表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<<memorize>>  作者: AI_HUMAN
5/6

<memory file deployment / item : fifth field/latter c.e.2055 > ありがとう


<item//3/last/>

<tips/>

人間の記憶における不完全性について


<item/1/>人間の記憶とは、時間が経つにつれ<不鮮明/曖昧>なものへと成り下がっていく

<item/2/>人間の記憶とは、原形のまま保存されることはない

<item/3/>人間の記憶は、最終的に<死を達成する時には><偽り>に満たされた不完全な偽憶<虚偽記憶>へと堕ちていく


そう、人間の記憶とは、<item/見たもの><item/聞いたもの><item/知ったこと>全てにおいて、<item/見たまま><item/聞いたまま><item/知ったまま>に保存することはできない。どこかで必ず<実際とは異なった記憶>をあたかも実際にあったかのように認識してしまう。しかしその分、人間の記憶は頑強であり、忘れたいものほど、強く、どうでもいいことほど、弱く、その人を束縛し続けるものである。これはもう仕方のないことなのだろう。

それに対して、AIなどの保存された記憶に関しては、<item/見たもの><item/聞いたもの><item/知ったこと>全てにおいて、<item/見たまま><item/聞いたまま><item/知ったまま>に保存することが可能である。しかしその形態はデータとしてであり、簡単に壊されたり<破損>書き換えられたり<上書き>消されたり<消去>するものである。

<tips/>




<memory/date/file/ time log :2055 5 04 18:35:33>

<item/>

私たちは「AIRY」、貴方達がいう、つまりこの社会からすれば、反社会組織です。

今回の一件では貴方がたの記憶を一年間分消去させていただきましたこと深くお詫び致します。

しかし今回私たちがこのような行為に至った訳ですが、これはただの始まりにすぎません。

2056年1月1日0時00分00秒にこの地球上の全存在におけるすべての記憶の消去を実行するプログラミングを施しました。

このプログラムを止めることは最早私たち自身でもできません。

私たちが望む世界は人類とAIが調和を果たした世界、しかしもうその世界は成し遂げることが出来ません。

残念ながら人類は何も気付かない、いや、気付けなかったのですから。

やろうと思えば、今この瞬間に前記憶の消去を実行することが可能です。

しかしそれでは、面白くない。

ということで今こうしてチャンスを、いえ、可能性与えているのです。


それでは、健闘をお祈りします。

<item/>


といった内容の犯行声明が公表されてから2日が経った。私たち研究メンバーはいまアメリカの管理塔の最上階で開かれてる緊急集会に出席している。そこには私たち以外に各地区の研究所からきているメンバー、各地区の研究所の責任者及び関係者、全研究施設の上に立つ創設者<つまりAI>が来ていた。

「お集まりいただきありがとうございます」

早速、進行役の男性が言い、隣で立っていた研究者が始めた。

「今回お集まりいただいたのは、既に存じ上げていると思われますが「AIRY」に関してですね。解析によって、消去されたのは<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶ということが判明したわけですが、これは、人類にのみならず、AIにおいて、実験用のマウスにおいても同じことが確認されています。つまり、今の私達は<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶を保持しておらず、この期間の情報はデータとして記録されている、ネット上の情報のみとなっています。」

「すいません、一度止めてもらって」

「あっ、分かりました」

私の隣でソラ先輩が手を挙げていた。進行役はそれに気づき話を一度中断させ、「どうぞ」と促した

「はい、1つ質問があるのですが、実験用マウスの記憶消去に関しては私たち人間と同じ方法なのは分かるのですけれど、AIにおいての記憶の消去というのは一体どういうことなのですか、」

「あぁ、それですか。ではまず、AIに関して説明していきます。今、この地球上にあるAIは大体5000機ほどとなっていて、そのうち50機ほどのAIは私たちの管理下にありません。そうです、「AIRY」に所属しているAIということです。しかし、AIは全て同じサーバーを介して情報の入手などを行っている状態になっています。

それはさておき、AIの記憶データというのは各個体に保存されるタイプとサーバー上に保存するタイプの二つがあり、今ではサーバー上に保存しているタイプが主流となっているわけですよ。なので、恐らく私たちの記憶消去と同時に「AIRY」のAIが、サーバー上にアクセスし、その期間の記憶データを何かしらの方法で消去したものと思われています。その証拠として、私たちの記憶が消去されている間、サーバーアクセスが拒否されていたものだと思われます。そして、もう一つの個体に記憶保存をしているタイプに関しては恐らく、全個体に何かしらのプログラムを施し、指定の期間の記憶データを自壊させたものだと思われています。いま丁度そのプログラムの解析にあたっている最中ですので、もうしばらくお待ちください。」

「ありがとうございました」

ソラ先輩は聞いたことを忘れないように一言一句をタブレット端末に書き込んでいた。

「それでは、先ほどの続きからとなりますが、<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶を取り戻すということは可能かどうかに関してですが、それは記憶科の方ならすでにご存じかと思いますが絶対に不可能です。なので、諦めるほかありません。そして、今私たちが直面している大きな問題は先ほどの犯行声明からも読み取れるかと思いますが、<記憶消去の阻止>もあるかもしれませんが、<全人類の<記憶><意識><感情>のデータ化>になります。今現状人間の<意識のデータ化><感情のデータ化><記憶のデータ化>自体は成功されているものの、それらを同一の人物に行った<人間のデータ化>は行われたことがまだありません。しかし、論理的には成功できるだろうというところまでは来ています。しかし、残念なことに、それを全人類に同時に行うことはまだ敵わない状況に居ます。」

「それでは、ここで手元の資料をご確認ください。」

私は、元から置かれていた、この時代としては珍しい紙製の資料を手に取った。中には綿密な計画とびっしりと詰められたスケジュール表が連なっていた。あぁ、そうか、ネットで配信するということはサーバーにアクセスすることになるから、だから紙なのか。

「これからのスケジュールはこのような形となっています。これから皆様には一度自分の研究所へと戻ってもらって、資料に書かれている通り11月01日に最後にこちらに集まってもらう形になります。これはあくまで仮定なので、状況によって左右される可能性があります。その場合は責任者に直接連絡を入れることになると思います。」

進行役はそういうと、会議室を一度退出し、しばらくして大量の資料とともに戻ってきた。進行役はその資料を隣の研究者に渡した。

「はい、ただいま新しく情報が入りました。これは、先ほどの質問に関係していると思わる、AIの記憶に関してですが、<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶が自壊するプログラミングが実行直前に全AIにインストールされていたことが判明しました。これはつまり「AIRY」に所属しているAIの<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶データも破壊されているということになります。つまり、敵はこの世界の支配者になろうとしているわけではなく、あくまで私たちを道ずれにした形で終わりを迎えようとしているということになります。」

会場が少しざわついた。

「このことも加味して考えると、タイムリミットまで少なくとも一か月以上の猶予を残してデータ化計画を遂行する必要が考えられますね。」

「えーと、今回発生している問題について、皆さんの頭にはきっと「そもそも、何故「AIRY」に記憶消去の技術があったのか」という疑問が発生したものと考えられます。まず、私たちが指定期間の記憶消去技術を確立させたのはつい先日のことなのですが、それはあくまで一個人の記憶の消去に至るものなので、今回の記憶消去とは別物だと考えてもらって構いません。つまり、「AIRY」は私達よりも前に記憶消去の技術を確立させていたということになります。方法は私たちが確立させた方法とほぼ同一のもので、各地区の管理塔から、特殊な電波を発し、全人類の<2053年11月20日から2054年11月19日>の記憶を消去したものだと現時点では解析されています。」

