第一章16 『決着の指し手』
──屋根上を駆け抜ける両者の刃が、殺意の軌跡を描き合いながら虚空を舞う。
フェリアと同じく『暗闇の式術』を発動したグリードの速度は、手練の暗殺者と互角に渡り合えるほどに常軌を逸していた。
とてもではないが目で追えない。視界で捉えようとすれば、そこにあるのは残像のみ。
しかしグリードの見せた『模倣の式術』による脅威は、この戦況を一気に変えてくれた。
フェリアは次第に式素を失いつつある。このまま時間稼ぎさえできれば、いずれ彼女は式素切れに陥るだろう。
そうすれば『暗闇の式術』は発動不可となり、フェリアは昼間の状態に逆戻りする。
だからこそ、ここで手を休めてはならないのだ。
「総員、グリード秘書を援護しろ! 今ここで、確実に暗がり魔を拘束するッ!」
「「はっ──!」」
隊長であるアルトの指示に、騎士達は声を揃えて応じる。
炎、氷、土、風──あらゆる属性の精霊術が、虚空を撃ち抜いてフェリアを目指す。
「これは、少しばかり面倒ですね」
左手のククリナイフで、グリードの短剣を受け止めるフェリア。
しかしそれによって、フェリアの右半身はがら空きだ。そこに容赦なく叩き込まれる騎士達の総攻撃。
もはや回避は間に合わない。命中という選択肢しか残されていないフェリアだったが──
「やむを得ません」
一言零し、彼女は懐に右手を入れ、そこからもう一本のククリナイフを取り出す。
そうして正面のグリードの動きを封じ込めたまま、右手のククリナイフにて精霊術による攻撃を捌いてみせた。
「なっ……!?」
騎士の一人が驚愕の声を零す。
無理もない。フェリアは昨夜の戦闘時に、ルカの精霊術を受けて右腕を負傷しているのだ。
にも関わらず、彼女は平然と右手を常時と同じように使いこなしてみせた。
グリードを後退させ、フェリアは嗤う。そして語った。
「本来であれば、私の右腕は重傷を負って使い物になりませんが……『暗闇の式術』を発動している際は、それすらも克服してしまうんですよ。──驚かれましたか?」
「くっ……!」
嬉々として語るフェリアに、グリードは一瞬だけ呆気に取られてしまう。
しかし即座に余計な思考を振り払い、空いたフェリアの腰に勢いよく蹴りを入れる。
『暗闇の式術』を模倣して手に入れたその脚力は、暗殺者の華奢な体躯を軽々と地面目掛けて叩き落としていた。
足場を抉りながら後退するフェリアは、両手のククリナイフを地面に突き刺してブレーキとし、その勢いを殺す。
そうして目の前に立ち尽くす獲物達を眺めて、悠然と嗤うのだった。
「さて、どうしますか? この力の前では、あなた方の剣術も、精霊術も、そのすべてが等しく無力。このまま体力が尽きるまで、無意味な抵抗を繰り返しますか?」
「「──」」
押し黙る騎士達の沈黙が痛い。
悔しいが、彼女の言葉を否定するのは難しい。すでに精霊術を連続して使用した騎士達は、揃って霊力切れが近づきつつある。
だがそれは、式術を発動して戦うフェリアにも言えることだ。
彼女は彼女で『暗闇の式術』を維持するために、大気中の式素を取り込んで動いている。
つまりそれは、彼女もまた式素切れというリスクを背負って戦っているということ。
そしてその場合は、直接的に自身の体に負荷が掛かる式素切れの方が、その代償は大きい。
精霊術であれば周囲の精霊が疲弊するだけで済むが、式術の場合はそうはいかないのだ。
だが、おかしい。
『暗闇の式術』を発動してかなりの時間が経っているが、フェリアは一向に疲弊したような様子を見せない。
式素切れまでの時間には多少の個人差があるが、それにしても違和感を覚えるほどに、フェリアは未だ有り余るほどの体力を誇示している。
誰もがそれに対する不信感を抱く中、その視線を一身に受けるフェリアは、肩を竦めながら口を開くのだった。
