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ラ・ルチェ・ガン

推測が当たったわね。


レイジーナは強敵を演じていても所詮は真のラスボスとなるソフィアには遠く及ばないザコキャラ。その力も邪力が込められた邪具が張った結界内だけだ。その範囲は領都エインセルを覆うぐらいの距離が妥当。ゲーム内でも同様にほぼ同じ大きさの首都だけで事件は起こる。つまり、レイジーナから人形が離れるほどにその効果は発動しない。

彼女が流通が盛んな屋台連合に目を付けたのは素晴らしいけれど、国全体にその力を生かし切れるほど能力のない邪術使い。それがレイジーナという女性だ。


そして、彼女が力の要となる邪具を隠していたのは屋台連合の建物のエントランス。それもシャンデリアの中だった。

今回も同じことをしているんじゃないかと思ったのだけれど、まさかこうもうまく行くと本当に芸がなくて萎えてしまうわ。


「隠し玉は破壊したわ。貴方の大切な人形達は魔物へと姿を変えられない。残念でしたわね」

「よくも邪魔してくれたわね。悪女のくせに!」


レイジーナの体は怒りで震えていた。


「あら、さっきは私を聖女候補ともてはやしてくれたのに、本性が出ましたわね」

「嫌味も聞き取れないとはお可哀そうな事…」


気丈にふるまってはいるが、レイジーナは動揺を隠しきれていない。

それもそのはず、あれはマゴスから与えられた水晶をかたどった特別な邪具。

あれがなければ、彼女は闇の王と心を通わせられない。

故にこちらも手を打たせてもらった。


ゲーム内のエピソードではマニエルが本物の聖女の力で邪具を破壊したけれど、私には無理な芸当。だからこそ、クラヴェウス家が所有する聖遺物を借りたのだ。


私が持っている聖なるブレスレットと同様に先代の聖女が護身用に愛用していた小銃。

その時代の王が彼女のために作らせた”ラ・ルチェ・ガン”と名付けられたこれは聖女の死後、実家であるクラヴェウス家が保管する事になった。そして、これもまた文字通り持ち主の力が宿った聖なる武器。マゴスの力を破壊するに適している。


先ほど撃った小銃に体内にあるほぼ、カス同然の魔力を持っていかれ、足の先が冷たくなっている事以外は予測通りに進んでいるわね。


ミルトン達が相手にしていた人形達も姿を消した。


さすがは闇を破壊する事に特化した武器だわ。

これを貸してもらうためにおばあさまにあえて殴られた意味もあったというものね。


「さあ、終わりよ。観念してくださらない?」


ソフィアは銃口をレイジーナに向けた。


「私を殺すつもり?聖女の武器で?」


ベールの下に包まれたレイジーナの表情は読み取れないがその声に焦りが見えていた。


さすがに聖遺物を向けられては彼女も分が悪いという所かしら。


正直、私自身にはレイジーナに恨みはない。むしろプレイヤーとしての目線に立てば、同情してしまうキャラだ。もちろんゲーム本編ではその素性が詳しく語られる事はなかった。けれど、断片的な情報では彼女は愛した男に捨てられた挙句、身ごもった赤ん坊に会う事も叶わなかった。彼女は一目でいいから、自分の子供をその手に抱きたいと願った。だが、聞き届けたのはこの国を守る女神ではなく、闇の王だったのだ。その手足となれば、引き裂かれた子供に合わせるという言葉を信じ、その魂を捧げたのだ。その瞬間、レイジーナの心は死んだ。


レイジーナは小銃を彼女に向けたまま、黒薔薇があしらわれたチェーンを差し出した。

マニエルの亡くなった場所で見つけた手がかりの一つ。


「これについて教えてくれたら見逃してあげてもいいわ」

「姉さん!」


弟の非難する声が響いたが、ソフィアは聞こえないふりをした。


「何を教えるっていうのかしら?それはマゴス様を崇める者なら誰だって持っている代物」


ソフィアはもっと深い情報を知りたくて銃をレイジーナに近づけた。


「定型文的な発言ばかりですのね」


その目線をレイジーナにあわせてしゃがみ込んだ。

その恰好は令嬢には程遠く、どこぞの野郎に近い。

銃口を見据えながらレイジーナは突然笑い出した。


「やっぱり、貴方は聖女には程遠いわ」


その言葉に反応したのはシエラだった。


「マゴスに堕ちた者のくせにお嬢様を愚弄する気!」


ベールにつかみかかろうとする侍女を弟が必死に止めていた。

その様子は実の姉であるソフィア以上に仲むずましい兄妹のようにも見えた。

思わず笑みをこぼして、再びレイジーナに視線を映した。


「そうよ。私は聖女じゃない。だから質問に答えなさい!これに見覚えは?」

「だから、言ったでしょう。何も…」


そこまで言って、レイジーナは黙った。

何かを思い出したような含みのある吐息だ。

「何?心当たりがあるのなら言って!」

「いいわ。教えてあげてもいい。でも、変わりに令嬢は何をくれるのかしら?」

「自由をあげる」

「自由ね。それは私より貴方が欲しい物では?」

「何ですって!」


思わず、胸のあたりがざわついた。

「むしろ、私が貴方様に差し上げるわ」


さっきまで怯えていた女性とは違う。そのねっとりとした声が耳を通り抜けて動けない。

その顔が目の前に迫ってきていた。頬に彼女の真っ黒な手袋に覆われた指が伝う。

視界の隅でミルトンとシエラが何か叫んでいた。けれど、無音のままだった。

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