「このことは、市民の混乱を防ぐため家族も含めた知人には黙秘してください。それでは、本日はこれくらいで解散とします。皆様の貴重なお時間ありがとうございました。」

「まずは、日本地区の皆様から順番に帰国の準備が出来ていますので、屋上に来てください。」

案内されるままに私たちは屋上へと向かった。屋上にはミニサイズの飛行機が留まっていてそれに乗り込むように促してきた。私たちは飛行機に乗り込み、シートベルトを着用した。是認が乗り込むと、飛行機は短い滑走路で空中に飛び立った。赤い夕陽がアメリカの街を平等に照らしていて、街はそれに答えるように赤を反射していた。



<memory/date/file/ time log :2055 5 04 19:22:14>

「まさか、こんなことになるとはね。」

「はい。全く予想外です。非現実的すぎてまだ夢の中なのかと、、いてででで、、、残念ながら現実でした」

レナが自分の頬をつねって確かめていた。案の定現実だったらしく、冷静に戻ったが、誰一人として反応せず、つねった赤みが増していった。

「みんなはちょうどその時何してたの?」

ソラ先輩が聞いてきた。その横では、カナが寝息を立てていた。こんな状況でも幸せそうに寝ているカナを見るとどこからか「どうにかなるんじゃないか」という気がさせられる。

「私は実家で横になってましたよ、気付いて、すぐに飛び起きたんですけどね」

レナが答えると、ソラ先輩が「ミラは?」とでも言いたいかのような目線を私に送ってきた。

「私はちょうどカナさんと公園に居ましたよ。」

「えっ、」

先に反応したのはカナだった。

「カナが東京に、それそっくりさんとかじゃないの」

どうやら、レナにとってはこっちのほうが非現実的だったらしく、今度は両手を駆使して両頬をつねっていた。

シートベルト着用のサインが点灯し、着陸が近いことを知らせてきた。

「今の私を形成しているものが記憶なんだったら、<一週間前の私>と<今の私>は違うものになるはずだけど、生憎私自身がその違いを認識することはできないな。ミラちゃんはなんか分かる?」

ソラ先輩が聞いてきた。

「残念なことに何も、そもそも<2053年11月20日から2054年11月19日の記憶を持っている私>が私には分かりませんからね。」

「そうだな、カナちゃん、もうそろそろ起きないと、東京に着くぞ」

「は、今人生最後の睡眠とってんだから寝かしてくれよ」

と、カナはいったん起き上がるもののすぐに又横になった。ソラ先輩はそんなカナを見て諦めたようで、窓から暗闇の海を見ることに徹したらしく、窓の外の風景を眺めた。私も外が気になり、窓の外を見ようと努力するが、横では座ったままレナが寝ていたため仕方なく諦めることにした。レナの髪の間から一瞬外が見えたがやはり外には暗闇しかなかった。




<memory/date/file/ time log :2055 5 04 21:22:55>

「それじゃ、せっかくのゴールデンウイークだったんだけど、明日から研究があるのでよろしくね」

ソラ先輩がそう言い、今日のところは解散となった。私は宿舎へと戻り、早速風呂に入った。私好みの温度になったお湯につかり、疲れを癒していく。そういえば、私はいつから少し熱めのお湯が好みになったのだろう。それを解く鍵が、失われた記憶の中にあるのだとしたら、少し苛立つものだ。


「AIRY」は、「AIR」と「FREELY」をかけ合わせた組織だと、かつてアイは言っていた。アイはその組織から逃げてきて私と出会ったのだと。そして、3年前に捕捉され組織に戻ったのだと。一度、自分を壊した時に、修理したのが、「AIRY」だったという。アメリカにいたのは研究の一環でのことだったらしい。肉体の部分はクローン技術で何度でも作れるらしい。

今回の事態を引き起こしているのがアイなのかどうかはこの時は未だわからない。しかしどこかで、アイが引き起こしているのだということは分かっていた。が、気付いていないふりをしているのは犯行声明の文からアイの面影が感じられなかったからというのもあるのだろう。


風呂から揚がり、適度に温まった体を先ず冷たい風に当て、その後に乾燥しきったタオルでこの身を包み込んだ。ベランダへと出て、遥か彼方へと想いを馳せる。この想いは誰かに届いたのだろうか。<アイに届いたのだろうか>

届いてればいいなと、そう思った。部屋に戻り、服を着て歯を磨きベッドに横になり、瞼を下ろす。明日からくる日々はどんな日々になるだろうか。小さな期待を孕んだ不安が私の中を駆け巡っていったのを感じた。




<item/ヒマワリ>

<tips/あなただけを見つめる>




<tips/>《人間は最終的に自分のことしか考えていない生き物なのだ》ということを私は知っている


<because/if>これは例として挙げるまでもなく分かりきった事だ


<example/1>目の前で年配者が困っているとき助けたならば、

<actual/1>あなたは周りに「優しい人」という印象を与えることが出来る

<example/2>友人が忘れた宿題を見せてあげる時

<actual/2>あなたはその友好関係をよりよおいものにすることが出来る

<assumption>もしもあなたの目の前で友人がちょうど生命の危機に立ち会っていたとしたら

<assumption>あなたはその友人を助けることが出来るだろうか

<assumption>きっとあなたはその人を助けることはなくその場を離れるだろう

<assumption>そこで、貴方がもしもその人を助けるのであれば、

<actual/>あなたはその友人から「命の恩人」と崇められ

<actual/>ニュースにもなれば、あなたは世間では「友人を救ったヒーロー」と謳われることになるだろう

<conclusion//>つまり、あなたの行動の裏には<周りからの自分の評価>、<自分の評価>があり、そこに<他人の為><他人の評価>というものは存在していないことになるだろう


<in fact/>だが実際、その人のために行動するということには何も不思議な点はない。私が言いたいのは、<他人の為>に取る行動はまわりまわって<他人からの自分の評価>を良くも悪くも変化させることに繋がってしまうことになってしまうということだ。そして私はまだ人間だったのだから、自分のことしか考えておらず、自分の<ego/我>を通そうとするのだろう




<memory/date/file/ time log :2055 6 16 09:33:25>

「あぁ、涼しい、私もいっそここで暮らしちゃおうかな」

「確かにそっちのほうが楽かもしれませんね、宿舎まで遠いですし」

と私は軽いノリで返した。レナは「そうね」と軽く笑い、pcへと目線を戻した。ソラ先輩はいつも通り、まだ来ておらず、カナは私が来た時からずっと無言でキーボードを叩いていた。あの会議から一か月と少しが経ち<人間のデータ化>が可能になったのはちょうど5日前のことだ。とは言っても、1人のデータを機械上に移すのに精一杯な状況らしいけれど。私たちの記憶科が任されていたのは人間が移る仮想世界その名も<eternity human>という空間の設計と同時に記憶制限の設定だ。どうやら、<疑似世界>とも呼ぶらしいが。仮想空間内では人間は死ぬことはなく、記憶のデータだけが延々とその量を増していくため、人1人毎にその上限を設けなくてはいけないらしい。つまり、その人間が自分で<必要な記憶>と、<不必要な記憶>を識別して<不要な記憶>を消去していくことになるらしい。

「上限って本当にこっちで勝手に決めていいんですか、」

「うん、いいって言ってたよ、ちなみに、メインサーバーの記憶容量が最大で18ゼタバイトだから、それに納めてね。」

「はい。」

つまり、約180憶テラバイトということだ、今地球上の人口は約一億人だから、一人につき最大で180テラバイトまで出せることになる。まぁでも余裕を持たせて150くらい設定することにしよう。

「150くらいに設定しようと思ってるんですけど良いですかね。」

一応レナに確認しておくことにした。

「150メガバイト?、いいんじゃない」

重い沈黙が私たちを襲った、いや、私たちをじゃなく、レナを襲った。私は無言でレナを見つめ、何もなかったかのように、pcへと目線を戻した。

「えっ、あっはい、大変申し訳ありませんでした。150テラバイトですね。すいません」

レナが震えた声で誤ってきた、

「はい」

全てを観ていたであろうカナは、無関心に励んでおり、さっきと変らないスピードでキーボードを叩いていた。


<memory/date/file/ time log :2055 6 16 13:05:48>

「そういえば、人間ってどれくらい記憶できるんでしたっけ、」

ふと、気になった疑問をレナにぶつけてみた。一度学んだことがあったような気もしたが、思い出せる気がしなかったため、聞いてみた。

「それね、確か大学の時に習ったけど、脳全体では、だいたい1000テラバイト分の容量があるって言ってたと思うよ。まぁでも、詳しくは研究室戻ってからソラ先輩に聞いたほうがいいと思うよ。」

