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――期限付きの恋だった。
そんなの、わかってたはずなのに。
「セーラの病は治った。ありがとう、私の側にいてくれて」
ありがとう。これから、切り捨てられる私には残酷な、言葉だと思った。いっそ、使い捨てられた方があなたを恨めたのに。
「……いえ」
セーラ。王太子アクト殿下の恋人。そして、私の親友の名前でもある。私は彼女の代わりに、アクト殿下の婚約者となった。王太子の婚約者は、本来なら彼女がなるはずだった。けれど、彼女は難しい病にかかってしまった。治療に時間を有する病に。けれど、王太子の立場の安定には婚約者が必要だった。後ろ楯のある、健康な婚約者が。
そこで、白羽の矢がたったのが私だった。公爵家の娘であり、健康に問題がなく、何よりセーラの親友だから、彼女の病が良くなれば、身をひく。
そして、セーラの病はよくなった。そのことはとても、嬉しい。でも、この恋の消費期限が来てしまったことが、とても悲しかった。
「レオーネ、君には、幸せになってほしいと思ってる。だから、いい縁談を探させてくれ──」
幸せになってほしい。
隣にあなたはいないのに?
心が千切れそうだった。手放しにセーラの治癒だけを喜べない自分が醜くて、嫌だ。
けれど、心とは反対に、口許は自然と笑みを形作っていた。
「ありがとうございます」
私の恋は、終わった。終わったはずだった、それなのに。
翌日、目を覚ますと、5年前に時間が巻き戻っていた。
「お嬢様、起きてください。朝ですよ」
侍女の声で目を覚ます。
「んん……」
まだ、もう少しだけ眠っていたい。
「お嬢様、今日はアクト殿下の誕生日を祝うガーデンパーティーがあるんですから! 支度が間に合わなくなりますよ」
アクト殿下の誕生日を祝うガーデンパーティー? セーラの治癒を祝うパーティーではなく? 浮かんだ疑問に、眠気は自然と吹き飛んだ。
「……え?」
飛び起きて気づいた。部屋がいつもより広い。どういうこと?
「最近、部屋の改装でもしたかしら?」
「まだ寝ぼけてるんですか、レオーネ様」
それに侍女のサシャも私が知っているよりも随分と若い姿だった。
ぼんやりとしながら、目を擦ると、自分の手の小ささに驚く。
「え?」
まさか。そんなはずは。そう思いながら、鏡の前にたつ。そこに映っていたのは、幼い姿の私だった。
「ねぇ、サシャ。今日は何年の何日だったかしら?」
私が震える声で尋ねると、サシャはよどみなく答えてくれた。その日は。セーラがアクト殿下に見初められるパーティーが行われる日だった。そして、私がアクト殿下に恋に落ちた日でもある。
私は夢でも見ているの?
けれど、頬をつねってもとても痛いだけだった。
混乱している私にも、サシャは容赦がない。気づけば、ドレスに着替えさせられ、髪を結われ、馬車に乗せられていた。
もし、仮にこれが現実なら。どうして、過去に戻ったのだろう。それも、わざわざ私が一番見たくない日に。
疑問はつきないけれど。これでも私は公爵令嬢なのだ。パーティーでは、それに恥じない行動をしなければならない。そう思っていたのに。
「レオーネ嬢、私と話さないか?」