第十二話 入学準備 1 「フェリス」
「……で、話って何?」
俺オレの部屋、カーペットの上に座ったフェリスは、カインを一瞥し、手に持っていた羊皮紙を指で叩いた。
「お前は、自分で───己の意思で“行く”と言った。間違いないな。」
「……言ったよ。」
「それでは、改めて聞こう。お前は何故、何の為に、学園に行きたい?」
正面からの問いだった。
曖昧な逃げ道も、用意してくれはしなかった。
(サブ、フォロー頼む。)
【“自分の言葉”で言わないと、信用されませんよ?】
(鬼かっ!!)
【いえいえ、フェリスに比べれば……】
(まぁいいや、ちょっと、黙ってて。)
カインは、一呼吸置いてから正々堂々返す。
「兄さんは今、母上の手伝いで商会を動かすことが出来てるよね。オレもそんなふうになりたいんだ」
「ふむ……」
フェリスは少しだけ目を細めた。
「それだけでは足りんな。」
「えっ?」
「帝国学園は、国の上層部の箱庭だ。そんな危険地帯に神名持ちのお前がそんな理由で行くと、間違いなくオモチャにされる。
もっと正当な理由を出せ。いいか、これはお前の為であり、家の益にも影響することだ。
何よりも、普通は学力試験を八歳と九歳でそれぞれ受けた上で、面接。それでやっと入学出来る。つまり、周りは全員十歳だ。
お前の今の考え方では、私が迷惑を被る。学園は、ただの学び舎ではない」
フェリスは自分のこれまでを語ってきたかのようだった。
(サブ、帝国学園の風景とか景色とかってフェリスから読み取れる?)
【読み取り開始。本日の夜、就寝時にお知らせします。】
これで、一安心。
【ただし、夢にうなされる覚悟はしておいて下さい。】
(おい待て、どんな場所なんだよ?!!)
「……まぁいい。理由は追々固めろ。母上には私からも話しておく。」
フェリスは羊皮紙を畳み、立ち上がる。
その背中は、兄というよりも家の代表者のそれだった。
「お前が学園で何を得るかは、家の未来にも関わる。遊び半分で足を踏み入れるな。」
そう言い残し、扉を開けて去っていく。
廊下の足音が遠ざかるにつれ、部屋の空気が軽くなる。
(なんとか終わった……か?)
【いえ、これからが本番になります。】
(何が……?)
【学園入学の準備です。書類、推薦状、入学直後のクラス分け試験……あっ、あと新しい衣服も】
(服?)
【はい。帝国学園は制服のようなものがありません。つまり、第一印象は“服装”で決まります。フェリスよりかっこよくするチャンスです。】
(…余計な火種を持ち込むな!!)
【冗談です。フェリスの黒歴史を避けるためにも慎重に選びましょう】
(黒歴史……??)
【おっ、ログを確認しますか?】
(いやヤメロ。絶対にろくなことじゃないだろ!)
そんなやり取りをしているうちに、胸の奥の緊張が少しずつ解けていった。
だが、帝国学園への道は、思った以上に険しいらしい。
そしてその険しさを、このあとの夢で知ることになるとは、この時はまだ知らなかった。
次回へ続く。