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第一章11 『暗がり魔捕獲作戦』

「……エミリちゃんは、笑顔がとっても素敵な子でした。女の子のお友達と同じくらい、男の子のお友達も多くて。いつも皆の中心で、元気を与えてくれていました」


 ──少女の墓標の前で手を合わせながら、彼女はルカとアルトに背を向けたままそう語るのだった。

 緩やかな風が、彼女の長く伸びた亜麻色の髪を揺らしながら通り過ぎていく。


「レイナちゃんは、少し人見知りなところがある子で。でも、本当は誰よりも友達思いの良い子でした。あの子の親友の女の子が熱を出して寝込んでしまったとき、レイナちゃんは付きっきりで看病してくれたんです。自分のことなんか後回しで、いつまでも──」


 暗がり魔の手によって犠牲になった少女達のことを思い出しながら、彼女は静謐な声色でその記憶を口にする。

 そうして立ち上がった彼女は、改めてルカの方に向き直るのだった。


「ルカさん、でしたね。初めまして。私はフェリア・イーブルと申します。この村に住み始めてからまだ日は浅いですが、村の皆さんには良くしてもらっています。どうぞ、よろしくお願いしますね」


 その挨拶を受けて、ルカもまた小さく一礼する。

 整った顔立ちをした、綺麗な女性だった。その翠の双眸は宝石のように美しく、物静かな声色には大人特有の落ち着いた雰囲気を感じられる。


「こほっ……こほっ……!」


 その直後、フェリアは両手で口元を抑えながら咳き込んでしまう。

 見ればその顔色は少し悪く、微かに汗も浮かび上がっていた。その様子を見て、ルカは反射的に彼女の背に手を回して撫でていた。


「大丈夫ですか……?」


「……すみません、少し具合が悪くて。昔からの体質ですから、慣れてはいるんですが……」


「そうなんですね……顔色も優れてないし、あんまり無理しないでください。私達も、長話はしませんから」


 そう言ってルカがアルトの方に目を向けると、彼は小さく頷くのだった。


「ああ、そうだね。──フェリアさん、あまりお時間は取らせません。何か暗がり魔の正体について、気付いたことや手掛かりはありますか?」


 その問いに、フェリアは深呼吸を一つ挟んでから「……そうですね」と思考を巡らせる。


「私はご覧の通り、すでに成人していますから……今日まで暗がり魔の標的にはなりませんでした。ですから犯人はやはり、未成年の少女にしか関心がないのでしょうね。……年頃の少女を手に掛けることに快楽を見出す。それが犯行動機で間違いはないかと」


「やっぱり、そう考えるのが普通ですよね。これまで殺されてきたのは、全員が年頃の女の子。……暗がり魔は意図的に、その年齢の人間を狙っていることになるから」


 フェリアの推測に、ルカはそう相槌を打つ。

 暗がり魔が快楽殺人鬼であることは、十中八九間違いない。そしてレベリオ曰く、暗がり魔の体格はすらりとした長身の人物──つまり大人だ。

 単純に殺すことに快楽を見出すのなら、別に殺害するのは少年でもいいはずだ。凶器を持った大人である以上、たとえ相手が少年だろうと犯行は容易く行える。

 にも関わらず暗がり魔が少女ばかりを手に掛けるのは、それが暗がり魔にとっての快楽になり得るからだろう。


「……どんな理由があるにしても、人を殺めるなんて許されません。まして、あんな優しくて笑顔の素敵な子達の命を奪うだなんて──私は絶対に、暗がり魔を許せない」


 微かに震えた声色でそう零しながら、フェリアは暗がり魔に対する明確な怒りを示す。

 そんな彼女の在り方に共感し、ルカは「私も同じです」と頷くのだった。


「だからこそ、私はこの手で暗がり魔を捕まえたいと思ってます。私は亡くなった子達とは知り合いでもないし、名前すら聞くまでわからなかったけど……それでも暗がり魔のせいで、生涯癒されない傷を負った人達がいるのは確かだから。残された遺族のためにも、私は私なりにできることをしたい」