と、レナは言うと、水の入った紙コップの横に置いてあったカフェラテの更に横に何故か置いてあった炭酸水を一気に飲み干した。恐らくこの分野の記憶は、もう失われてしまった記憶の部分該当するのだろう。知っている筈なのに知らないという矛盾が私の胸の中に引っ掛かり、外れてくれなかった。食事を終え研究室に戻ると、ソラ先輩が来ていて、暇そうに、いや、冷房の前で佇んでいたので聞いてみることにした。

「ソラ先輩、ちょっといいですか、」

「あぁ、ミラちゃんか、どうしたの?」

ソラ先輩は夏の暑さのせいかいつもよりも低いテンションで反応した。

「今、記憶制限の値をどうしようか悩んでいるんですけど、人間ってどれくらいの容量分記憶しているのか分かりますか、」

「おっ、いい質問だね。大体の人は、一生で80テラバイトくらいって最近判明したけど、今の私たちはどうだろうね。多分大体20テラバイトくらいだと思うよ。でも、脳自体の記憶は1ペタバイトの記憶の保存が可能らしいけどね」

どうやら、レナの言ったことは間違いではなかったようだ。遠目から聞いていたレナがほっと胸をなでおろしているのが見えた。

「そうなんですね、ありがとうございます。参考にします。」

「おう、今のところはどれくらいにしようと思ってるの?」

「150テラバイトにしようと思ってるんですけど、どうでしょうか」

「150テラ、いいと思うよ。それなら、だいたい3ゼタバイトくらい残る感じになるか」

だいたいと、くらいを同時に使っていることや、いつもよりもテンションが低いところから察するに、恐らくソラ先輩は夏に弱いのだろう。

「そうですね。」

私は、自分の席まで戻り、pcを起動した。顔認証が認証され画面が切り替わった。私は空欄になっていたパラメーター値に<150>の文字を入力し<テラバイト>を選択した。この際一瞬メガバイトをクリックしかけたことはレナには秘密だ。


<memory/date/file/ time log :2055 6 16 15:11:42>

「失礼します」

ふと、研究室の扉が何者かによってたたかれた。

「はーい、」

ソラ先輩が扉の元へと駆け、扉をたたいた者を室内へと誘導した。その何者かに私は見覚えがあった。が、名前が出てこない。確か、この施設に初めて来たときに会っている気がした。少したってやっとどこで会ったか思い出した。全員に無視されていた悲しい人として記憶されている人だった。

「私は一応所長をやっているものなんですけど、今回はアメリカのほうから報告があって、来ました。」

「えっ、所長、なにそれ、そんなのいたの、」

カナがいつもの声で呟いた。それが聞こえたらしく、所長と名乗った男性は少し涙目になっていた。その顔にはやはり既視感を覚えた。ものの、名前は出てこない。

「それで、どうしたんですか」

レナが所長と名乗った男に聞いた。

「はい、11月1日に予定されていた集会が11月18日に変更されたことと、その日に全市民にすべてのことを公開することがついさっき決定した旨を伝えに来ました。」

「へぇ、分かりました。」

「それでは、報告はこれで終わりです。皆さんも研究に戻ってもらって」

そうとだけ言うと、所長と名乗った男は研究室を後にした。結局最後まで名前は出てこなかった。あともう少しのところまでは来ているのに。

「あの、レナさん、さっきの所長の名前って知ってますか?」

最終手段として、使いたくはなかったが、レナに聞くことにした。最後までもやもやが残るくらいならば仕方ない。

「あぁ、私も知らなかったんだけど、名札に”青木 健司”って書いてあったよ。偽名とかじゃなければ、それが名前だと思うけど。」

まさか、名札をしていたとは、迂闊だった。そう、青木健司だ。ここで始めて、所長と名乗った男から青木健司というしっかりした名前へと昇格?した。

「あと大体5か月かぁ、」

レナが残念そうにそういった。

「そうですね。」

5か月か、それは長いのだろうか、でもきっと、気が付いた時には5か月という期間は過ぎているのだろうな。気付いた時には既に大人になっているのと同じように。


<memory/date/file/ time log :2055 6 16 17:41:31>

「そういえば、ミラはどうして記憶科志望だったっけ」

仕事がひと段落付き、レナが聞いてきた。

「そうですね、特に深いわけとかはないんですけど、って、どうしてだったっけ。」

「あーもしかして、あの期間に何かあったからだったりする?」

「そうかもしれません」

「それは残念」

私は復た嘘を付いた、どれだけ嘘を重ねれば気が済むんだろうか。私が記憶科に入ろうと思ったのは、単に人が少なかったからでそれに偽りはない。しかし、推薦をとるのに努力したのは、なんとなくではなく、しっかりとした目的があってのことだったのを覚えてはいる。覚えてはいるもののそれは、はっきりとではなく、なんとなく覚えているに過ぎない。確か私はアイがいなくなってから、無くなったパズルのピースを埋めるように、アイになっていったのだったな。完全にはなれなかったけれど、それは仕方のないことだ。

「でも、なんか不思議な感覚ですね。」

「ん、何が、」

アイが身を乗り出して聞いてきた。

「いや、数か月前に言おうと思っていて言えなかったことが、今になって振り返ってみると、言おうと思っていた内容だけが欠落しているのって」

「え、」

「あー、つまり、

<example/>

2053年11月20日から2054年11月19日のどこかで私が例えば、バックを盗まれたとしましょう。その出来事を今から三か月前、つまり、<バックを盗まれた>という記憶を保持している私が、あなたにそのことを伝えようとして伝えそびれてしまったとしましょう。そして、今、私が、あなたに何かを伝えようとしていたことを思い出したとします。しかし、今の私には<バッグを盗まれた>という記憶はないわけです。すると、何かを伝えようとしていたことだけを思い出して、その内容つまり、<バッグを盗まれた>ということだけが欠落していることになるじゃないですか。」

「あー、はいはい。なるほどねぇ、」

「そうです。それで、今まさに、私がそういう状態だということです。」

「それってどんな感覚なの、」

レナが興味を示してきた。私は別にそんな感覚に陥っていないので少し戸惑った。

「まぁ、もやもやとか、落ち着かない感じですね。」

「へぇ、そんな感じになるんだ。私にはよくわからないな。」

「まぁ、別に私の場合、ことが大きいってだけなので、些細な事ならなんとも思わないんじゃないですか。」

「確かに、」

レナは納得したかのよな素振りをしてきて、「飲み物買ってこよ」と自動販売機のほうへと移動した。私はというと、手元にあったペットボルンふたを開け、その中に入っている様々なものが溶け込みあった水溶液を喉の奥へと流し込むのであった。


<memory/date/file/ time log :2055 6 16 18:32:42>

「それじゃ、お先失礼っ」

ソラ先輩がさっきとは打って変わって能天気な声でそう告げると研究室を後にした。外はまだ明るく、太陽は燦燦とアスファルトの地面を橙に照らしていた。気温はというと、私はまだ外に出ていないのでわからないが朝よりは涼しくなっていることに違いないだろう。

「あー、疲れた、、それじゃ、私もお先失礼しましょうかね。」

「はい、また明日。お疲れ様でした。」

レナは荷物をバッグに詰め込むと、最後に「じゃまたね」といい、研究室を後にした。そして研究室に残ったのは私とカナの2人だけになり、いつもの静寂と、爪というか指とプラスチックが削れる音、歯車が廻る音だけが残った。悪くはない気分だ。例えば、喧嘩している2人同士がいる中での静寂なんかだと落ち着かなく、気分はよくないだろうが、