「式素切れによる疲弊──それを私に期待しているのなら、早々に諦めた方がいいですよ? 私の持つ『暗闇の式術』は、式素不足による体力の消耗さえも遅らせることができるのですから。どれほどあなた方が数で潰しにかかったとしても、私には到底至らないのです」
それは、騎士達を絶望の底に叩き落とすには十分すぎるものだった。
彼女の言葉が真実なら、時間を稼いで式素切れを狙う戦術は通用しないことになる。
体力の消耗の遅延──それがどの程度なのかは知る由もないが、彼女が未だ健在であることは紛れもない事実だ。
夜明けまではまだまだ時間がかかる。ならばやはり、短期決戦で挑むしかないというのか。
停滞する戦場の端にて、ルカは負傷したメイナを支えながら、擦りむいて出血している膝を見る。
苦悶の表情を浮かべるメイナを直視するのは辛く、ルカはどうにかして彼女の傷を治してあげたくなる。
だが、悔しいが自分にはその術がない。
氷を操る低級の精霊術は使えても、人の傷を癒すような特殊能力なんて持ち合わせていない。
それに救急箱はおろか、絆創膏の一枚も持ち合わせていないのだ。だからルカは何もできず、ただただ無力感に打ちひしがれながら、彼女を力いっぱい支えることしかできなかった。
──その瞬間だった。
「……っ」
ルカの内側に、形容し難い『異変』が起きる。
それは、これまでの人生十七年間の中で、経験したことのない感覚──疼き。
体内を巡る血の一滴一滴が、細胞の一粒一粒が、神経の一本一本が、何かを訴えるように力強く叫ぶ。
その刹那、すべてを焦がすような純白の閃光が、火花のように確かな輝きを放ち、ルカの内側を一瞬の内に駆け抜けるのを感じた。
「──」
視界が、回る。世界が、反転する。
目の前の景色は光の渦に飲み込まれて薄れていき、虚空に溶けて霧散していく。
瓦解して消えゆく夜闇の中、ルカはただただ呼吸を忘れ、移り変わる世界の形を眺めることしかできない。
その矢先、ルカの眼前に広がっていたのは、目を細めるほどに眩しい花畑であった。
「……ぁ……え……?」
自分の眼が、みるみると開かれていくのがわかる。
目の前で何が起きているのかを理解しようとして、脳が咀嚼しているのがわかる。
ただ一つわからないのは、目の前の──これ。
「ここは、どこ……? 私、さっきまで村にいたはず、なのに……」
震える声が弱々しく溢れ落ちる。
無理解で埋め尽くされた思考は、もはやまともに機能しない。そうしてルカは思い知る。
人は理屈で説明がつかない状況に叩き落とされたとき、こうまで無力を晒してしまうのか。
為す術がない。そんな自分の真上には、雲一つない鮮やかな青空が広がっていた。
わからない、わからない、わからない──。
ここがどこなのかも、どうしてこんな場所にいるのかも、どうして自分だけがここに存在しているのかも、一緒に戦っていた皆はどこに行ってしまったのかも、その全部が、わからない。
「──マシロ・ルカ」
「……っ!?」
刹那、背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえ、ルカは咄嗟に振り返る。
人の気配なんてまったくしなかった。見ればそこには、自分と同じ歳くらいの少女が立ち尽くしている。
見覚えはない。流れる銀髪は淡く透明感があり、その藍色の双眸は宝石のように美しく綺麗だった。
だがそこには光がなく、いかなる感情も存在しない。喜びも悲しみも死んでいるかのような、そんな無だけが映っていた。
「だ、誰……?」
ただ疑問を口にすることしかできない。そんなルカに向かって、少女は続ける。
「これより汝に、力を与える。その力で何を成し、何を得て、何を生むのか……そのすべては、汝次第」
「……ぇ? どういう、意味……?」
