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vol_1 魔王ちゃんたちを見守る壁になりたい。




「……ふぇ……?魔王は私を含めて108人いるよ?」


 雑踏の中、屋台で購入した大ぶりな獣肉の串焼きをワイルドに頬張りながら、彼女は言う。

 まだあどけない顔をした”自称魔王”ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべながら、もしゃもしゃ串焼きを美味しそうに食べているが、屋台のおじちゃんはこの数時間ひたすら串を焼き続け、私の路銀は恐るべき速さで消費され底をつきる寸前、お互い消耗戦だった。


『アシュラ、ストップ。私のお金が尽きるし、おじちゃんが串を焼きすぎて倒れる』

「ふぐぅっ!!」


 新しい串を手に取ろうとした所を手で制す。だけどこの辺りに漂う美味しい肉汁の香り。その体勢のまま止まった魔王ちゃんは目を閉じその口からよだれを垂らしていた。小さな鼻がその肉汁の匂いをお腹いっぱいに吸い込もうとして大きく膨らむ。……その様子は『待て』と言われてずっとおあずけされている大型犬のそれだった。


「……あらあら、よだれが。アシュちゃんこちらを向いてください」

「んんんっ」


 よだれとソースで大変なことになってるアシュラ、後ろから現れた少女がその口元をハンカチで拭う。

 んぐぐっ……壁になりたい……。

 その様子は姉妹のよう。清楚な彼女も”自称魔王”ちゃん。おっとりとしているように見えてしっかり者な彼女はいつも食い気に走るアシュラのリードを引いている。別行動していた彼女がどこへ行っていたのかと思えば、荷物が彼女の好きな本だらけになっていた。


「……えへ、ごめんね?サカラちゃん」

「……もぉ……せっかくのお洋服もソースで汚れてしまいましたね」

「ぅっ……ごめんなさい……」


 二人の微笑ましいやり取りを息を潜め眺めていると、彼女が私に気付いて笑みを向けてくる。


「……あら、わたくし召喚士様を放っておいて、いけませんね」

『……え?むしろ放っておいていいから、続けて?サカラ』


 むしろもっと二人のわちゃわちゃを見せて、という本音は隠しておくことにする。


「ん~~……そうですか?わたくしとしては召喚士様のお世話もしたいのですが」

「私も私もっ!」


 二人の”自称魔王”ちゃんたちがキラキラした目で私を見つめてくる。

 ……どこが”魔王”なのか。むしろもっと魔王らしくしてほしいのに。彼女たちの可愛さが魔王並みの破壊力なのだ、と力説されたら信じるしかないぐらいだ。


『……わ……私はいい、壁だから』

「……壁、とは?……あぁ、もたれかかる、もしくは体を預ければいいのでしょうか?」


 ”壁”という言葉に掛かる動詞を連想し、その通りにサカラが私に体を寄せてくる。魔性という言葉が似合う彼女の視線に戸惑いつつ目を逸らすと、背中から「壁だぁー!」とタックルされた。


『ぐあぁ~やられたぁ』

「えへへ。やっぱり私がいっちばん強い魔王だね!えっへん」

「……まぁ、アシュちゃんは可愛いですねぇ。でも召喚士様が死んじゃいますよ?」

「わわわっ!ダメダメ、死んじゃやだ!ご飯食べれなくなっちゃうよっ!」


 街角の子供たちに見せる劇のように、魔王に倒される勇者を演じる私。バタッと大げさに地面に倒れると、アシュラに思いっきり肩を揺すられて余計フラフラになった。


『……壁って大変……』



;;;



 どうしてこうなったのか、それは一週間前にさかのぼる。


「……我らの悲願を叶える為に、魔王様を蘇らせるのだ……!」

『ははぁー』


 よくある悪の教団に属していた私は、親が入信していたせいで生まれた時からこの教団に属し、魔王様を復活させるべく活動していた。

 例えば街や村の子どもたちに魔王様はすごいんだぞ、という紙芝居を読んで聞かせたり、子どもたちに魔王ごっこと称して、勇者をコテンパンにする優越感を刷り込んでみたり……大人たちには魔王の手下は復活の際には土地を与えられ、福利厚生もバッチリです、なんて詐欺めいた宣伝もしていた。

