薬師のひとりごつ~拷問おじさんのもとへ~
リー・シェンはとにかく派手な男であった。
リーはペニスとヴァギナ両方を持ち、誰も本当の性別は分からないが、ここは彼と呼ばせてもらう。
通称『厄神(疫病神)』。
身長は2メートル。体重は55キロ。ロングヘアーで右サイドと左サイドで綺麗に髪色が赤と黄色で分かれている。
顔は中性的で青色のテープをグルグルと上半身に巻いて服代わりにしている。
チェックのミニスカート、ヒョウ柄のロングタイツ。裸足。
両手両足の長く伸ばした爪を全て別々のカラーに染めており、その爪はダイヤモンドのヤスリで削られ刃物の様に尖っている。
「もう一度言ってごらんよ」
リーは全裸で椅子に縛られた体中に無数の1センチ台の穴の空いたキノコカットの男の頭を撫でた。
男は3日も地下に監禁したのですっかり衰弱している。
「愛しの彼女の方を見てだよ。言いなよ」
男の対面には同じく椅子に縛られた全裸の老婆がいる。
二人は夫婦だった。
関西暴力団豪炎連合の依頼でリーは二人を拷問する事になった。
リーは別れさせ屋兼拷問屋だ。
(あのアホ。ウチの商売道具を傷物にしたんです)
豪炎連合は表向きは芸能事務所『ナイト★スタジオ』である。
キノコカットの男は芸人で。当時アイドル候補生だった13才の少女に目をつけ6年間も隠れて交際し、彼女が10代最後の年に結婚を発表した。
(これからガンガン地上波に出してこう思ったのにあの男のせいで台無しや!リーさん。男も女も苦しめて別れさせて下さい!)
日本人がロリコンだらけなのはリーも知っていた。
それにしてもこの国の有名人。権力者のロリコン率は異常だ。
40前の男が10代と結婚しようと考える事自体がリーには理解出来なかった。
リーは元々は薬師だった。
『70年前』に10才で天才薬師として国から表彰され、どんな難病も治す薬を彼をいずれ発明すると期待された。
しかし彼の才能は善に使われる事は無かった。
家族愛。異性愛。友情。
そのどれ一つも理解できない彼は愛を試す事に楽しみを見出した。
彼の結論出した結論は『この世に拷問に勝てる愛はない』だった。
リーに拷問されても愛を貫き続けるもの者はいない。
みな『別れるからもう許してくれ』と懇願した。
リーの爪にはあらゆる毒が染み込ませてあり、爪を突き刺す事でそれを人体に注入して苦しめる。
狂牛病。エイズ、エボラ、テトロドトキシン。
気分によって爪を付け替える。
恐ろしい事にリーはその全ての毒に対する耐性があった。
リーは毒のスペシャリストであり薬のスペシャリストでもあった。
「早く言いな。愛しの彼女が死ぬよ?」
「フガフガ」
19才のアイドルの女はリーの『老化』の毒によって3日かけて老婆の様な見た目になっていた。
腕と首筋にはリーの爪が刺さった跡が紫色に腫れている。
男は妻に向かって語りだした。
「こ、この度、○○さんと結婚する運びとなりました。
芸能人という職業をしている者同士、この関係をいずれ公にする事を考えないといけないと彼女に伝えましたが、元より覚悟は決まっていたようでした。自分はそんな彼女の芯の強さと生き方に惚れ、交際する中で尊敬できる相手だと気付き、結婚の意志を伝えました……」
男が結婚をマスコミに発表した時の挨拶を口に出した。
会見の時とは違い全く心がこもっていないのがリーには可笑しかった。
「心の強さと生き方に惚れたんだろ?尊敬してんだろ?見た目がババアになったぐらいで気持ちは変わらないだろぉ?なぁなぁ?」
「……やだぁ」
「はぁ〜?なんでぇ?」
「ババアは……いやだ。別れます」
「フガ!?」
泣きながら語られる男の本音に女は涙した。
幸せの絶頂から地獄の底へ。
この瞬間がたまらない。
「素敵なシーンを見せてくれた二人に私からプレゼントだ」
「うぃぃ!?」
「んががが!」
二人のコメカミに順番に爪を突き刺してウィルスを注入した。
今、世界で最も有名なウィルスだ。
「私の子どもたちだよ。あんたらもよーく知ってるウィルスだ。ここ数年。世の中では新型ウィルス新型ウィルスとうるさかったけど『開発者』の私からしたら旧型もいいところよ。新しいのが出来たらまた日本にも持ってきてあげるわ」
これから二人は密室でウィルスに脳と肺を壊され苦しむ。
耐性のあるリーはその姿を見届けたかったが予定が詰まっている。
リーは豪炎連合の会長に電話をかけた。
『お疲れ様です。リーさん』
豪炎連合といえば関西ナンバーワンの構成員を持つ組だが、リーには腰が低い。
日本全国の裏社会で『厄神』の名は知れ渡っているようだ。
「で?カネハラの場所を教える気になった?それが報酬代わりよ」
『あの。えっと。はい。よろずの梅木って何でも屋が梅木組の隠れ蓑です。あの人はそこの若頭なんですわ』
リーの名前は呼べるくせにカネハラの名前は口に出すのも嫌そうだ。
リーはイライラして狂犬病のウィルスが塗り込まれた爪を噛み。割れた欠片を飲み込んだ。
日本の極道が『厄神』リーよりも『悪魔』カネハラを恐れているのがずっと前から気に入らなかった。
『あの人は組の『ファミリー』を愛しています。梅木組の組員には手を出さないほうがええかと……』
「安静!」
リーは電話を切った。
(いよいよ会えるわね。厄神の力を悪魔に思い知らせてあげる)
「あなたの愛。試させてもらうわよ」
リーはボソリと呟いた。