「──。ルカさんは、凄いですね。あなただって、暗がり魔の標的にされるかもしれないのに……そんな風に自ら行動できるのは、本当に尊敬できることだと思います」


 柔らかな笑みを浮かべながら、フェリアはそう呟く。そうして彼女は口元を抑えると、再び咳き込んでしまった。

 その様子を受けて、アルトは「話を聞かせてくれてありがとうございました」と一礼すると、ルカにもう行こうと目配せをする。


「暗がり魔は、必ず我々中枢騎士団が捕らえます。一刻も早く、この村にかつての平穏を取り戻すことをお約束しましょう」


「こほっ、こほっ……ええ、改めて、よろしくお願いします。あなた方の無事を、私もお祈りしています」


「ありがとうございます。……ああ、そうだ。フェリアさん、よかったらこれを。先ほど村に届いた、中枢騎士団で取り寄せた薬草です。お役に立てればいいんですが」


 立ち去ろうとした矢先、アルトは懐から薬草の入った小瓶を取り出し、それをフェリアに渡そうとする。

 その思わぬ気遣いにフェリアは少しだけ目を見開き、それから柔らかな笑みを浮かべて「まあ、ありがとう」と感謝の言葉を口にし、右手を伸ばして受け取るのだった。


「お言葉に甘えて、使わせていただきますね」


「ええ、それでは」


 一礼するフェリアにそう返し、今度こそ二人はその場から立ち去るのだった。

 アルトはルカよりも先にこの村に出入りしている。当然、フェリアともすでに面識はあったのだろう。

 それ故に彼はフェリアの持病を気遣い、事前に薬草を調達していた。その紳士的な対応に、ルカは素直に感心を抱く。


「……やはり、なかなか暗がり魔の正体には辿り着けないね。目撃者が一人だけなのも苦しいところだよ」


 その矢先、アルトがそんなことを零していた。

 目撃者はたった一人、深夜に村を徘徊していたレベリオのみ。しかし彼だって、別に暗がり魔の素顔を見たわけではない。

 それ以外の目撃者を許さなかったのは、それほど暗がり魔が狡猾に動いていたということだろう。

 暗がり魔も、まさか殺人が連続した直後の深夜に、村人が無防備に徘徊しているなど予想していなかったはずだ。


「聞き込みだけじゃ足りないのかな。でも、他に手掛かりなんてなさそうだし……どうすればいいんだろう」


 今度はルカがそう呟く。

 これほど多くの少女を手に掛けながら証拠らしい証拠を一つも残さない暗がり魔は、あまりにも殺人という行為に手馴れている。

 だが一刻も早くその身柄を拘束しなければ、また次の殺人が起きるに違いない。

 だからもう、手段は選んでいられないのだ。


「……あ、そういえばアルト。さっき言ってたよね? 暗がり魔捕獲作戦のための会議に入るって。私はまだ、その作戦の内容を知らないんだけど──具体的には何をするつもりなの?」


「……ああ、そのことか。今夜、村の中央に用意した仮設本拠地で会議を開く手筈になっている。気になるなら、君も同席すればいい」


「えっ? いいの?」


 その予想だにしないアルトからの言葉に、ルカは思わず目を見開いて尋ねる。

 てっきり会議への同席は許されないとばかり思っていた。無理もない。中枢騎士団の一隊長の立場である彼なら、王宮の使用人をそんな場に同席させることはありえないという先入観があったからだ。

 しかし彼の考えは、実際には違った。


「ロディア大公は反対するだろうけどね。でもこの作戦を実行するには、どうしても()()()()()()()が必要なんだ。闇夜に潜む暗がり魔を、確実に白日の元に捕らえるためには」


