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噂の仮面舞踏会


Mission1: 財前 麗子 を堕とせ


俺の名前は 西園寺 壮一郎。今日は世界的に有名な財前グループの総帥、財前 清太郎主催の仮面舞踏会に来ている。

Mission1を成し遂げるために。



父の会社である西園寺重工は日本の三大重工業の一つと呼ばれ、この間創立百周年を迎えた大企業だ。俺は父の跡を継いで次期社長になる男。


「おい馬鹿息子。今度、港区にある財前邸で仮面舞踏会が開かれるらしい。必ず出席しろ。そこに財前グループの総帥、財前 清太郎のひとり娘 財前 麗子さんも出席するそうだ。」

「えっ!あの公の場に一切姿を見せないという、絶世の美女と噂のお嬢様が?!

ってその前に!いつになったらその馬鹿息子って呼び方変えてくれるんだよ!」

しかめっ面の壮一郎を無視して、父親は続けた。

「会場はきっと、そのお嬢様さまの取り合いだろう。お前も仲良くなっとけよ。財前家との関係が良好であればあるほど、色々と得だからな。」

「分かったよ父さん!俺に任せて!ハンサム色男なこの僕が、高嶺のお嬢を堕としてみせます!!」

「恋愛対象にまでしろとは言ってないぞ、、、大丈夫か、。馬鹿息子よ、、。」

父親の心配もよそに壮一郎はやる気満々であった。


港区の某所にあるレンガ造りのクラッシックな豪邸。壮一郎は眼が隠れるベネチアンマスクと、スタイルの良さが際立つ藍色の燕尾服を着て、財前邸の大きな門をくぐった。


大広間は色とりどりなドレスと、燕尾服かタキシードを着た高貴な人々で溢れかえっていた。

大広間の中心で音楽に合わせてワルツを踊っている男女。

ワインを飲みながらそれぞれに談笑が弾んでいる婦人達。


久しぶりだ。こんな高揚感は。

だが、忘れるな俺!今日は父上から大事なミッションを賜っているんだ!

なりきれ!

今日だけ俺は、

エージェントSOUICHIRO...


必ずミッションを成功させ、財前グループ総帥のひとり娘、財前 麗子を堕とす!

「やぁやぁ、ご無沙汰しております西園寺殿。今日も一段と輝いておられる。仮面を着けていても美しさは隠しきれていませんな。」

マスクをしているので一瞬誰か分からなかったが、声で分かった。

ワイングラスを片手に話しかけて来たのは速水モータースの御曹司である速水 圭 。壮一郎より八歳年上だ。

「どうも、速水さん。楽しんでおられますか?」

壮一郎はここぞとばかりにカッコつけて言った。その発言や美しい所作からはいつもの馬鹿さかげんは垣間見えない。その為、壮一郎を優秀な西園寺家のご子息。と思っている者たちも多い。

「えぇ、楽しんでいますよ。ところで、財前 麗子殿がこのパーティーにきている様ですね。もうお会いになりましたか?」

「いいえ、まだ。」

「そうですか、私もです。噂によると今宵は真紅のドレスを召していらっしゃる様ですが、、、」

真紅のドレスか。会場に入ってまだそのようなものを着た者には出会っていない。

「では、私はこれで失礼を。今宵は大いに楽しみましょう。」

速水 圭は壮一郎に一礼して去って行った。

壮一郎はマスクの下に微笑を浮かべ、会場をぐるぐると徘徊しながら真紅のドレスを探した。

ターゲット発見。

壮一郎はスパイになりきっていた。俺のミッション成功に西園寺家の命運がかかっているのだ!と。

真紅のドレスを着た財前 麗子は、数人に囲まれながら裏庭で談笑をしていた。マスクの下からスッと筋の通った高く鋭い鼻。歯並びの良い真っ白な歯。

噂通りの美人だ。

         俺にピッタリ!

壮一郎は偶然を装い裏庭に出て、後ろ歩きで麗子に近づく。

「おっと、これは失礼。大丈夫でしたか?」

これぞ、秘伝の技!

後ろ歩き肩中ぶつけ作戦!!

「えぇ、大丈夫よ、」

すかさず麗子の手を取り甲にキスをした。

「お許しください。マドモアゼル。」

いつもより低い落ち着いた声を出してみせた。色男の壮一郎には声音を調整するなどお手の物だ。

「お美しい。よもや、財前清太郎殿のお嬢様でいらっしゃいますか?」

直球の質問に

「さぁ、どうでしょう?」

といたずらに笑った麗子。

恋に堕とす前に堕とされるぞ俺!しっかりしろ!薔薇のように綺麗な美女を前に、壮一郎は生まれて初めて女に惚れそうになった。

「貴方もとてもハンサムな方ね、どちら様?」

キタキター!この質問だよ!