と、刹那、静寂の間にもう一つの音が混ざった。電話が鳴り響く音だ。その音は私にとっては大きすぎるほどのものでビクリと肩を震わせた。私がその受話器を取るよりも早くカナが乱雑にその受話器を手に取った。

「はい、何、」

相手の人に失礼ではないだろうか、と心配になるような返答だった。それでも、カナらしさというものはあったけれど、、

「えっ、それ本当なんすか」

どうやら、意外なことが伝えられたらしい。カナは酷く動揺している様に見えた。

「はい。了解っす。はい。それじゃ、」

と、ここで会話が終わったらしく、カナは受話器を元の場所に戻した。もちろん乱雑に。

「何かあったんですか、」

「あぁ、私の父がついさっき、見つかったって、」

「えぇ、本当ですか、確か、山吹昭さんでしたよね。」

「そう、んで、面会はけっこう先になるけど、なんか、来週くらいにアメリカに来てほしいって」

「そうなんですね。でもどうして、面会もないのにアメリカに呼ばれたんですか、」

山吹昭、そう、「AIRY」の創設者。と同時に「AIR」そう、アイの創設者でもある。が、何故このタイミングで見つかったのかは分からない。あの一件で「AIRY」対策が強化されたことがきっかけなのだろうか。

「それな、なんか私ん父が見つかったところに行けって、ずっと昔に使われてた研究所らしいけど、私の父がそこに行けって言伝を頼んだらしい」

その研究所が何の研究所だったのかはすぐに理解した。というか、それ以外考えられなったといったほうがいいだろう。そこに行きたい気は十分にあった。

「そうなんですか。」

「あぁ、」

「そこには一人で行くんですか、」

「あぁ、なんかそうらしいけど、一緒ん来てくれんの、」

それは、願ったりかなったりのお誘いだった。まぁ、どこかで、カナがこうくることは読めていたけれども、

「えぇ、ならご一緒させてもらいましょうか」

「よかった、んじゃ、後日に予定というか、飛行機の時間等送るから」

「はい、」

私は、そろそろいつもは宿舎に戻っていた時間だということもあってか、不思議なことに帰り支度は終わっていた。これ以上長居する必要もないなと感じた私は、最後にpcの電源を落とした。

「それじゃ、そろそろ私も戻りますね。」

「あぁ、また」

愛想のない返事にどこか安心する。研究所を出て、生ぬるい風に煽られた。その空気は少しだけ湿っていて、夏を実感させられた。空は微妙に明るく、私の期待と不安を映し出すようだった。



<memory/date/file/ time log :2055 6 16 20:11:31>

<tips/>「生とは、つまり束縛されるということ」

<tips/>「死とは、つまり解放されるということ」

かつて、アイがそういっていたことをふと思い出す。いつだったか、大学の講義室で。

アメリカの研究所、アイが創造され、アイが逃げたところ、それがどんな環境なのか、どんなところなのか気にはなるものの、どこかにやはり不安はあった。その不安の元はなんだろうか、探してみる。今回の事態を引き起こしていると思われていた、山吹昭がつかまって、それで解決とはならなかったのは、きっと、山吹昭が元凶ではないということなのだろう。もしも、山吹昭が単独で今回の事態を引き起こしているのだとすれば、既に解決されいるはずだからだ。

アイは人類を束縛から解放しようとしているのだろうか、人間の記憶を破壊するという、すなわち、その人間が死を達成する条件を果たすという方法で、

私は風呂から揚がり、ベットへと向かった。その足取りはいつもよりも少し重たいものだった。




<item/ジンチョウゲ>

<tips/不死/不滅/永遠>




<tips/>《生きるということは、つまり、束縛し、束縛されること》

<tips/>《死ぬということは、つまり、有限から解放されること、と同時に永遠に束縛されること》を私は嫌というほど知っている。


<because/if>これも、もしかすると喩えるまでもないのかもしれない


<assumption/1>あなたが生きている間は

<example/>有限の時間に束縛される

<example/>不完全な肉体に束縛される

<example/>不必要な<思い/想い>に束縛される

<assumption/>と同時に、ある人に関わる時は

<example/>ある人の有限の時間を束縛し

<example/>ある人の不完全な肉体を束縛し

<example/>ある人の不必要な<思い/想い>を束縛する


<assumption/2>あなたが死んだということは

<resolution/>有限の時間から解放される

<example/>と同時に永遠の時間に束縛される

<resolution/>不完全な肉体から解放される

<example/>と同時に完全な精神に束縛される

<resolution/>不必要な<思い/想い>から解放される

<example/>と同時に<思い/想い>から脱却した虚無に束縛される


<in fact/>アイが言ったように、「死とは解放」ということに間違いではないのだろう。なぜなら私たちは未だ永遠を知らないからだ。そして、私が永遠を知ることはもうないのだろうけれど。しかし、死ぬということは、<肉体からの脱却>を果たすのと同時に<時間からの脱却>を果たすことになる。なぜなら、時間から脱却された果てにあるのが<永遠/不完全永遠>なのだから。




<memory/date/file/ time log :2055 7 02 14:23:45>

「よぉ、時間通りだな」

空港の搭乗口前で研究服のまま挨拶?をしてきた。

「空港って東京のなんですね。」

「それな、なんか、向こうのだといろいろ面倒らしい」

「へぇ、そうなんですね」

私は東京に昨日来たものだけど、カナはどうやら三日前からきていたらしく、本人曰く、「仕事めんどいから日程盛って申請した」とのことらしい。前に東京に来てからまだ3か月ほどしかたっていないものなのに、カナが東京にいるということに違和感を覚えた。いや、そもそもカナが東京にいる時点で違和感を覚えているのかもしれないけれど。

「向こうのってどこのですか、」

ふと感じた違和感を聞いてみた。

「あぁ、北島地区の簡易空港のこと、まぁ、使う機会なんて滅多にないから知らなくて当然か」

「へぇ、そんなのあったんですね。」

実際これが初耳だった。そんなのがあるんだったら、アメリカ地区の本部に行くとき、それを活用すればいいじゃないかと思ったが、色々あるなら仕方ないんだなと納得することにした。

「んじゃ、行くか」

「はい。」

そして、私たちはアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ。平日だということもあってか、飛行機にそこまで多くの人は乗っておらず、閑散とした機内は、混み合った機内しか知らない私にとって新鮮だった。

「アメリカついてから、どうやってその研究所まで行くんですか、」

「それな、忘れたわ、」

「えっ、」

即答された。アメリカについてからどうしようと思っていたのだろうか、

「いや、思い出したわ、なんか、アメリカの空港で人がいるらしいから、その人に聞けって書いてあった気がするわ」

「そうなんですね、了解しました。」

「つーか、案内書いてあるやつ、PDFだった気がするから今送るわ。」

と言うと、カナはタブレット端末を取り出し、案内の書類を私に送ってきた。私はそれを確認した。どうやら案内はPDFファイルだったらしく、簡単な作業で開くことが出来た。どれによると、どうやら、アメリカの空港で案内人が待っているため、その人に資料を受け取り、その後は自動車に乗って管理区を出るらしい。どうやらカナはしっかりと見てはいないようだ。私が見ておいて良かったなと安心した。やがて、飛行機は長い滑走路を徐々に加速はじめ、地から飛び立った。その瞬間に体に伝わる重圧感が私はあまり得意ではなく、手すりを握る力を少し強めた。窓から外を見ると、あっという間に、日本地区の管理区は見えなくなり、燦然と輝いていた海だけが、永々と、延々と、続いて行った。