 そんな活動の中で、私がうっかり魔王様の封印を解いてしまったのだ。


「……あれぇ……?」

「……ふぅ。……やっと出れましたね」


 これまで魔王が封印されていると言い伝えられていた霊石の祠。一人、祠の掃除を任された私は、こんな悪の教団生活に嫌気がさしていたせいか、ストレスのあまり霊石めがけてホウキの柄を振り下ろしていた。そして何の因果か、その霊石は綺麗に真っ二つに割れ、彼女たちが光と共に目の前に現れたのだ。

 ……まさかホウキごときで割れると思っていなかった私は顔面蒼白。


「……お腹空いた」

「アシュちゃんってば相変わらずですねぇ。……あら?貴女がわたくしたちを外へと出してくれたのですか?」


 その場の空気になっていれば見つからないと思っていたのに、二人に気付かれてしまった。慌てて手に持っていたホウキを後ろ手に隠すと、清楚で勘の鋭そうなその女の子は私を見るなり微笑んだ。

 もう逃げられない……。そう直感が働く。その女の子は笑っているのに恐怖を感じた。


『……結果的に見れば……そう、なります、……か?』

「えぇ、そうなります」


 霊石をストレスのあまりホウキで叩いた、という事実を言うに言えない……。むしろ彼女はそれを知っていて言っているのだろうか。

 言葉を濁す私に対して、彼女はハッキリとそう告げる。隣の彼女は私たちの会話に興味を持つどころか指を咥えてお腹を鳴らしていた。


「……召喚士様、とお呼びしましょうか。まだお若いようですね」

『……まだ10代にしか見えないあなたたちに言われるととても違和感があるけど、人間なのでまだ20年とそこそこです。……それより召喚士というのは……?』

「ふふっ。封印されたわたくしたちをまたこの世界に連れ戻していただいたので。……昔は大きな”マホウジン”?と言うもので喚ばれましたが」

『……本当に……魔王様……?』


 今更ながら彼女の雰囲気に圧倒され、私はその場に膝をつき頭を下げる。

 本当に居ると思わなかった。オカルト教団が自分達で神を創り上げているのだと思っていたのに。

 もしかしたら、もしかしたら、その指一つで私の首なんて簡単に吹き飛んでしまうのでは?と思うと恐怖で震えた。


「……どうしました?震えていますけど。……わたくしたちが怖いのですか?」

『っ……ま、魔王様っ!気軽に口を利いてしまい申し訳ございませんっ……!』

「あらあら……怖がらせてしまったみたいですねぇ。アシュちゃん、どうしましょう」

「……サカラちゃん、そんなの決まってるよ……!」


 今まで動かなかった隣の彼女が動き出す。……指を咥えて私を見る目は飢えた獣のそれだった。

 食べられる……!直感的にそう思い、やるなら一思いにやってほしい、と願った後、聞こえてきたのは大きな叫び声だった。


「ご飯食べさせて!!!」


 魔王様が封印された地、として祠が建てられているこの場所。建物内にその声が響き渡る。


「……だ、そうですけど、どうなさいます?」

『はっ……はははははいっ、今すぐっ!!』


 笑顔でそう言われ、私はとりあえず持っていたお弁当を彼女に渡した。

 勢い良くご飯や具材を頬ばる彼女の顔はとても幸せそうだった。


「はぐはぐはぐっ、はぐはぐはぐっ」

「……まぁ。久しぶりにアシュちゃんの食べっぷりを見ましたが、相変わらず可愛らしいです」


 みるみるうちにそれを平らげ、おかわり!と気持ちのいい声が返ってくる。今、お米を炊いた釜があれば山盛り一杯にご飯をよそってる所なんだけど……。


『……ごめんなさい。今はそれだけしか』

「え……えぇぇえええ!?たっ……足りないよぉ……これじゃ動けない……」

「……ねぇ、召喚士様?これは貴女のお弁当でしょう?……どこか他にご飯を食べられる場所はありませんか?」

『……え?でも……その、教団に一度連絡を……』


 このお二人を外に連れ出していいものか、とその場の判断が出来ずにいると、私に問いかけた彼女に手を引かれた。


「魔王の命令です♪」


 後ろにハートでも付いてそうな声。でもそれが彼女には似合ってしまう。揺れていた天秤は一気に傾き、私は二つ返事で”自称魔王”様たちを連れ、祠の外へと出たのだった。



;;;



