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美青年ユリウス・アウラー

「お前が本当に犯人なのか?」

「奴らがそう言うんならそうなんだろ!」


不貞腐れたような、けれどすべてを諦めた様子の男はカデリアスの顔すら見ずに答えた。


「えっと…」


ソフィアは隣に立っていた若い警察官に視線を移す。


遠めから見ても、かなり整った容姿に思わずウットリとしそうになった。


美青年…いえ、美少年だわ。この世界の警察官は美しさも採用基準にあったりするのかしら?

ゲームの主要キャラですらないのに…。不思議だわ。


そんな事を考えているとその透き通る瞳とぶつかった。


「ユリウス・アウラーであります。階級は巡査であります」


ソフィアの意図に気づいたのか、自己紹介をするユリウスは肩に力が入っている。

華奢な見た目通り、声も高く透き通っている。


新人さんかしら?なんだか、初々しいわ。


「アウラー巡査。一体何があったんです?」


極力小さな声で質問すると、ユリウスはソフィアの耳元に唇を寄せた。


「二週間前からこの辺りで冒険者の行方不明が続いておりまして…」

「冒険者の失踪なら、冒険者協会の管轄ではないのですか?」


ファンタジーの王道職業である冒険者はこの世界にも存在している。

しかし、ゲーム内では恋愛要素かつ学園でのストーリーが主だったため、その存在は触り程度しか語られてはいなかった。つまり、ほとんど知識にない。

ソフィアとして育った十数年の中でも冒険者を名乗る者を直接見た事はないのだ。

それでも彼らが魔物を狩るスペシャリストであるのは知っている。特にマゴス復活が近い現状では金になる冒険者になる者は多いだろう。冒険者協会に申請さえ出せば、誰でも冒険者を名乗れるからだ。しかし、その職業が危険と隣合わせなのも事実で魔物に無残に殺される者は多い。それらの処理を行うのも冒険者協会の役割だ。


「ええ。確かに。行方不明とされた冒険者の遺体は最後に目撃されたこの村のすぐ近くです。遺体もいくつかは発見されています。全部で30体…」

「30体も!」

「しかも、どの遺体もその姿は傷一つなく眠っているように綺麗だったそうです。一見すればですが…」

「一見?」

「詳しく調べてみると、体内の臓器すべてが忽然と姿を消していました。元から体の内側に何もなかったかのように…」

「魔物相手にそんな事あり得るのですか?」

「僕は聞いた事ありませんが…」


ユリウスは困ったように頭を被っていた帽子をグシャリと握る。


魔物は高い知能を持たない。人間を無残に殺し、その食料とする事がほとんどだ。

体内の物だけごっそり抜き取って、去るというのは考えにくい。

だとすると、マゴスの直属の下僕である闇の者達の可能性が高い。

エインセルでも邪力を扱う者が暗躍していたのだ。首都近くならなおさらその活動が活発なのは理解できる。


「でもそれだと、この件って冒険者協会というより魔法使い案件だと思うのですが…」


シエラがおずおずと口に出した。


「やっぱりそうですよね。でも、王宮付魔法同盟に返答を送っても冒険者が犠牲者なら協会がなんとかしろといった具合でして…」


まあ、そうよね。貴族が犠牲になるなら真っ先に動くだろうけれど、首都郊外で冒険者が消えたというだけではその腰をあげる連中ではない。今がどういう状態なのか全くわかっていない。魔法を扱う者の役目は女神の力と相反するマゴスの脅威を祓う事だというのに…。


そもそも、遺体が見つかっているなら行方不明事件ですらもはやない。


「でも、やっぱりそれで警部さん達がここにいるのは、おかしいですわよね?」

「どうやら、冒険者協会に警部の知り合いがいるらしくて…」

「あら、そうなの?」

「ええ。その知り合いからこの事件の事を聞いたそうです。で、魔法使いが手を出さないなら自分が調べると言い出して…」

「それで、ここまで来たなんて…」

「言い出したら聞かないんですよ。犠牲者がいるのに、その真実が明かされないのは不憫でならないって…」

「へえ~。そう…」


カデリアスの後ろ姿を眺めながら、自然と自身の頬が緩むのが分かった。


「それなら僕も行きますって立候補して、今朝、村についたんですが、一足遅く、新しい被害者が出てしまいまして…」


ユリウスは悔しそうに拳を握りしめる。

この少年もカデリアスと同様に正義感が強いようだ。


「しかも、冒険者ではなくこの村の住人です。おそらく亡くなったのは昨晩から今朝にかけてと思われます。ちなみに被害者は村長の息子さんだそうで…」


なるほど。それで、村の人たちの空気がピリピリしているのね。


「で、被害者のお父様である村長があの男が息子を殺すのを見たと…」


それで、彼を集団リンチしたわけね。村長の息子を殺した奴だから…。


「お前の名は?」


カデリアスは傷だらけの男を見降ろして問いかけた。


「パワリ…」


男は俯きながら蚊の鳴くような声で自己紹介した。


「警部さん。コイツはスクドの一族です!」


村人の一人がそう叫んだ。


シエラの驚いたような視線とぶつかった。予想通りの正体に今更驚きはしない。

だが、マゴスの闇に堕ちた者なら、私が分かるはず。

カデリアスが見つめる先にいる彼からは喪失感と失望は感じられても、闇の気配は一切感じない。

それにゲーム内で彼は…。


視界の隅に布で覆われた荷台を捉えた。

なんとなく足が向いていく。村人たちはカデリアスとパワリと名乗った青年の会話に夢中だ。


ソフィアはゆっくりとその布をめくる。

そこには冷たくなった20代ぐらいの男が横たわっていた。

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