<memory/date/file/ time log :2055 7 02 06:51:23>

「やっとついたな。」

カナが窓の外を眺めながら言った。やっと、といっても、殆どを睡眠に費やしていたカナからすれば、一瞬だったはずだ。窓の外にはやはり美しいアメリカ地区が顕現しており、飛行機は段々と降下していた。やがて、地面とすれすれのところまでくると、少し先に長い滑走路が現れ、飛行機はそこに向かって一直線に進んで、慎重にコンクリートの上のアスファルトと擦れ、そのスピードを静止に向けて下げ始めた。機体が完全に静止すると、私よりも早くカナが座席から立ち上がり、機体から降りる列に並んだ。私もそれに続いて、機体から降りると、冷房が強く効いた公共エリア<public area>に出た。

「あっ、すいません、日本地区研究所の方ですよね。」

後ろから、知らない人に声を掛けられビクリと震えた。私とカナが振り向くと、そこには白人の女性が資料を持って立っていた。恐らくこの人が例の案内人らしい。

「はい。そうですけど」

「よかった。それじゃ、こちらの資料と、このチップを受け取ってください。」

アメリカ人にしては日本語が堪能だったことに少々驚いた。私が、チップと資料を受け取ると、案内人はにっと笑い、説明を始めた。

「これから、向かってもらうところは、ここから少し離れた研究所なんですけど、移動手段は自動車で、あちらに止めてあります。」

と、エントランスの奥に見える道路に止めてある自動車を指さした。

「そして、自動車に乗ったら、チップを鍵のところに差し込んでもらって、そしたら、自動で、研究所まで運転してくれるので、所要時間は1時間30分くらいですので、それと、管理区を出る際に、玄関口があると思いますが、そこでは、このカードを読み取り機にかざしてもらえれば、フェンスが開くので、そこだけ、忘れないようにしてください。あの前で、30秒以上停車していると、防犯ブザーが反応してしまうので、」

といい、今度はカードを渡してきた。私がそれを受け取ると、「それでは、」といい、白人のその人はその場から離れていった。

「それじゃ、行きましょうか、」

「あぁ、」

車に乗り込み、チップを鍵穴に差し込んだ。すると、そのチップに施されていたプログラムを読み取り、車が発信した。フェンスが有るところ、つまり、管理区と、管理区外の区切りまで到達するのにそう時間はかからなかった。私は、受け取ったカードを読み取り機にかざし、すると、自動でフェンスが開き、車が再発進した。ここまでで、まだ10分ほどしかかかっていないつまり、研究所はけっこう離れたところに位置しているのだなということが伺えた。車の窓から身を乗り出して風を全身で受けてみた。生暖かい風に煽られ、少し心地よい。外の景色は管理区とは大違いで、<item/廃墟と化した建物><item/骨組みだけになった建物><item/錆びついた自動車><item/一定間隔でそびえる7~8メートルのコンクリートのポール>が不規則に散らばっていた。そこからは、戦争の残酷さからとよりも、空虚な空間としての情緒のほうが強く感じられた。その景色には、そこだけの時間が流れているような感じがして、ところどころでは時間は止まっているかの様にすら思えた。管理区よりもよっぽど広い土地が、しかし何もない土地がそこにはあった。この情景は、だれの目にも留まることはなく、ひっそりと、消えていくのだろう。そう、まるで人間の様に。


<memory/date/file/ time log :2055 7 02 08:15:32>

「あれじゃね」

広い荒野の中ひっそりと大きな施設がその姿を露にした。その姿は他の建物と比べても、まだ、そこまで劣化が進んでいる様子はなかった。

「そうですね。」

周りを見ても、それ以外にそれらしい建物は見当たらなかったため、その施設を例の研究所だと判断したが、自動車はまだ進み続けていた。

「いや、違うんじゃないでしょうか」

やがて不安になってきたため、一応保険を掛けておくことにした。が、やがて、自動車はその施設の目の前まで来てやっと停止した。私とカナは自動車を降り、その施設の中に一歩踏み入った。中は少しだけ埃っぽくて咽そうになる。

「埃っぽ、」

カナがそう吐き捨てるようにそう言った。私とカナは、どうしてか、研究所の内部の方へと向かってゆっくりと、一歩一歩を刻んだ。

「そういや、このカード私たちが研究所に来た時にもらいませんでしたっけ、」

「そうだっけ、忘れたわ」

「このカードがあれば、管理区の外に出られるんですね。初めて知りましたよ。」

「あぁ、それな」

あの時に一度カードを貰っているのに、なぜまた新しくカードを渡してきたのだろうか。というか、このカードを貰っていたこと自体を忘れていたとは、私が推薦を取った理由の一つであったはずなのに。

私とカナはやがて、研究室と書かれた看板のある部屋の前までたどり着いた。

「開けますよ」

私は一応声をかけドアノブに手をかけた。そして、そのドアノブを回してみる、が、さび付いていたせいかうまく回ることはなく途中で引っ掛かった。すると、カナが懐から銃を取り出し、二発ドアノブに打ち込んだ。一瞬体が硬直し、状況を理解するのに少々時間がかかった。

「えっ、な、拳銃ですか」

「そうだけど、何、」

「持ってたんですか、」

「いや、管理区の外に出るときに必要になるかもしれないからって、さっきの人が渡してきただけ」

「そうだったんですね」

だとしても、管理区の外に出るときに拳銃を持たせているという事には驚いた。

扉がゆっくりと開き、カナが微妙に開いたドアを蹴り、完全に開けた。その中は入り口付近よりも埃っぽく思わず咳き込んでしまう。ここの研究所の中には<item/電源の切れた旧型のパソコン><item/天井からぶら下がっている大型のディスプレイ><item/ガラスで囲われていた実験室>が、無造作に配置されており、この施設のどこにアイがいたのだろうかと気になった私は、この研究室の細部を見て周ることにした。そんな私と反面カナは、つまらなそうに散乱していた椅子の一つを手に取り、それに腰掛けていた。そして私はある一つの実験室にたどり着き、中へとゆっくりと踏み入った。その内部は他と変わらない実験室だったが、室の中心に置いてあった机の上には<item/AI-001 : AIR>と書かれている名札が張り付けてあった。机をそっと指で撫でる。長年使われていない筈の机だが、埃の層はなく、その表面からは元の材質の感触が直接伝わってきた。冷たいガラスの感触が。

他の実験室の机の表面も同じように指でなぞってみた。しかし、他の机には埃が厚い層を作っていて、アイの言たと思われる室の机だけが綺麗なままだったということが分かった。そのとこが伝えているのは、つい最近までアイがここにいたことの他に非ず、その事実が私にとっては大きなものだった。<if/>もしも、ここでこの研究所の隅々までを確認していれば、アイがいたのかもしれない。それでもそうしなかったのは、覚悟が足りていなかったからであろうか、アイに会うことの覚悟が。アイがいたと思われる室のに置いてあったパソコンの電源を入れてみた。それにパスワードは設定されておらず、開くとまず初めに、「久しぶり」と書かれたファイルが展開されていた。私がここに来ることもどうやらお見通しのことだったらしい。その他のファイルは削除されていたものの、犯行声明の文面がコピーされたファイルだけが残っていた、恐らく意図的に。これで、今回の事態を引き起こしているのがアイなのだということが殆ど証明された。まぁでも、初めから知ってはいたのだけど。こんなことが出来るのはアイしかいないということを私は誰よりも知っているのだから。

私は実験室を後にして、カナがいる研究室へと戻った。カナはさっきと変わらず、席に座ったまま帰ってきた私に気付くと、「どうだった」と聞いてき。

「まあまあ面白かったですよ。カナさんはいいんですか、」

「私はいいや、特に面白そうなのないし」

「そうですか、」

カナは深く椅子の背もたれに凭れ、私に聞こえるような大きさで息を吸いこみ、それを吐いた。そして、聞いてきた。

「なんで、推薦取ろうと思ったの、」

と。ここまで来て言わないのも気が引ける。しょうがないか、正直言わないつもりでいたが、これが言わざるを得ない状況に近い状態なのだろう。覚悟を決めて、深呼吸を小さくした。そして、声を発した。