 ――そして今に至る。

 近くの街にまで移動するなり、二人の魔王様は飛び出していった。

 一人はわざわざ言うまでもなく食べまくり、サカラは本を買い漁っていた。もちろん私のお金で。

 数日で私の路銀は尽きようとしている。さすが魔王……と私は恐怖した。とりあえず教団には連絡しておいたけど、あまり信じているようには思えなかった。だってそうだろう、みんな本当に魔王がいるなんて思っていなかったんだから。


『魔王様は108人いるって本当なの?サカラ』

「……?えぇ、それが何か」


 彼女が珍しく不機嫌そうに答える。そういう情報を人間に教えることなど出来ないのかとこれ以上聞くことを諦めようとしていたら、ジッとサカラが私を見ていた。


『もっ……もう聞かないから怒らないで?私たち教団の人間も魔王様が本当に実在していたことも知らなくて、それで……』

「そうですか……。てっきり私たち以外の魔王の方が良い、と言われてしまうのではないかと思いました」


 表情を消していたサカラにパッと笑顔が戻る。


『……信仰方針的な意味?私は特に信仰してる悪魔もいないし……』

「もぉっ……そうじゃありません。召喚士様は鈍感ですね」


 何だか知らないけど呆れられてしまった。いつも微笑んでいる彼女が頬を膨らませているのを見て少し可愛いなと思ってしまう。


「うぅ……ねぇ、召喚士ちゃん。お金ってどうしたら稼げるの?」

『……教団に行けば二人とも崇められてお金を気にすることなく暮らせると思うけど』

「それは……教団の中で暮らせ、ということなのでしょうか?……それって召喚士様とも別れるということですか?」

『え?あ……まぁ。私は一介のオカルト教団員だし。……それに魔王様って自分の居城にずっとこもってるものなんじゃないの?』


 私は詳しいことは知らないけど、1500年前の戦いで魔王様たちは勇者に封印されたと聞いている。その中で魔王が人間たちを蹂躙したエピソードは多々あるものの、その殆どは教団の作り話だし。実際は自分の居城で勇者が来るのを待ち続けていたらしい。

 この二人を見ていると、人間と対立していた、というのも嘘のように思える。悪いことなんて一切してそうに思えないし。


「……サカラちゃん、今の時代、魔王もちゃんとお金を稼がないとダメだと思うの!」

「えぇ。わたくしも今、そう思っていた所です」


 二人が手と手を合わせて何か重大な決意を交わしている。これはまた壁にならなくては……と思っていた所で、二人に腕を掴まれた。


「どうしたら手っ取り早くお金を稼げるの?召喚士ちゃん」

『えぇっ!?……えっと……私はどうしてもお金が欲しい時は冒険者教会のクエストを受けてるかな。薬草を集めたり、獣を捕まえたり。……盗賊退治とかレベルの高いものならアシュラの言う通り手っ取り早く稼げると思う』

「じゃあ、それやろう!そしたらお腹いっぱい食べれるよね?」

「えぇえぇ、それはいいですね。召喚士様の懐も心許ないようですし」

『ぐっ……お気遣いありがとうございます……』


 彼女たちと一緒にいて大変なのは金遣いの荒さぐらい。それ以外は二人とも素直で良い子だし、魔王様として悪の限りを尽くし私たち人間の前に君臨するのかと思えば全然そうじゃなかった。


「ほら、行こう?召喚士ちゃん」

「……私たち、こう見えて強いんですよ?」

『……本当に……?』


 ……正直二人の強さがどれ程のものなのか気になっていた。魔王様とよばれるぐらいだし、こんなに可愛い女の子に見えても片手一本で軽く捻ってしまうんだろうか。

 おー!と元気いっぱい手を上げたアシュラとサカラ。その二人の実力に少しワクワクしながら街の冒険者協会へと向かった。



;;;



