。
──つまり、今この部屋には、カインとサブだけ。
「……明日から、始まるんだな」
【はい。帝国学園は、知と力の交差点。カイン様の“観測者”としての旅路も、ここから本格化します】
(観測者って、結局何を観測するんだろうな)
【“世界の理”です。人の心、魔法の構造、魂の位相、そして──神の干渉】
(……重すぎるだろ)
【でも、カイン様は“神名持ち”です。背負うには、理由があるはずです】
カインは、机の上に置かれた“観測記録帳”を手に取る。
ライナルトから渡された、革表紙の手帳。中はまだ白紙だ。
(……明日、最初の一行を書こう)
【それが、“始まり”になります】
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夜。寮の灯りが落ち、静寂が訪れる。
カインはベッドに横たわり、目を閉じる。
その耳元に、サブの声が優しく響く。
【カイン様、入学式の流れを確認しますか?】
(……頼む)
【式典は午前九時開始。開式の鐘、神官による祝詞、学園長の演説、魂名持ちの紹介、そして入学宣誓──】
(魂名持ちの紹介って、俺が壇上に立つやつだよな)
【はい。帝国史上五人目の神名持ちとして、注目されることになります】
(……胃薬、持ってる?)
【三種類、常備済みです】
(ありがとう)
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翌朝。帝国学園講堂前。
白亜の建物の前には、数百人の新入生が集まっていた。
貴族の子弟、魔導師志望の平民、獣人の少年──多種多様な顔ぶれ。
カインは、深緑の礼服を整えながら、講堂の扉を見つめる。
「……行こう」
【カイン様、堂々と。あなたは“観測者”です】
講堂の扉が開かれ、光が差し込む。
その瞬間──帝国学園編、開幕。
カインの物語は、ここから新たな章へと進む。
10分後に振り返り話を更新!
読まなくても良いですよ〜。
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第一章完結。