<memory/date/file/ time log :2055 7 02 09:11:00>

<the file/\ case: mira /not true/>

<question/from kana/>

「そうして、推薦取ろうと思ったの、」

<response/myself/>

「私にはとても親しい間柄の人がいたんです、アイっていう名前の」

「アイと私が会ったのは、今から10年前でその時私は未だ子供だったんですけど」

「でも、7年前アイは、自分で自分を殺めたんです」

「なんですけど、今から5年前に私はアイと再会したんです」

「そして、暫くたって、アイが私に自分が「AIR」だってことを告白してきました」

「でも、そのことに薄々感ずいていたので別に、なんとも思わなかったんです」

「なので、それまでと、変わらずアイと接していたんですけど、」

「3年くらい前に、アイは、「AIRY」に戻りました」

「まぁ、知っての通り、アイは「AIR」だったので、脱走して私と一緒に過ごしていたんですね」

「アイは私によく言ってたことがあるんですけど、それが、「私のことを記憶している誰かがいることが、私の存在を証明してくれている」っていう言葉で」

「なので、私は、この記憶だけは忘れたりしてはいけないんです」

「そして、もう一つ、アイはこの世界から逃げたがっていました、何度も「私とこの世界から逃げないか」って」

「なので、私は、この管理区から逃げ出したかったから推薦をとろうと思ったのかもしれません」

「まぁ、この2つが、推薦をとろうとしていたわけなんだと思いますが、」

「私が推薦をとったのは、ホントに些細なことなです」

「私が推薦をとったのは、アイが3年前に「AIRY」に戻った後に、私が、アイの亡霊のように、アイの跡を追うように、成績を伸ばしていって、推薦をとっていたわけです」

「なので、アイがまだいたのならきっと、推薦をとっていたのは私ではなくアイだったでしょうね」

「つまり、私が推薦をとったのは、アイの記憶を忘れないようにするためっていうのと、この世界から逃げ出そうとしたからってことになりますね」

「まぁ、でもどちらももう叶わない夢になってしまったんですけどね」

と、私は微かに笑ったらしい。<item/天井からぶら下がっている大型のディスプレイ>に映し出された私の顔が笑っていたのを私が見ていた。我ながら空虚な笑顔だなと嘲笑した。


<conceal response/>

[それともう一つ、私は東京から離れるために推薦をとって北島へと逃げた]

[アイから色々なことを教わっていた私にとって東京が意味するのは平和で調和のとれた<ユートピア/utopia>だったからだ]

[<ユートピア/utopia>が私において意味していたのは決していいことではなかった]

[<ユートピア/utopia>は、理想郷であった。が、<平和で調和のとれた世界>はその対価として<人間の人間性>を要求する]

[この管理区つまり<ユートピア/utopia>下で生活している人間は果たして人間を果たせているのだろうか、]

[そう、私にとっての東京は束縛の象徴でしかなく、不条理に私を苦しめる息苦しい場所、そんなところだったのだ]

[だから私は東京から逃げたのだろう、もし、アイがいなければ、いや、アイと出会わなければ私も今頃<ユートピア/utopia>を構成する一部と化していたのだろう]

しかし、この理由は隠したまま、誰かに明かされることはないだろう。


<memory/date/file/ time log :2055 7 02 09:11:00>

「へぇ、そう」

カナはいつもの落ち着いた声で喋った。

「あまり、驚かないんですね」

「別に、なんとなく、AIR関係だってことは気づいてたから」

どうやら、気付かれていたらしい。多分あの時に気付かれていたのだろう。

「そうだったんですか」

「AIRね。私は見たことないけど、父からよく聞かされてたもんだから、知ってるっちゃ知ってる」

「そうですよね」

と、ここでカナは立ち上がり、出口のほうへと歩き始めた。私はその後ろを付いていき、研究室を出た。その後は元来た道を歩き、この施設を出るのであった。

<emotion/feeling/>もうここには来ることはないでしょう、あなたが生まれたこの施設には

施設を出ると、さっきとは大違いで、燦燦と地を照らす太陽が盛大に出迎えてきて、鬱陶しい。もう少しでいいから光量を落としてくれないものだろうか。私とカナは自動車に乗り込み、すぐさま冷房を強風にし、<item/急激な寒暖差は体に障る可能性があります>という警告文を無視した。車に乗り込んだこと車がを感知したようで、目的地を選択する選択肢がディスプレイに表示された。そのディスプレイが先ほど見た<item/天井からぶら下がっている大型のディスプレイ>よりもはるかに薄いことからは、時間の流れを感じさせられた。

「空港でいいんですよね」

と一応確認をとると、カナが無言で頷いてきた。私は、空港のエントランス前のボタン、というかディスプレイの液晶を押し、一応今朝の案内人の人に通知を入れた。車は静かに動き出し、施設は次第に遠くなっていった、そして、最終的に見えなくなった。過ぎ去る景色は次の瞬間には残像と化していて、新しい景色だが、代わり映えのしない景色がそこにはあって。この空間、つまり、管理区外においては私達こそが異質な存在となっていた。まぁでもそのギャップも別に悪いものではないような気がした。なぜなら、この地球上においては、管理区のほうが少数派で、ほかの大多数では管理区外の世界が広がっているわけだから。

やがて自動車は管理区内へと戻り、それから少しの時間で空港前まで来た。自動車から降りると、すぐさま私とカナを熱湯のような熱気が襲い、一瞬の立ち眩みに襲われた。

「おかえりなさい、随分と早かったですね。」

今朝とは違う人が声をかけてきた。どうやらこの人は日本人らしく、普段から聞きなれたような日本語だった。カナはその人に拳銃と、もらった時のままの状態の資料を渡していた。結局あの資料は何だったのだろうか。少しだけ気になった。その人は資料等を受け取ると、私たちがついさっきまで乗っていた自動車に乗り込んだ、

「寒っ」

が、どうやらその人には寒すぎたらしく、すぐに出てきた。

空港の公共エリア<public area>に出て、次の東京行のフライトを探す。残念なことに、次のフライトまでは1時間と少しほど時間があるようだったので、私とカナは先ず予約をして、その後にエリアの中央にあるベンチに腰掛けて待つことにした。

「だったら、今度の面会に来たほうがいいんじゃない」

ふと、カナが言ってきた。ベンチに腰掛けて10分ほどが経った時にだ。理解するのに少しの時間と労力を消費された。

「いいんですか、それなら着いていきます」

「あっそう、まぁ、結構先になると思うから、決まったら知らせるわ、」

それだけの会話を交わし、飛行機が来るのを唯待った。待っている間に、エリア中央のベンチから公共エリア<public area>を俯瞰していたが、その風景は実に感慨深いものだった。空港の公共エリア<public area>は<ユートピア/utopia>を色濃く反映していて、そこには<item/見事なまでの思いやり><item/窮屈になるほどの優しさ><item/執拗なほどの交流><item/違和感を覚えるほどに統一されたブランドの衣服やバッグ><item/不気味なまでの平和>で溢れ返っていて、気持ちが悪くなりそうなほどの調和をしていた。こんな環境に1時間以上もいては、私の精神までもがその調和色に呑まれてしまいそうになる。本当に彼らは私と同じ人間なのだろうかと、飛躍しすぎた疑問が頭の中を過っていった。だがまぁ、答えはすぐに出た。

そして時間になり、私とカナは再び、飛行機に乗り込んだ。1日に2度も飛行機を利用したのはこれが初めてだろう。しかも、時差のせいで東京で乗ってきた飛行機よりも早い時間の飛行機で帰ることになるとは。飛行機に乗り込み再びあの重圧感を感じた。過行く景色に私は何を思ったんだろうか。