 街の中心から少し離れたレンガ作りの建物に、腕自慢の旅人から学者のような風貌の人が何人も出入りしていた。私……というか後ろから付いてくる二人を見て、周りがコソコソと話しているのが目の端に映る。

 ……私、もしかしてこの可愛い女の子を連れて変なことしようとしてる悪人だと思われてる……?いやオカルト教団員な時点でそう見られても仕方なかったんだった。


「……あら、いらっしゃい。教団の宣伝しに来たの?それとも路銀が尽きたのかしら?」

『……後者です』


 いつものように冒険者協会に向かうと、受付の女性に苦笑いされた。


「……今日は随分と可愛い子たち連れているじゃない。……まさか変なこと、」

『違いますっ!私が言っても説得力ないと思いますけど!』

「ふふっ、わかっているなら良かったわ」


 一瞬冷や汗をかいた後、案件のリストを見せてもらった。

 その中で一番高価な案件は凶悪なモンスター退治。その次が野盗退治だった。一応二人にも内容を見せてから判断してもらおうと二人を探していると、冒険者協会の建物の奥、冒険者たちが情報交換もとい出会いの場で屈強な戦士たちに囲まれている。


「……あら、それはすごいですね。実際に見てみたいものです」

「わ~そんなに大きな獣……串焼き何本分だろう」


 楽しそうに冒険自慢を聞いている二人。明らか何かしらの下心がありそうな冒険者たちの輪から引きずり出す。


「ねぇねぇ、召喚士ちゃん。あの人たちがご飯奢ってくれるって!食べてきていい?」

『えぇっ!?……ちょっと待ってアシュラ、そんな食べ物に釣られて行くなんて危ないって。冒険者だって良い人ばかりじゃないんだからっ!』

「召喚士様、大丈夫です。わたくしが付いておりますから。……それに召喚士様の懐が軽くなってしまったのはわたくしたちのせいですし」


 心配しないでください、と私の手を握るサカラ。魔王様たちにそう言われて、心配なんて逆に失礼だと思い、渋々頷く。


『……気を付けてくださいね。危なくなったらすぐ逃げてくださいよ?お二人はその……可愛らしいですし』

「まぁ。……ふふっ。そんなに心配してくださるなんて嬉しいです」

「わーい。まるごとおっきなおっ肉~」

『…………はぁ』


 だいぶ温度差の違う二人を見送った後、……この余った時間どうしようかと考えた後、今夜の宿代を稼ぐ為に私は一人薬草採取のクエストに向かったのだった。



;;;



 ――そして日が暮れた頃、二人も戻っているだろう、と冒険者協会に戻ると何やら騒がしかった。建物に入るなり、受付の女性が早く、早くと手招きしてくる。


「貴女が連れてきた子たち、お手柄よ?」

『…………はい?』


 奥の部屋で二人がソファーに座りながら楽しそうに話している姿が見えた。その様子は別れる前と変わらないように見えたけど、周りの冒険者たちの反応が違う……。


「……実は、彼女たちを食事に誘った冒険者風の男たち、このリストに書かれていた野盗の一味だったのよ。……彼女たちを上手いこと連れ出して、捕まえた後売るつもりだったのね」

