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第一章7  『精霊術と式術』

「す、凄い……ほんとに、できちゃった……」


 ──自身の掌と、氷の結晶が霧散していった虚空を交互に眺めながら、ルカは驚愕と微かな興奮に震えていた。

 これが、精霊術。魔法にも等しい超常現象の類。これまでは漫画やアニメの中でしか存在しなかった架空の異能が、この自分にも使えたのだ。

 もっとも使えたと言っても、それは本当に数秒の出来事でしかなかったのだが。


「驚いたか? 今、そなたは微精霊達から霊力を与えられ、それを精霊術という形で顕現させてみせたのだ。その感覚を忘れるな。それさえ自分の中で把握しておけば、精霊術は自然と身に付くようになる」


「──」


 ルカの心臓はまだ高揚に鼓動を速めていた。

 目の前のヤクモの言葉さえ、あまり頭の中に入ってこない。それほどまでに、ある種の感動さえ覚えていた。

 そんなルカの様子に笑みを浮かべるヤクモは、「それにしても……」と自身の顎に手を添える。


「そなたは氷属性の使い手じゃったか。初心者故に、術の練度が低いのは致し方ないが……向上の余地は十分にありそうじゃの」


「氷属性……?」


 首を傾げるルカに、ヤクモは続ける。


「うむ。精霊術は四つの属性に分類することができる。炎、氷、土、風──そして術者によって、その適応属性は異なるんじゃ。故に使う人間によって、発動する属性が変わる。そなたの場合、それが氷だったということじゃな」


「……へぇ。じゃあヤクモは、それで言うと何属性なの?」


「我か? 我の場合は風じゃ。四大霊座とは即ち、このシルフィアで最も優れた精霊術の属性の使い手──その四人を指すもの。『風』の四大霊座、『疾風の子』ヤクモ・トウゲンとは、この我のことよ」


 誇らしげな笑みを浮かべながら、ヤクモはルカを見据えてそう宣言する。

 つまりこの国では、彼以上の風属性の精霊術の使い手は存在しないらしい。

 その実力を実際にこの目で見たわけではないが、おそらくそれは真実なのだろう。

 そうでなければ、このリビアス王家の守護者には選ばれないのだから。


「……ヤクモは凄い人なんだね。あなたみたいな精霊術の使い手から、こうやって直接指導を受けることができてる。──改めて、ありがとう」


 大公であるロディアの護衛を務め、さらには各使用人への精霊術の指導も行っている。

 そんな忙しい中、こうして自分に時間を割いてくれている彼に対しては、正しく感謝を伝えるべきだと思った。

 そんなルカに対して何を思ったのか、ヤクモは彼女から目を逸らす。


「……よせ。別に感謝されるほどのことはしていない。それより、そなたには話しておくことがある。──()()()()についてじゃ」


「……霊力切れ?」


「うむ。先ほども言ったが、我らは微精霊から霊力を受け取り、それを糧にして精霊術を発動する。じゃが、霊力は微精霊の根源である生命力そのもの──したがって、何度も連続して精霊術を発動すれば、いずれ周囲の微精霊は霊力を使い切る寸前の状態になってしまう。その時点で微精霊は自身の存在を保つため、人間に霊力を分け与えることを自重するようになるんじゃ。──これを、霊力切れと呼ぶ」


「……つまり、人間は精霊術を使えなくなるってこと?」


「その通り。これも先ほど言ったが、人間は自力で霊力を吸収することはできない。周囲の微精霊の体内に霊力が残っていなければ、人間は精霊術など使えぬからな。……じゃが、それはあくまでも一時的な話。時間が経過すれば、微精霊は再び霊力を取り戻し、人間もまた精霊術を扱えるようになる」


「なるほど……大体わかってきたかも。でもそう考えると、人間がここまでの特殊な力を使えるのは、完全に微精霊頼りなんだね」


 ──この大気中に霊力が存在し、それを土台にして精霊術を発動できると言っても、微精霊がいなければ叶わないのだ。

 彼らという『霊力の橋渡し役』がいて初めて、人間は精霊術という人智を超えた奇跡を生み出せる。

 加えて人間の肉眼では、微精霊も霊力も観測できないのだ。そう考えると、ある種の無力感さえ覚えてくる。


 しかしそんなルカの感想に、ヤクモは首を小さく横に振るのだった。


「まあ、人間が特殊な力として扱えるのは、なにも精霊術だけとは限らないがの」


「えっ?」


「その様子じゃと、やはりルカ殿は知らぬか。──式術(しきじゅつ)、という言葉を聞いたことはないか?」


「しきじゅつ……?」


 当然だが、学んでいないこの世界特有の専門用語である以上、ルカには知る由もない。

 名前的に、精霊術とは別の系統の戦術を指す単語のようだが──。


「よいよい。知らぬのなら教えるまでじゃ。この大気中には霊力とは別に、()()という不可視の物質も存在している。式術とは、その式素を()()()()()()()()()()()()()戦術を指す」