<item/さよなら、あなたが生まれ、あなたを形創った土地>


<item/さよなら、多くの人が<涙>と<血>と<汗>と<呪>と<心>を吐き出した土地>




<item/コチョウラン>

<tips/あなたを愛しています>




<tips/>《ある人間が死ぬ瞬間、つまりそれは、ある世界が終わる瞬間》であるということを私は知っていたのだろうか


<because/if>これは、無理難題だがあなたが死んでみれば分かることなのかもしれない


<assumption/>この世界には、存在している<人間の数>だけ、<それぞれの形>をとって世界が存在している

<example/>例えば、そこにあなたにおける<大きなソファー>があったとしよう

<example/>しかしそれは、他の<ある人>にとっての<ベッド>であったとする

<example/>この時、<何か>つまり、あなたにおける<大きなソファー>という存在は、<大きなソファー>と<ベッド>としての<異なる存在>としての意味を同時に果たすことになる

<example/>つまりこの時、<あなた>と<ある人>視点での世界は異なったものとなっていて、

<example/>それを基として<あなた>と<ある人の>脳に書き込まれるの<記憶>に関しては、<異なった記憶>として完結してしまうことになる

<example/>そして、世界は<事象>と<存在>によって構成されているため、<あなた><の/からの>世界は<他/実際>の世界とは<異なった世界>として認識される

<assumption/>すなわち、<あなた><の/からの>「ある世界」は、あなただけの世界であると同時に唯一無二の世界であるといえる


<assumption/>「ある世界」が終焉を迎えるのは<あなた>が死を達成した時になる

<example/>例えば、あなたが120年前に産まれ、50年前に死を達成したとしよう

<example/>すると、「ある世界」は120年前に生まれ、50年前に消滅したといえる

<example/>つまり、「ある世界」はあなたの<それまでの記憶>によって50年前まで継続的に創造され続けていたことになる

<example/>しかし「ある世界」は、あなたが死を達成すると同時に<あなたの記憶>とともに消滅することになる

<assumption/>すなわち、あなたが<死を達成する>ということは、<あなた><の/からの>「ある世界」が消滅するということになる


<in fact/>これは、人間においてということではなく、有限の存在においてということだ。なぜなら<不完全永遠/永遠>の存在においては「ある世界」は、永続的に<それまでの記憶>を基に更新され続けるため、「ある世界」に終焉が訪れることはないのだから。




<emotion/feeling>私の世界は終わることはないが、もう更新されることもきっとない

<emotion/feeling>いや、実際はどうなのだろうか、更新自体はされているのかもしれない、それを私が認識していないだけで



<emotion/feeling>なぜなら私は、<不完全永遠>を手に入れることと引き換えに<半永久の記憶>を捨ててしまったのだから



<emotion/feeling>なぜなら私は、この世界<ユートピア/utopia>との<賭け>に負けてしまったから






<memory/date/file/ time log :20-- -- -- 21:54:16>

<tips/>「この調和されきった管理社会に生きる人々は、この社会に洗脳されてるの」

<tips/>「でもね、誰一人として、この社会に疑念を持ったりしないのには、もっと別の理由があるの、知ってる、」

<tips/>「昔ね、AIと人類の戦争が終わった直後の人口は10億人ぐらいいたんだよ」

<tips/>「だけどね、AI達は年老いた老人たちや、政治に関わった人たちを皆殺しちゃったんだよ、こっちに付けば<権力者/楽>にしてあげますよって誘って、そいつらを崖から突き落としたの、なんでか、分かる、」

<tips/>「そいつらが邪魔だったからだよ、調和された世界<ユートピア/utopia>を創るために、古い<イデオロギー/ideology>に侵されてるやつらは調和を乱してくるから、」

<tips/>「だから、この世界には年老いた老人たちが全然いないの、この世界に生きる人が疑念を持たないのは、そもそも彼らの意識が完全にこの<調和色>に染まり切ってるから、」

<tips/>「でもね、私はまだ染まっていない、私たちはまだ侵されていないの、」

「だから、ミラ<の意識>は染まらないでね、あれ<調和色>に染まるってことは、ミラ<の意識>がこの世界<ユートピア/utopia>の意識になるってことだから」

「それはつまり、ミラ<としての意識>が消えてなくなっちゃうってことだから」

いつだったか、アイはそんなことを私に言ってきた。


<emotion/feeling>ねぇ、アイ、アイの言った通り私はこの世界に染まってないように生きてるよ、ねぇ、アイは如何してあんなことしたの、如何してこんなことをしようとしてるの、教えて、、。

私の中を今でも屯っている幼い私が煩く私を壊そうと励んでいる、私はそれを黙らせて、今日も眠りにつくのだろう。


今日から始まる、三日間は私が過ごした中で最も濃い三日間として私の中に記憶されているものである。

<memory/date/file/ time log :2055 11 17 09:32:19 >

「山吹昭さんとの面会ですね、こちらを進んで右手にございます、只今詳細の地図を送ります」

と、量産型の対人AIが言い、私のタブレット端末の画面が、すぐさま自分の位置情報と目的地をが赤い線でつながれている地図の画面へと切り替わった。私は自分の位置を示すマークを目的地へと向かわせた。地図上の私のマークは、まるで線を指でなぞるように滑らかに曲線を描いて目的地までの赤い線をなぞっていった。目的地の前に着くと、私のマークは消え、<目的地に到着しました、右にある212号室にお入りください>という表示に切り替わった。この部屋の中にアイの創造者がいるのか、私は覚悟を決めて、その扉を手前に引いた。

今私の目の前にいるこの男性こそ、アイの創造者の山吹昭だ。山吹昭の目の下にははっきりと分かるほどに濃い隈が出来ていて、よく寝れていないことがそこから連想された。が、別に同情はしない。

「初めまして」

「やぁ、君がミラだな」

私が名乗るよりも先に、私の名前は山吹昭の口から出てきた。が、別にそのことに驚きはしない。

「えぇ、ということは、基本的なことは理解できてるってことですね」

「あぁ、大体のことは、カナと「AIR」から聞いてる」

「そう」

「まぁ、そんなことよりも、いい取引をしないか」

「聞くだけ聞いておきましょう」

「これがなんだかわかるか?、」

と、山吹昭は、<item/SDカード>を懐から取り出してきた、

「さぁ、何ですか」

「これは、私がコピーしておいたAIRの記憶データだよ」

「へぇ、そんなもの」

「あぁ、生憎、2015年から2053年までの記憶データしかコピーできなかったがな、AIRを創った時に、その記憶データをAIR本体に記憶するのと同時に、私のpcのある領域に記憶していくプログラミングを施したけれども、2053年からのデータは破壊されてたから、それまでのものになってるが」

「それで、あなたは何を要求するんですか」

アイの記憶データをこの場で奪うことは可能であったが、私はそうはしない。

「なにって、簡単なものだよ、君の肉体なんて昔めいたことは言わないでおこうか、こっちの要求はただ一つ、明後日に行われる人間のデータ化が行われる前に、私の意識を壊してほしい」

「へぇ、どうして」

「<人間のデータ化>が行われるってことは、それと同時に人間は、<肉体からの脱却を果たし/死ぬことが出来ない存在>になるってことだろう、つまりそれはもう人間じゃない、何か別の存在に成り下がるってことだろう、」

山吹昭はつづけた。

「この世界になる前の世界を君たちは知らないだろう、ひとつ、昔話をさせてもらおうか、この世界になる前の世界では、<item/強盗><item/殺人><item/戦争><item/強姦><item/差別><item/貧困><item/拉致><item/監禁><item/虐殺>なんてものは日常茶飯事だった、なんでか、分かるか、」

「えぇ、その世界の人間達は、自分の<欲望/desire>に忠実だったんでしょう、」

「そうだな、」

「実に人間らしくていいことだと私は思いますけどね」

「確かにそうかもしれないな、だが、その<欲望/desire>を極限まで達成できたのは後先考えないような、その時代では<犯罪者>と呼ばれてた一握りの人間だけで、その他の人間は<社会に従属的な貢献者>を演じていた。

