vol_2.5 魔王ちゃんたちは愛情豊か。(小話
「……起きろ、我がつがい」
『……うぅ……勘弁してください。何時だと思ってるんですか』
「ダメだ。我は月光浴がしたい。早く行くぞ」
がぷがぷと体中噛まれながらも、まだ眠気が勝っている今。
さすがに痛みで目が冴えてきた所で少しだけ目を開けると、爛々と光った赤い瞳が私を見ていた。
「起きたか」
『嫌です』
「ダメだ」
その小さい体のどこにそんな力があるのかと思うけれど、私をひょいと担いで宿屋の窓を開けるとその窓枠に足を掛けた。
『っ、いやいやいやっ!窓!ここ、窓ですよ!』
「……我の翼を見せてやろう」
いつも背中に小さな羽根を付けていたけど、人型では機能しないんじゃ……!?そんなことを考えているうちに彼女は窓から飛び出していた。
『ひっ……!』
ふわっと浮いた瞬間、思わず私より小さなカルラにしがみついてしまった。
「フハハッ、可愛い奴だ」
バサバサッと音が聞こえて目を開けると、いつも見ている小さな羽根がとても大きく開き動いている。そして下を見ると、宿屋の上空。
『カ、カルラ、どこかに下ろしてっ』
「……むぅ。我に掴まっていればいいだろ」
足がぶるっと震えて下を見れない。みっともなくしがみつく私を笑うカルラの髪を引っ張り、やっとのことで屋根の上に下ろしてもらうことに成功した。
「……おいっ!ハゲたらどうする」
『あはは。その時は笑ってあげますよ』
「……ふんっ!……構わんが困るのはおまえだ」
『……え?何でですか?』
「ハゲたつがいを持ったおまえが笑われるからだ」
『……ぷっ……ふふっ、そうですか』
「……おいっ!今、笑うなっ。我はハゲておらん!」
屋根の上から大きな満月がよく見えた。
……カルラがこうして連れ出してくれなければ、今日が満月だということも知らずに眠っていただろう。しばらく満月を見上げていると、急にカルラが静かになる。……ふと気付いて隣を見ると、眠そうに目を擦った後、私の膝の上に頭を置いた。
『……寝るんだったら、ベッドで寝てくださいよ。っていうか、こんなすぐに寝るなら私を起こす理由無かったですよね!?』
「理由……なら、ある」
『……何ですか』
「……おまえと二人きりになりたかった」
体を起こし、私の頬にキスした後、頬擦りする。
……それが竜の躰を持つ彼女なりの愛情表現なのだと、最近思い知らされている。……そしてそんな彼女の愛情表現にちょっとキュンとしてしまっている私も居る。
『……反則ですよ、こんな可愛い顔して』
軽く肩に甘噛みした後、ズルズルと落ちるように寝入ったカルラ。
冬眠中に無理矢理起こされた、というのは本当なのだろう。カルラは昼間良く寝ている、起きている時間よりも多いぐらいだ。
『………………え?待って、もしかして私、降りれないんじゃ……』
静かに彼女が寝入った後、そろそろ宿屋のベッドに戻ろうかと思った所でハッと気づいた。……これ、カルラが降ろしてくれなきゃ降りられない……。でも今、彼女は海よりも深い眠りに落ちている……気がする。
『カルラ、カルラッ』
「…………んぅ……」
『…………ヤバイ……』
降りれないし、……後でサカラのお叱りを受けそう……。
『……まぁ、二人のことだから私たちのこと、見つけてくれるだろうけど……朝までここか』
何故かどこにいても私の居場所はバレてしまう。
……これまでの逃走回数が物語っている。魔王ちゃんたちからは逃げられない、と。
「…………あらあら、随分と仲がよろしいことで」
『……ひっ!?……ゲホゴホッ。……い、いつからっ?』
ふと諦めて夜空を見上げていたら、サカラが隣に寄り添っていた。……ということは、と反対側を向けば、アシュラがにこっと私を見て微笑んでくる。
「お月様綺麗だね~」
「……あら?アシュちゃん、わたくしに抜け駆けして召喚士様に告白ですか?」
「……へ……?何が?」
『……えっと、昔の文学で、”月が綺麗ですね”は、”あなたを愛している”を遠回しに伝える言葉なんです』
「……ふぇっ?」
滅多に顔色を変えないアシュラが顔を真っ赤にして俯いた。そしてどこから持ってきたのかパンをかじっている。
「むぐぐぐぐ」
「ふふっ。アシュちゃんがこんなに照れるなんて、召喚士様は罪作りですね」
そう言い、私のお腹に手を回して抱き付いてくるサカラ。私は固まり、されるがまま……。僅かに心拍数を上げる心臓、私はそれを気取られないように必死だった。
「……今はこのままでも構いませんが、……いつか抱きしめ返してくださいね?召喚士様」
『…………ふぁいっ』