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二人の夏

「久し振りだね、零次(れいじ)くん」

 彼女はまた、変わらない優しい笑顔でそう僕に話しかけてくれた。


 彼女は七美(ななみ)。僕の同い年の幼馴染みで、昔からよく遊んでいた。毎年、夏のこの時期になると僕に会いに来てくれるのだ。

「ねぇ、最近どんな感じ?」

「なんだかんだ楽しくやってるよ、学年が上がって勉強は大変になっちゃったけど。クラブ活動でテニスクラブに入ったんだ。まだまだ初心者だけど、ちょっとずつ上達するのが嬉しいんだ」

「へぇ〜〜、僕もやってみたいな」

「あ、そうそう! そういえばさ! 小山(こやま)先生のこと覚えてる?」

「え、うん」

 小山先生というのは、僕が小学一年生の頃に担任をしていた先生のことだ。

「あの先生、校長先生の奥さんとの不倫がバレて学校辞めることになったんだよ」

「マジで!?」

 信じられない、あの真面目な小山先生がそんなことをするなんて。

「本当に面白いよね! 私思いっきり笑っちゃったよ」

「面白いって、お前なぁ」

 七美は昔から、こういう不謹慎なことを面白がる節がある。まぁ僕も全く人のことを言えたギリではない……というか、寧ろそういうところが意気投合して仲良くなったのだが。

「あっ、そうだ! 今年もアレ、持ってきたよ」

 そういうと七美は、ポケットからチョコレートのお菓子を取り出して僕の目の前においた。

「わ〜、ありがとう!」

 それは僕の大好物のお菓子だ。丸い形のチョコレートで、中にアーモンドが入っている。僕はいつものようにそれを食べていた。懐かしい思い出だ。


 その後も、七美は色んなことを話してくれた。最近ハマっている遊び、新しくできた友達、お母さんに叱られたこと……。

 そんなことを話を聞いていると、七美が急にため息をついた。

「……寂しいよ」

「どうしたの?」

「やっぱり……零次くんがいないと……」

 七美がそう言いかけた、その時だった。


「コラァァァァ! また今年も懲りずにそんな遊びを!」


 ヤベっ! バレた!

「毎年毎年、『若くして死んだ男の子と、毎年その子のお墓参りに行く健気な幼馴染みごっこ』なんてしおってからに!」

 そう言いながらものすごい剣幕で怒っているあの爺さんは、この霊園の管理者だ。

「もー、だから今年は別なお墓でやろうって言ったんだよ! それなのに零次くんがバレないって」

 七美がムスッとした顔でこちらを睨む。

「だって隣町の墓場まで行くの疲れるだろ」

 僕もムスッと睨み返す。

「いいからお前はそこを降りろ! 大体他人(ひと)のお墓の上に座るなんて罰当りだとは思わないのか!」

「ほら零次くん! はやく逃げるよ」

 七美がこちらに手を差し出す。僕はお墓から降りると、その七美の手をギュッと握る。そして、あの爺さんから逃げるように二人で霊園を駆けていく。


 ――そう、これが僕らの、二人の夏なんだ。

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