「見届けさせてもらおう。汝の紡ぐ物語を……世界に祝福の鐘を鳴らす、『再生の巫女』よ。その力で、汝の求めるものを手に入れてみせよ」
ルカの問いには何も答えず、目の前の少女は一方的に言葉を並べる。
これではとても会話とは呼べない。これほどまでに近くにいるのに、まるで自分と少女とでは、住む世界が違うかのようにさえ感じられた。
同じ人間と対面していることすら疑わしくなってくる。それはさながら、自分よりも遥かに上位の存在と言葉を交わしているような、そんな摩訶不思議な感覚──。
そうして次の瞬間には、また景色が切り替わっていた。
それは本当に一瞬の出来事。瞬き一つを挟んだ直後に、ルカの目の前からあの花畑は消えていたのだ。
鮮明な青空は漆黒の夜空へと変化しており、腕の中には負傷に苦しむメイナがいて、周囲にはフェリアと激しい戦闘を繰り広げる騎士達の姿がある。
先ほどのあれは、一体何だったというのか。
まるで夢でも見ていたかのように、現実感は皆無に等しい。情報の整理が追いつかない。
ただ一つ言えるのは、自分は再びこの戦場に戻ってきたということ。今しがた体験した、幻覚にも似た何か──それに対する余韻を感じている暇はない。
やるべきことは、目の前にはっきりとしているのだから。
「──」
ルカは腕の中のメイナに目を向ける。
彼女は膝からの出血を晒しており、その痛々しい様子は依然として変わらない。
次の瞬間、ルカはそんな彼女に向けて、自身の掌を翳していた。
なぜ、そうしたのかはわからない。
しかしルカにはある確信があった。根拠のない、意味不明の信頼。今の自分になら、彼女の傷を癒すことができるのだと──不思議と信じることができた。
「……ルカ、さん?」
「──」
か細く小さな声が、ルカの耳朶を打つ。
苦悶の表情を浮かべるメイナ。その彼女の双眸が、みるみると見開かれていく。
無理もない。彼女が見上げた先には、信じられないような光景が繰り広げられていたからだ。
ルカの翳した掌は、薄い緑の輝きを帯び始め、柔らかな温もりを放っている。
その光に照らされたメイナの膝の負傷箇所は、次の瞬間ピタリと出血を止め、瞬く間に傷口を塞いでいくのだ。
「ぇ……?」
それはあまりにも現実離れした光景。
抉れた皮膚が繋ぎ治り、擦り傷の痕跡すら残さずに癒えていく。その摩訶不思議で幻想的な事象を前に、ルカとメイナは揃って目を見開いていた。
ルカはただ、無意識の内に手を伸ばしていただけだ。その自身の掌から光が零れ、メイナの傷を治すことができただなんて──果たして誰が予想できただろうか。
言葉を失い唖然とする二人。
そんな彼女達を現実に引き戻したのは、周囲で鳴り響く戦闘の喧騒。我に返ったルカとメイナは、ただただ互いの目を見つめ合っていた。
「……ルカさん、今のは、一体……」
「──。わから、ない。気づいたら、手が勝手に動いてた」
自分の声が、微かに震えていることに気づく。
全身が得体の知れない何かに支配されているかのような不快感が、消えてなくならない。
自分の力なのに、とても自分のものとは思えない気持ち悪さ。少しでも気を緩めれば、その力に人格を乗っ取られてしまうような恐怖さえあった。
だからルカは深呼吸を繰り返し、波風の立った精神をどうにか落ち着かせようとする。
そしてゆっくりと目を開き、メイナを真っ直ぐと見据えるのだった。
「……何がどうなってるのかはわからないけど、傷が治ってよかった。メイナはすぐにここから離れて、安全な場所に移動して」
「……え? で、でも、ルカさんは……?」
「暗がり魔と決着をつける。皆が命を賭けて戦ってくれてるのに、私だけ何もしないわけにはいかないから」
「だったら、私も──!」
「ううん。私は、これ以上メイナを巻き込みたくない。お願い……今だけは聞き入れて」
「そんな……ルカさん……」
