第十四話 護衛兼世話役 候補者面接
フォルシオン家応接間にて。
重苦しい空気の中、カインは椅子に深く腰掛け、向かいのフェリスを見た。
「護衛兼世話役は二名。片方は武力に秀でた者、もう片方は生活支援に優れた者を選ぶ。そして後見人は、一名。学園での後ろ盾及び保護者だ。 ……選び方次第で、お前の未来は大きく変わることだろう。」
(影の父ってやつだな。……正直、父親は一人で十分なのだが。)
【フェリスは実父より怖い存在ですから。損はしません!】
(いやいやいや!!怖い父親二人とか地獄絵図でしか無いわっっ!!)
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その日の昼食後。
候補者面談が始まった。
最初に現れたのは剣士上がりの女傭兵。ドアを乱暴に蹴ってのご入場。
肩まで伸ばした茶色がかった黒髪を一纏めに結び、腰には分厚い剣。そして、鋭い眼光。
「任せときな。ガキの首一つ、誰にも触らせやしないさ」
(言い方ァァッ!)
【ご安心下さいカイン様。今のは“守る”という意味の比喩です。】
(だからぁ、その物騒な比喩やめろって!)
【解説です。前衛アタッカー型。高火力&高リスク。口調に難あり】
(多分、【口調難あり】の割合が大きいよね)
次に入ってきたのは、にこやかな魔導師。
白いローブを着ているが、手には料理用の布巾を握っている。
「食事に洗濯、料理も大丈夫です。あ、魔獣とかが出たら護衛さん呼びますね、私、後衛職なので。」
(お前が前で戦えよっ!)
【万能型……と見せかけた生活支援特化型ですね。戦闘力は限定的ですが、家事スキルはSランクです】
三人目は、巨体の斧戦士。
分厚い鎧をガチャリと鳴らし、床がミシミシと軋む。
「ガキの命は、オレの筋肉が守る!」
(筋肉は盾じゃねぇんだよ!)
【いえ、実際に盾より分厚いかもしれません。】
(それはそれで納得したくない)
【再び解説。タンク型。物理防御力A。発言は脳筋よりです】
四人目は、妙に影の薄い青年。
入室したのに誰にも気づかず、フェリスが書類を見て初めて存在に気がついた程だ。
「……潜入と暗殺、得意です。」
(護衛って言ったよね。……暗殺!?)
【決してカイン様ではなく“敵を”という意味です】
(わざわざ言うなぁぁぁぁっっ!)
五人目は無表情の修道女。
白衣の袖を揺らし、静かに告げた。
「祈りで癒やし、祈りで眠らせます。何人でも。」
(これって、───味方も……だよね)
【オールレンジ対応ですね】
(こいつこそ、使い方間違えたら即アウトだろ!)
「……眠らせるのは、敵だけにしておけ。」
「心得ました。」
流石のフェリスでも、そこは釘を刺していた。
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そんな感じで候補者五人が揃い、応接間は一気に賑やか……というか、“混沌状態”になった。
剣士と斧戦士は「どっちが盾に相応しいか」で火花を散らし、
魔導師は「洗濯板の場所は何処ですか?」とフェリスに真顔で尋ね、
修道女は、全員に「今夜は眠れるよう祈っておきますね」と、無表情で告げて、場の空気を凍らせ、
暗殺者は、既に何処かへ消えていた。
(なぁ、サブ。 なんで“護衛”って言葉の定義こんなにバラバラなんだ?)
【帝国あるあるです】
(あるあるで済ますなぁぁ!)
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フェリスは羊皮紙をパタンと閉じ、候補者たちの喧騒を一瞬で黙らせ、淡々と告げた。
「二名に絞れ。期限は明日の朝だ。」
この短い一言に、剣士も斧戦士も口を閉じる。
圧が凄すぎて、修道女でさえ無音で頷いていた。
オレは、その場で頭を抱えた。
(サブ、オレ、明日までに胃に穴空きそう……)
【大丈夫ですよ。最悪、修道女様に“永眠”を祈られるだけです。】
(縁起でもねぇぇぇぇぇぇ!!)