「人間自ら……? じゃあ、微精霊の橋渡しは必要ないの?」


「うむ。そこが、精霊術と式術の決定的な違いじゃ。霊力が微精霊の生命力なら、式素は人間の生命力と言っても過言ではない。つまり、何が言いたいかわかるか?」


 そこで唐突に問いかけてくるヤクモに、ルカは「えっ?」と少しだけ困惑した様子を晒す。

 そうして数秒の時間をかけ、やがてルカは思考した結果を口にするのだった。


「……えっと、つまり何度も連続して式術を発動すれば、霊力切れみたいな状態を起こすってこと?」


 その回答にヤクモは「うむ」と頷くと、その先を補足するのだった。


「──()()()()、と呼ぶ。ただし霊力切れと異なるのは、式素切れは人間に疲弊や眩暈といった、直接的な被害を齎すところにある。霊力切れは霊力を使い切った微精霊に対して起こる現象じゃが、式素切れは人間が起こす現象じゃからな」


「ふぅん……式術も精霊術と同じように、四つの属性がある異能ってこと?」


 そのルカの問いに、ヤクモは首を横に振る。


「いいや、式術の効果はそれこそ様々じゃ。瞬間移動を可能とするもの、空を飛べるもの、怪力を発動するもの、身体能力を向上させるもの──挙げればキリがない。しかし一つ言えるのは、式術は紛れもなく、人間が自らの力によって生み出す人智を超えた奇跡ということじゃな」


 ──確かに、それが本当ならその通りだ。

 ルカはてっきり、人間は微精霊の性質に依存したやり方でしか異能を発揮できないとばかり思っていた。

 だが、それは誤りだと認める他ない。式術という方法を用いれば、人間は自力で奇跡を紡ぐことができる──。


「じゃが、式術は人間の肉体で扱うには荷が重い。中にはその恩恵を受けることと引き換えに、()()()()()()を負う者も存在する」


「何らかの痛手……それも、人によって色々違うの?」


「うむ。痛手の有無、内容、程度──そのすべてが様々じゃ。本当に最悪の場合は、式術を持ち合わせているというだけで命を落とす者もおる。……もっとも、これでは恩恵というより、悪質極まりない呪いと表現した方が適切じゃろうがの」


 確かに、それは難儀なことだ。

 精霊術を使用するには精霊の手助けが必要となり、自力で式術を使用するにはそういった『痛手』と向き合う必要がある。

 ルカのイメージにある、なんでも自由自在に力を振るえる童話の魔法使いのようには、なかなか上手くいかないらしい。


「じゃあ……もしかして私にも、その式術って使えたりするの?」


 微かな期待を秘めて尋ねる。

 微弱とは言え、自分は紛れもなく精霊術を発動できたのだ。だとするなら、その式術とやらも発揮できるかもしれない。

 しかしヤクモはそれに対して肩を竦め、「どうじゃろうな……」と零すのだった。


「精霊術と同じく、式術も扱える者とそうでない者がおるからのう。ただ、式術をその身に宿す者は、自身がどういった能力を所有しているのかを自覚することができる。──そなたはどうじゃ?」


「えっ? そう言われると……ない、かな?」


「そうか。それならば、そういうことじゃ。そして式術は精霊術と異なり、鍛錬で修得できるものとは違う。人間の強い意志や目的意識によって授かる奇跡の力じゃ。つまり、後天的に手に入れられる可能性は十分に残っておるがな」


「強い意志や、目的意識……ねぇ」


 それが具体的にどういったものを指すのかはいまいち掴めないが、現時点で理解できるのは、自分には式術の持ち合わせがないということ。

 もっとも、それが使えないからと言って、特に何か不都合があるわけではない。

 精霊術という人智を超えた奇跡を生み出せたのだ。それ以上を望むのは強欲というもの。


「つまり人間は精霊に頼らずとも、自らの意思によって奇跡の力を発揮できるというわけじゃ。精霊だけが特別な存在というわけではない。それに、そもそも精霊にだって()()はあるからのう」


「……欠点?」


 ルカが首を傾げると、ヤクモは続ける。


「うむ。微精霊は体内に霊力を蓄えて生命を保つが、稀にその霊力量が溢れ返るほどに増加することがある。それによって微精霊は可視化できるほどに巨大化し、理性を失った異形の化け物と化すことがあるんじゃよ。──その異形を人は、霊獣(れいじゅう)と呼ぶ」


「霊獣……」


「霊獣に変化した精霊は、二度とその姿を元に戻すことはできん。人間に害を与える化け物としてしか存在できないんじゃ。……もっとも、そんなことは稀にしか起きないがの」


「──」


「兎角、そなたに精霊術の適性があることはわかった。今後は我が指導してやろう。鍛錬を続けさえすれば、いずれはそなたも精霊術をより形にすることができるはずじゃ」


「現状、私の精霊術だとすぐに消えちゃうしね……うん、わかった。改めてありがとうね、ヤクモ。これからよろしくお願いします」


「うむ。今後も仕事の空き時間にここに来るがよい。ひとまずは、今日の鍛錬を続けるとしよう」


 ──そうしてルカはヤクモの指導の上で、精霊術の鍛錬を続けるのだった。

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