元はと言えば、メイナはルカを追いかけてこの村までやってきたのだ。
主であるロディアの了承を得ることもせずに無断で──使用人として有るまじき行為だ。
そのすべては、ルカのためを思ってのこと。それならば、ルカはこれ以上の無理をメイナにはしてほしくない。
メイナはまだ何か言いたげだったが、やがてそれを押し殺すように引き下がるのだった。
「……わかり、ました。ルカさんの言う通りにします。でもどうか、無理だけはしないでください……っ。また後で、必ず再会しましょう……! 約束、です……っ!」
「……メイナ。うん、約束。私は必ず、メイナの所に戻るから」
メイナの差し出した小指に、ルカは自身の小指を重ねる。
指切りげんまんだなんて、何年ぶりにしただろうか。針千本飲むようなことにならないためにも、この約束だけは必ず守り抜かなければ。
頷いてくれたメイナは、ルカに背を向けて駆け抜けていくのだった。
夜闇に溶けていく彼女の背を見届けてから、ルカは騎士達と戦闘を繰り広げるフェリアを見据える。
『暗闇の式術』の効果が切れる夜明けを待ちながら戦えば、必ず先にこちらが潰れる。
──先手を打つ。決着をつけるなら、今しかない。
「……あら?」
自身の目の前に歩み寄るルカに、フェリアは意外そうな声を上げる。
ルカの双眸には決意が宿っており、その色を瞬時に見抜いた暗殺者は、不敵な笑みを浮かべるのだった。
「ふふっ……そういう顔は嫌いではありませんよ。目の前の獲物を真っ直ぐと見据える捕食者の眼──そんなものを向けられてしまうと、ゾクゾクしてしまいます」
「──。今ここで、あなたを倒す」
ルカはそう宣言し、フェリアに向けて掌を翳す。
しかしその意図は、メイナの傷を癒した先程とは違う。──倒すために、障壁を打ち破るために翳すのだ。
一呼吸を置き、それからルカは叫ぶ。
「──レニア・シャルド!」
瞬間、大気中に漂う精霊達が、ルカを中心に結束。
その力ある宣言に引き寄せられ、彼女に向かって霊力の付与を行い始める。
体内に送り込まれた霊力はそのまま氷属性の精霊術へと変換され、結晶体となって具現化するのだった。
鋭利な先端の形を模した氷の槍は複数に分裂し、目の前のフェリア目掛けて放射される。
「その攻撃も、そろそろ見飽きてしまいました」
退屈そうに呟きながら、フェリアはその場から動くことすらせず、両手のククリナイフにて応酬する。
飛んでくる氷の槍を次々に捌き、その度に砕け散った結晶の礫がフェリアの周囲を美しく泳ぐ。
夜闇を舞うそれらは、暗殺者の披露する舞踏を彩っているようにさえ見えた。
「随分と粗が目立つ精霊術ですね。あなたのそれは、所詮は付け焼き刃の鍛錬で得たものでしょう? 素人の扱う低級の精霊術なんて、私の前では紙吹雪に等しい塵芥に過ぎません」
「──」
連続する打音が周囲に鳴り響く。
しかしそれでも、ルカは攻撃の手を緩めない。正面から真っ直ぐと、何度も何度もフェリア目掛けて氷の槍を撃ち込み続ける。
「愚行もいいところですね。大した実力もないのに、無策で真正面から攻めてくるなんて……いい加減諦めたらどうです?」
「──」
「あなたがこの私の正体を突き止めたことは見事でした。けれど、戦闘に関してはあなた程度、私にとっては取るに足らない石ころも同然の存在。無駄な抵抗はよしてください」
「──」
「さて、それでは……そろそろ終わりにしましょうか?」
そう宣言したフェリアが、ついにその場から動き出そうとする。だが次の瞬間、彼女は反射的にその目を見開いていた。
「──!」
余裕ある捕食者の表情が、初めて揺らぐ。
ルカ目掛けて疾駆しようとした脚が、思うように動かなかったのだ。何事かと自身の足を見下ろしたフェリアは、そこでようやく気づく。
「これ、は……」