「私のような、存在……?」


 その意味深な言葉に、ルカは少しだけ眉を顰める。

 お世辞にも、自分には特にこれといった何かはない。精霊術は少しだけ齧ったが、そんなものは高が知れているし、未だにこの世界の常識さえあまり掴めていないのだ。

 そんな自分に、一体何ができるというのか。アルトの思惑が掴めない。


「──ん、失礼」


 そのとき、アルトが懐から何かを取り出した。

 コンパクトな四角形の、折り畳み式の鏡のように見えるそれを彼が開くと、そこにはアルトと同じ、騎士のマントを羽織った男の顔が映っている。


『隊長、お疲れ様です。捕獲作戦の会議ですが、手筈通りの時間と場所で。巡回を終え次第、隊員を招集します』


「了解。頼んだよ」


 男の言葉にそう返すと、アルトは鏡を折り畳んで再び懐に仕舞う。

 その見覚えのない不思議アイテムにルカが目を奪われていると、彼は「どうかした?」と小首を傾げるのだった。


「あ、ううん……見たことのない物だなぁって。今のは?」


対話鏡(たいわきょう)のことかな。 まさか、知らないの?」


 ルカの問いに、小さく目を見開きながらアルトはそう答える。

 この反応はグリードのせいで慣れている。察するに、こちらの世界ではありふれた道具なのだろう。


「ごめん、あんまりこっちの文化に疎くて……そのたいわきょう? っていうのは、今みたいに連絡手段に使うものなの?」


「うん。()()の中では、一番有名なものだよ」


「れいぐ?」


「……これは驚いたね。その反応から察するに、君は霊具も知らないと見える。なら、その説明からしてあげようか?」


 驚きを通り越して失笑気味のアルトからの提案に、ルカは「うぅ……よろしくお願いします……」と小さく頭を下げるのだった。


「霊具っていうのは、大気中に漂う霊力を吸収して真価を発揮する道具のことだよ。精霊術の素養がない人間でも扱うことができる優れ物故に、日常の中でも欠かせない一部になっているってわけだね」


「……へえ、そんな便利な物まであるんだ」


「特にこの対話鏡は汎用性が高くてね。事前に接触した対話鏡同士なら、距離に関係なく鏡越しで対話をすることができる。非常に便利な連絡手段として、中枢騎士団の面々も愛用しているよ」


 つまり元の世界で言うところの、スマホのような役割を持つアイテムということか。

 身近にある存在を想起しながら、ルカは納得する。霊力とは精霊術を発動する際にのみ必要な物質だとばかり思い込んでいたが、どうやらその決めつけは訂正しなければならないようだ。


「念の為、今はその内の一つを村人のレベリオにも貸与しているんだ。彼は暗がり魔を目撃した唯一の証人だからね。犯人の特徴について何か思い出したことがあれば、こちら側に連絡できるようにするために」


「そっか。教えてくれてありがとう。あともう一つ知りたいのは、捕獲作戦の具体的な内容だけど……」


「詳しい話は会議の場でしよう。──暗がり魔とは、今夜で必ず決着をつける」


 揺るぎない信念をその双眸に宿し、アルトはそう宣言するのだった。




 ◇

「……ルカ、やっぱり考え直せないかな。僕は正直、君がこの場に同席するのはよく思えないんだけど……」


 ルカの隣に腰掛けていたロディアが、曇った表情のまま小さく呟く。

 ──時刻はすっかり夜になり、一同は手筈通り、村の中央に設えられた中枢騎士団の本拠地に集合している。

 集められた騎士の人数は、およそ三十人程度といったところか。彼ら全員が、アルトの率いる六番隊の面々なのだろう。


 そうして開かれた会議のテーマは、暗がり魔の捕獲について。

 ルカは未だにその作戦概要を知らされていないが、どうやら中枢騎士団には暗がり魔を確実に捕らえる算段があるらしい。


「それは、私の身を案じてるから……だよね。作戦の内容はまだ知らないけど、それはなんとなくわかるよ。でも私なら大丈夫。自分で納得してこの場にいるんだから、ロディアは心配しないで」


「でも……」


 ルカがそう言ったとしても、ロディアの不安は払拭されない。

 ルカ自身、いかに自分の発言が軽はずみなものなのかは理解しているつもりだ。

 なんの力も持たない小娘が、一体どの口で「大丈夫」などと言えるのだろうか。

 下手をすれば暗がり魔の標的にされるかもしれないのに、我ながら浅はかな考えだと感じた。


「……時間はあまり残されていない。挨拶は抜きで、さっそく始めるとしようか。──議題は当然、暗がり魔捕獲作戦の実行について」


 一同をぐるりと見渡しながら、アルトはそう切り出す。

 その開始宣言に各々は表情を険しく変え、全員がアルトの次の言葉を待ち構えていた。


「まずは作戦の概要から確認していくとしよう。我々六番隊が考案した暗がり魔捕獲作戦の内容は、深夜のコルトン村に無防備の少女を一人歩かせ、その周囲を六番隊が厳重体制で囲むというものだ。これによって闇夜に潜む暗がり魔を誘き寄せ、全方位から標的を叩く──つまるところ、少女を使った囮作戦ということになる」