『…………はぁ!?』


 慌てて二人に駆け寄ると、私に気付いて手を振っていた。


『二人とも大丈夫!?』


 どこもケガをしていないようだし、服も乱れてない。何より二人ともにこにこしている時点で大丈夫だったのだと、ホッと息をつく。


「……あら、心配させてしまいましたか?言ったでしょう?大丈夫です、と」

「そうそう。いーっぱいお肉食べた後だもん。私たち最強だよ?」

「ふふふっ。ほら見てください、アシュちゃんのお腹」


 サカラが指を差す方を見ると、明らかにアシュラのお腹が大きく膨らんでいた。むしろあの野盗を全員食べてしまったんじゃないかと不安に思う程だ。


『……野盗の人たちは、食べてないよね?』

「食べないよっ!もぉ~」

「……ではこちらは召喚士様に」


 そう言ってサカラに差し出された麻袋には金貨と銀貨が入っていた。


『……!……これ、お二人が使った分より多いですよ』


 私がそう言うと、二人が顔を見合わせた。


「あったりまえだよ!だって私たちまだまだ召喚士ちゃんにお世話になるんだし」

「そうですよ?出来ればずぅーっとお世話して……いえ、させてくださいね?召喚士様」

『……きょ、……教団に戻るまでですから!そしたらお二人には従者が何人も付きますし、不自由させません!』


 うぅ……この二人と話してるとほんとに調子が狂う。こんなただの教団員が魔王様に気に入られるなんて本当ならありえないことなんだし。


「えぇー!?そんなことより私たちと冒険の旅をして世界中のおいしーものたっくさん食べようよ!」

「……そうですねぇ。わたくしは召喚士様と一緒なら旅でも、布教活動のお手伝いでも何でも構いません」

『ダメですそんなの!……魔王なんだから世界征服してくれないと!』


 きょろきょろとこちらの話を誰も聞いていないことを確認した後、私はずっと抱えていた疑問を二人に小声でぶつけていた。


「「……世界征服……?」」


 まるで何それ、とばかりに首を傾げた二人を見て、私の口からは大きなため息がもれる。


『……しようよ、世界征服』

「……召喚士ちゃんが言うなら……する?サカラちゃん」

「そうですねぇ。…………してほしい、ですか?」

『してほしいです!むしろ魔王様に支配されたいですっ!』

「あらあら……熱狂的ですねぇ。召喚士様がそうおっしゃるなら考えてみますか?アシュちゃん」

「……支配なんてつまんないと思うけど」


 周りの人たちは私たちの会話なんて意味不明だろう。またオカルト教団員が変なことを言ってる、ぐらいにしか思っていないだろうけど、目の前の二人は間違いなく魔王様なんだ、ってことは私が知っている。


「……それではまず、何からします?召喚士様」

『……え?えっと……まずこの国を征服する、とか?』

「じゃあ王様に会いに行こうっ!おーっ!」


 キラキラした笑顔で言われて思わず脱力する。


「大丈夫ですよ?行ったら何とかなります、たぶん」


 ……世界征服ってそんな行き当たりばったりな感じじゃないと思うんだけど……。でも彼女たちの楽しそうな顔を見ていたら、一介の悪の教団員がそんなこと言えるはずもなく、ただお願いします、と頭を下げることしか出来なかった。


『……そういえば、他の魔王様は?ほら後、106人居るわけでしょ?』

「……私たちのように力と意志が強い者であればこうして存在していますが、意識体だけの場合どなたかに憑りついているかもしれませんね」

『……なるほど!そうして権力が強い人間に憑りつき人間たちを悪に染めているわけですね!それは魔王様らしいです!素晴らしい』

「……召喚士ちゃん嬉しそうだなぁ~」

「召喚士様は他の方と比べると随分と変わっていらっしゃるのですね。……もぉ、ちょっと嫉妬してしまいます」


 だって魔王様が復活したっていうのに、可愛い女の子二人のイチャつきを見守る壁生活だなんて聞いてないし。いや、これはこれで楽しいけど、悪の教団員がそれでいいのか!……いや、悪くないかも。

 そんな葛藤を抱えつつ、私は二人の手を取る。


『……立派な魔王様になりましょうね』

「召喚士ちゃんが一緒ならね!」

「……はい。一生召喚士様に付いていきます」

『…………うん?……うん』


 とりあえず魔王様たちがやる気になってくれたのならそれでいい。

 魔王様がこの世界を混沌に陥れてくれるのが私たちの望みなんだから。


『これからはどんどん悪事を働いていきましょうね!太陽がこの世界から無くなるのはもうすぐです!』

「……召喚士ちゃんって変わってるね……太陽が無くなったら美味しい物食べられなくなっちゃう」

「えぇ……私たちで召喚士様の目を覚ましてあげましょうね、アシュちゃん」


 ふと見ると見つめ合っている”自称魔王”ちゃんたちの姿が目に入り、私は壁に徹して見守ったのだった。





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