「申し遅れました。私は西園寺重工の西園寺 壮一郎で御座います。」

「では、貴方のお父上はあの西園寺 純一様でいらっしゃるのですね!尊敬いたしますわ!」

「いえいえ、そんな!財前グループ様に比べればうちなど大したことはありません。」

謙遜した言葉とは裏腹に壮一郎の顔はどんなもんだい!と言っている。

良い雰囲気になってきたところで壮一郎がきりだした。

「是非、私と一緒にワルツでも?」

とびっきりの色気を醸し出して言った壮一郎だったが、麗子は困った顔をした。

「ごめんなさい、先約がございますの。またの機会に。」


生まれて初めてダンスを断られ、壮一郎は動揺していた。

この俺が、ダンスを断られた?!ハンサム色男にそんな事が起きていいのか?!

「おい!そこのウェイター、ワインを」

お盆の上からワイングラスを乱暴にとって一気に飲み干した。空のワイングラスをウェイターに押し付けるよう渡して壁にもたれ、景色をぼーっと眺めた。大広間の中心では皆の注目を集めて麗子と速水 圭が踊っていた。

あぁ、こんなはずじゃ無かったのに。

自棄酒がおよそワインボトル1本分に差し掛かった頃、

「あの、一緒にダンスを踊っていただけませんか?」

壮一郎の知らない顔だ。

身長150センチほど。鼻は低く団子っ鼻でおちょぼ口。黄色いドレスと真っ赤な口紅を合わせてるところがナンセンス。

「イヤだね、誰がお前なんかと。」

「えっ?」

小声で言ったつもりの壮一郎の言葉がちゃんと聞こえていたのだろう。声が上擦っていた。

悪酔いした壮一郎は勇気を出して話しかけて来た女にさらなる追い討ちをかけた。

「だから、高嶺の花にしかキョーミねぇーのよ俺は!お前誰だ?西園寺重工 次期社長に釣り合うのか?」

「私は、、私は、、」

「名乗れもしないのか?ふん、そんな分際で俺様を誘うなんて傲慢なやつだな。」

女は何かを吹っ切ったように

「そうですか、」

と頷いた。

「身の程も弁えず、失礼いたしました。」

「分かればいい。」

女は壮一郎に一礼して去っていった。

はぁ、どいつもこいつも。



「お集まりの皆様。こんばんは。仮面舞踏会は楽しんで頂けましたでしょうか?」

そう言って舞台に立ったのは、マスクを外した財前 清太郎。

「私事で恐縮ですが、今宵は皆様に愛娘を紹介したいのです。」

壮一郎に残されたチャンスは、スピーチが終わって清太郎と麗子二人揃って行う最後の挨拶回りのときだけだ。

そこで挽回しなくては!!

壮一郎は香水を全身に振りかけて、失われた自信を取り戻すために

「俺はすごい!俺はできる!なぜなら俺は神だから!」

と、わけの分からないことを心の中で繰り返す。


「それではご紹介致します。我が娘、財前 麗子です。」

登場してきた女に壮一郎は仰天した。

黄色いドレスの女だった。

「皆様はじめまして。財前 清太郎の娘、財前 麗子でございます。」

両手でスカートの裾を軽く持ち上げて礼をした女は、さっき壮一郎が存分に罵った相手だった。

真紅のドレスの女じゃなかったのか?!よりにもよってあの女だなんて!

どうしてあんな事を言ってしまったんだ、、、。

壮一郎は後悔した。だが、まだ挽回できるかもしれない。壮一郎は諦めていなかった。

最後の挨拶回り。

「壮一郎くん。久しぶりだね。」

清太郎が親しげに壮一郎の肩に手を置いた。

「ご無沙汰しております。」

「先程はどうも。」

壮一郎が言い終わるより先に麗子が被してきた。

「なんだ、もうお互い知ってたのか。」

と少し驚いて清太郎が言った。

「麗子殿。先程は酔っ払っていたとはいえ、とんだご無礼を致しました。是非私とダンスを、、、。」

壮一郎はすがるような思いで麗子の反応を待つ。

そんな壮一郎を麗子は憐れむような目で見つめて言った。


「傲慢な方ですね、」

そう言った麗子の声は冷たかった。

          mission failed...

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