「囮作戦……」


 アルトの明示した作戦概要に、ルカは思わず息を呑んだ。

 暗がり魔の狙いは年頃の少女。深夜、人気のない所を歩く無防備の少女など、暗がり魔にとっては格好の餌食になる。

 もし見つかれば、当然暗がり魔は犯行に走ろうとするはずだ。その瞬間を利用し、六番隊による一斉攻撃を放つ。

 これによって成功を収めれば、暗がり魔を捕らえることはできる──が、


「当然、この作戦は危険を伴う。もし失敗すれば最悪の場合、少女が一人犠牲になる結末を迎えるかもしれない。一人の人間を生贄にし、それを利用しての捕獲作戦になるからね。騎士として、そして人間として……倫理に欠けた考えだというのは、重々承知しているよ」


 アルトは表情を変えずにそう続ける。

 元々感情を表には出さない性分なのだろう。だが上に立つ隊長として、その自覚は誰よりも持っているようだった。


「でも正直に言って、このまま聞き込みや手掛かり探しを続けたとしても、暗がり魔を捕らえることはできないと思っている。その結果がこの現状だからね。そしてこのまま暗がり魔を野放しにしておけば、また新たな犠牲者を生むだろうことは目に見えている。だからこそ、ここで何かしらの手を打たなければならないんだ。──それがたとえ、博打にも等しい愚行であったとしても」


 そこでアルトは言葉を区切ると、ルカの方に視線を移す。

 偶然ではない。彼は意図的にルカという一個人を見据えていた。そこでようやく、ルカは気付かされる。


 ──アルトは言っていた。

 この作戦を実行するためには、どうしても君のような存在が必要なのだと。

 君のような存在というのはつまり、暗がり魔を誘き寄せるための少女(エサ)という意味だ。


「ルカ。六番隊を率いる隊長として、君にお願いしたい。どうか、君にその囮役をやってもらえないだろうか」


「──ッ、そんなのは駄目だ! 絶対に、許せないよ!」


 アルトがその要求を口にした直後、真っ先に反論したのはロディアだった。

 その彼の叫びに、騎士達は一斉に大公である彼を見据える。


「ルカに危険が及ぶことだけは見過ごせない! いや、そもそも僕は最初から反対だったんだ! 誰か一人を囮にして、それで暗がり魔を誘き寄せようだなんて!」


「……私も同感ですね。ルカさんは当家の使用人。彼女の身に何かあれば、それは当家の名誉に傷をつけることと同義です。専属秘書の役割を預かる身として、私も易々と見過ごすことはできません」


 ロディアにそう便乗したのは、指先で眼鏡を抑えながら語るグリードであった。

 その言い分は、コルトン村に移動していた馬車の中のものと同じ。彼はあくまでも、リビアスの名誉を遵守することに重きを置いている。


「ですが、それ以外に暗がり魔を捕らえる術はないように思います。ロディア大公、グリード秘書。他に何か代案があるというなら、こちらも聞き入れますが──いかがですか?」


 確固とした意志を示す二人に、アルトは極めて冷静な姿勢を保ったままそう尋ねる。

 現時点では、確かにそれ以外の代案は存在しないように思えるのも事実だ。

 何かを捨てる覚悟を持って敵を追い詰めなければ、そこに勝利はありえない。


「ロディア、それにグリードさんも、ありがとう。でも私なら大丈夫。私を利用して暗がり魔を捕まえられるなら、喜んで協力する。だからお願い、その作戦に私を使うことを許可してほしい」


「なっ……そんなの、駄目だよ! ルカ、僕は君がこの村に足を踏み入れたことだけでも辛いのに……! その上暗がり魔を捕らえるための囮になるなんて! もし君に何かあったら、僕は──っ」


 ルカの言葉に、ロディアはかつてないほどの焦りを見せる。

 心の底から自分のことを気にかけてくれている目だった。そんな彼の意に反する考えを示すのは心苦しいが、もうそんなことも言っていられない。


「……ごめん、ロディア。でもそれなら、私のことをちゃんと守ってほしい。私はロディアのこと──信じてるから」


「……っ、そんなの……ずるいよ」


 わかっている。

 こんなときばかり「信じてる」なんて言葉を使い、相手の好意を利用しようとするなんて。

 我ながら最低だ。でも、もう他に方法はない。それで皆が救われるなら、安いものだとさえ思う。


「──」


 その直後、ルカとグリードの目が合う。

 彼はただ沈黙し、ルカの選択を見届けていた。彼の中には今、一体どんな感情が生まれているのだろうか。

 そんなことを考えていると、グリードはやがて徐に口を開くのだった。


「……ルカさんの覚悟の程度は理解しました。ですが私は、あくまでもロディア様の判断に従うのみです。ロディア様がその首を縦に振れば縦に、横に振れば横に振る──私はそれだけです」