フェリアの足元──そこには満開の氷の花が咲き誇っており、飲み込むように彼女の足を咥え込んでいた。
いつの間に、ここまでのものを生み出していたとは──驚愕に顔を歪めるフェリアは、咄嗟にルカの方に視線を向ける。
「……上手くいってよかった。ちゃんとできるかどうかは、半々だったけど」
ほっと胸を撫で下ろすルカは、真っ直ぐとフェリアを見据えて言った。
「あなたの足元のそれは、私が精霊術で創ったもの。氷の槍を何本も飛ばしている最中に、同時進行で用意したの。フェリアさん……あなたは槍の攻撃を捌くのに意識を向けていたせいで、足元の異変に気づけなかったんだよ」
「──っ」
「これでわかったでしょ? あなたの敗因は、力を持ったことによる驕り……それがあなたの弱さだよ」
そうしてルカは大きく息を吸って、叫ぶ。
「──ロディア! アルト!」
その声に反応を示した彼らは、我に返り動き出す。
ルカが作ってくれた絶好の機会。これを逃せば、もう勝機はない。次の瞬間、彼らは同時に精霊術の詠唱を口にしていた。
「オリシア・ブランド!」「オリシア・フィード!」
土と風の中級精霊術。
練られた二つの霊力の塊が虚空の中に混ざり合い、重なり合って具現化する。
生み出された岩石と気圧の砲弾は、身動きの取れないフェリアの全身目掛けて、正面から命中。
「がッ……ぁ!」
その凄まじい衝撃を受けて、ククリナイフを手放した彼女の華奢な体躯は軽々と吹き飛ばされ、夜闇の端まで追いやられる。
腹部からの出血を晒し、砂埃を散らしながら地に伏せるフェリア。その顔は信じられないとでも言うように歪み、かつてない苦痛に荒い呼吸を繰り返していた。
「ば、かな……こんな……この、私が……! ありえ、ない……! ありえないッ!」
呪詛のように呻きながら、フェリアは爪で地面を引っ掻きながら起き上がる。
そして額に脂汗を浮かべて、憎々しげにルカを睨むのだった。
「……マシロ・ルカぁぁぁッ!」
「──」
「お前さえ……いなければッ! 私の正体が見破られることもなければ、ここまで追い詰められることもなかったッ! 許さない……お前だけは、私がこの手で必ず殺すッ!」
憎悪に満ちた怒声を撒き散らし、荒れ狂う。
そんな変わり果てた彼女の姿を、ルカはただただ冷めた目で見つめていた。
そして次の瞬間、そんなルカの隣に歩み寄ってきたのは、隊長であるアルトであった。
「……悪いけど、それは許可できない。フェリア・イーブル。あなたはここで拘束させてもらう」
「ちっ……!」
忌々しげに舌打ちするフェリア。
さすがに分が悪いと感じたのか、彼女に先ほどまでの余裕はない。そして数秒の間を置き、やがてフェリアは腹部の出血を抑えながら、騎士達に背を向けて逃亡する。
夜闇に溶けて消えゆく暗殺者の姿。直後、アルトは仲間達に向かって咄嗟に叫んでいた。
「──標的が移動したのは民家の方向だ! ここで人質を取られてしまえば、こちらに打てる手がなくなる! 逃がすな! なんとしてでも拘束しろ!」
「「はッ!」」
その指示に騎士達は一斉に動き出し、フェリアの逃亡した方角を目指す。
『暗闇の式術』を発動しているとはいえ、彼女が負った傷はかなり深かった。
あの重傷なら、もはや身軽に動くことはできないだろう。直後、ルカはアルトに声を掛けていた。
「アルト。私に一つ、考えがあるんだけど……」
「考え?」
首を傾げる彼に、ルカは続ける。
「暗がり魔を確実に捕まえたいのは、アルトも同じだよね? それなら、ここは私に任せてほしい」
「──。暗がり魔の正体を突き止めたことといい、低級の精霊術で標的を無力化したことといい、君には頭が上がらないな。それで? 君は次に、何をするつもりなのかな」
肩を竦めて尋ねるアルトに、ルカは頷き、言った。
「うん。──私に、対話鏡を貸してほしいの」