 指先で眼鏡を抑えたまま、彼は言葉を並べる。

 どうやらそれが、彼の最終的な結論のようだった。

 主であるロディアにすべてを委ねる。それはロディアの右腕としては模範解答だ。

 彼はあくまでも個人の意志を捨て、ロディアの意志に従おうとしている。


「グリード……」


 微かに震える声を零し、ロディアはグリードを見据える。

 アルトを含めた騎士達は皆、本気でこの捕獲作戦を実行に移そうとしている。

 その囮役であるルカもまた同意し、グリードはロディアの判断を待っている。

 ──つまりこれで、ロディアを除く全員が作戦への同意を示したのだ。ロディアがその首を縦に振れば、自動的にグリードもまた納得する。


「……っ」


 ロディアは歯噛みし、小さく自身の拳を震わせる。そしてその直後──彼はようやく、その重たい口を開くのだった。


「……わかったよ。僕も認める。認める、けど……」


 そこでロディアはアルトを見据え、区切った言葉の先を紡ぐ。


「リビアス王家大公として命じる。絶対にルカには、暗がり魔の指一本触れさせないでくれ。その条件が飲めるなら──作戦の実行を許すよ」


「六番隊の名誉を賭して、全身全霊で御守りします」


 ロディアの要求に、アルトは力強くそう宣言する。

 その一言を受けて、ロディアは渋々といった様子で引き下がるのだった。


「作戦のときは、僕とグリードも現場に出るよ。それで少しでもルカを守り抜ける可能性が上がるなら──グリード、いいよね?」


「ええ。それがロディア様の御命令なら、喜んで」


「ありがとう。君が傍に居てくれて助かるよ」


 要求を飲んでくれたグリードに対し、ロディアは安堵の声色で感謝を伝える。

 一悶着あったが、これで全員が作戦に前向きな姿勢を示した。あとは、一刻も早く実行に移すのみだ。

 下手をすれば、今夜もまた新たな犠牲者が生まれるかもしれない。それを防ぐためにも、実行するなら早い方がいいだろう。



「──中枢騎士団も……堕ちる所まで堕ちたものだな……あろうことか生贄を捧げ……それを利用して悪を打破しようなど……愚行もいいところだ……」



 そのときだった。

 ようやくの結束を見せた一同に対し、聞き覚えのない青年の声が低く響き渡る。

 全員が声の方向を見据えると、そこには一人の人物が顔を見せていた。藍色の長髪を後ろで結った、整った顔立ちの青年。年齢はアルトとそう変わらないように見え、その暗く沈んだ灰色の瞳を騎士達に向けている。

 その左右の腰には二本のレイピアが納められており、鞘に刻まれた紋様は紛れもない、中枢騎士団のものだ。

 当然ルカとは面識のない相手であった。思わず誰なのか問おうとしたが、それに対する答えはアルトが代わりに口にすることになる。


「……アレイド。これは予想外だね。君がここに顔を出すなんて」


 ──アレイド。

 その名前には聞き覚えがあった。それは昼間、村人のレベリオが口にしていた人物だ。

 元中枢騎士団の人間で、六番隊に所属していた騎士。その実力は相当のものらしく、現役時代は六番隊の次期隊長候補だったのだとか。

 アルトの同期としてその活躍は期待されていたが、ある出来事がきっかけとなり六番隊を除隊したと──そう聞いている。


「名誉の失墜した騎士の集会になど顔を出したくはなかったが……お前達に客人が訪れている……俺はただ……彼らをここに招いただけだ……」


「客人……? 僕達に?」


 その彼の発言にアルトが首を傾げると、やがてアレイドは後方に目をやり、訪れた客人を見据えるのだった。

 やがて夜闇の向こうから、二人の人物が顔を見せる。彼らの顔を、ルカ、ロディア、グリードは知っていた。


「え、ヤクモ……メイナ……!?」


 驚愕に目を見開き、ルカが真っ先に声を上げる。

 そこに立ち尽くしていたのは、リビアス邸に仕える守護者、『風』を司る四大霊座のヤクモ・トウゲンに、使用人の少女であるメイナ・シルベリーであった。

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