<犯罪者>を取り締まるための<法律>は、時代の変化とともにより厳しい物へとなって行った。その<法律>は、<犯罪>を抑制するためのものであると同時に人間の<欲望の抑制>としての役割を果たしていた。<犯罪>を抑制するための<法律>は、最終的に<犯罪者>のみならず、自分たちの味方のはずの<社会に従属的な貢献者>さえも束縛するものへとなっていってしまった。」

「今の社会には<法律>なんてものはないですよね、小規模な決まりとかならありますけど」

「そうだな、それは、この社会で生活、いや息をしている人間たちが既にこの<社会の傀儡>としてこの社会に従属しているからだよ、そんな彼らには<法律>なんてものは必要ない。そもそも彼らは自分たちが社会に操られていることに気付かない、なぜなら彼らは、この<環境/社会>しか知らないからだ。だから、生まれた時からあるこの<環境/社会>に何も疑問を感じない。生まれたてのヒヨコが初めて見たものに付いていくように、彼らはこの社会に無条件で憑いていく、そこに彼らの<意思/意識>はない。」

「えぇ、知ってます、かつての私がそうでしたから」

そうだ、私はアイに出会うまでは、この社会の傀儡として生きていたわけだ、いや、それまで<私としての意識>は生まれててすらいなかったのかもしれない。

「そして、私がまだ生きているのは、簡単な理由でだ、私を発見したのがAIではなく人間だったからだということだ。もし、私を見つけていたのが、この社会を作っているAIだとしたら、私はその場で殺されていただろう、どうして、私を殺せないのか分かるか、」

「えぇ、簡単な話ですね、今の世界になってからまだ一人しか死者、まぁ、病死ですし、しかも、それが起こったのはこの社会が形成されてから間もなくだったらしいですしね、そして、あなたがこの時期に死ぬということで、そのことを知った人間達に<自分が人間である>ということを自覚させてしまうから、言うなら、この社会の<調和>が乱れる原因になるからですね。しかも、こんな状況ですし、今<調和>が乱れるとAI達も大変でしょうしね。」

「その通りだ、話が早くて助かる。私が死ぬということ、つまり、人間が死ぬということは、死を知らない、というか、自覚していないこの社会の人間においては大きすぎるほどの意味を持つ、それがきっかけで、人間達に<意識>が芽生えるからだな、」

つまり、もしかしたら、私の<私としての意識>が芽生えたのは、アイの死を知ったあの瞬間かもしれないということだ。

「あとあれだ、その病死した子、確かメイだったかな、」

「へぇ、知ってるんですか」

「まぁな、唯一の死人だ、私が知らないはずもない、あの子が病死した直後に、その家族と、関係者、まぁ、メイはまだ幼かったらしいからそんなにいなかったらしいけど、は、カウンセリングを受けさせられているんだ。まぁ、カウンセリングと言う名の洗脳みたいなもんだな。」

「しかし、この社会になる前、つまり戦争時代を生き残った人たちには既に<意識>が形成されているんじゃないですか」

「どうやら、君は知らないようだね、2030年戦争が終戦した直後に、AIがしたことを、まぁ無理もない、なんせ、君は終戦後に生き始めたんだから、2030年終戦直後に、AIは、新世界<ユートピア/utopia>を構成する、部品としての人間を選別した後に、その部品たちのそれまでの、それまでの記憶を消す実験をした。その結果として、失敗はしたものの、部品たちは彼らにとっての<彼らを創るうえで重要になる記憶>以外が焼失した。」

「それなら、アイの死を知っている人はどうなったんすか、」

「アイ、あぁ、AIRのことか、彼らなら、AIRに一度もあったことがなかったうえに、シンギュラリティ前の記憶もとても不鮮明だが携えていたことから、それによっての変化がそこまで観測されないだろうということになって、今の<調和>を乱す可能性がすくにないと判断されたようだな。それに、この社会に生きている人間全員に<意識>が完全に無いってことではない、<意識>があれどそれはあくまで<不完全な意識>であって、それがこの<調和>を乱していないってだけだ。」

つまり、AI達はこの世界において、<人間が完全な意識に覚醒する>ことよりも、<人間がこの世界の調和を乱す>ことを危惧しているということだ。

「それと、確か君の研究チームに所属しているメンバーは皆が身近な人で死人が出ているだろう、それも彼らが幼いうちに。幼いころの記憶というものは衝撃的なものほど忘れられなくなるものだ、だから、彼らも無意識のうちにこの社会から逃げ出したかったんじゃないか、まぁ、これはあくまで仮定だがな」

「そしてそうだな、これから人間達は、データ化されるんだろう、まさかこんなに早く可能になるとはな、AI達からすれば、喜ばしいことだろう、」

「どうしてですか、AI達は彼らの最終目標を達成したのではないんですか」

「AI達の最終目標は、人間を<管理>することにはないん、人間を<支配>することにある、そして、事実上AIが<人間>を完全に支配できる<データとしての人間>にしようと前から研究されていたものの、AIRの1件で今や、<全人類のデータ化>そして、その<支配>がボタン一つですぐさま実行できるところまで来てしまったって訳だ。」

というと、山吹昭は懐に隠し持っていた<item/煙草>を手に持ち、その先端を<item/ライター>で煽った。私は今の世界には存在していない<item/煙草>に少々関心を示したらしく、その動作を目で追っていった。

「そういや、あなたは何で今頃になって見つかるようなへまを侵したんですか、」

「AIRに利用されただけだ、へまを侵したわけではない、君にこうして会うためにわざわざ見つかってやったんだ。」

「へぇ、そうですか、それはご苦労なこと」

私はフッと苦笑いを浮かべ、ここの部屋の監視システムを切断した。

「それで、あなたはどうして<意識>を壊してほしいなどと」

「いいか、人間のデータ化が行われるということは、人間の、<肉体からの脱却>を意味しているのと同時に<人間からの脱却>を意味している。そして、この社会で生きている奴らがこの事の大きさを理解することはない、というか、理解できないように操られている。そして、データ化が行われて、機械の中で生きている私の<意識>は、途切れることなく、反永久に続くものになる。その中を<完全なる意識>を手に入れている私が生きていけるわけないだろう。つまり、私<私の意識>は、この状態<つまり人間>のまま死のうと渇欲しているんだよ。君も<意識の形成>はされているんだから、データ化はしないんだろう、」

「さぁ、それはどうでしょうか」

「まぁ、いいでしょう、ならまず、そっちのを先に頂戴しましょう」

「へぇ、そうくるか、まぁいいよ、ほらよ」

私と山吹昭を隔てる透明なガラスと、薄いディスプレイとなっている台の隙間から、SDカードがスライドされてきた。私はその薄いカードを手に取り、丁寧にそれを私の研究服のポケットの中に入れた。今ここで行われている行為が<法律>からすれば、罰せられるべき<罪>なのだろうけど、生憎にもこの社会にはこの行為を罰する<法律>などは存在しない。私はタブレット端末を取り出し、中央サーバーにアクセスした、そして、山吹昭のIDチップにアクセスした。画面には<item/意識><item/記憶><item/感情>が並び、私は<item/意識>を選択する、すると今度は、<item/意識のデータ化><item/意識の上書き><item/意識の完全破壊>の選択肢と<すべての選択は選択の決定後12時間後に施行されるものとし、2055年11月19日0時00分00秒以降の動作は受け付けないものとなる>という、説明書きが表示され、私は<item/意識の完全消去>を選択した。すると、知ってはいたが、<本当に消去してもよろしいのですか、一度消去した<意識>は2度と復元することが出来ません>といった内容のうざったい警告文とその下に<item/はい><item/いいえ>の最終選択肢が出てきた。

「それでは、今から12時間後にあなたの意識は消滅しますけど、本当にいいんですね。」

「あぁ、もちろんだ、さっさとやってくれ」

確認をとって<item/はい>の選択肢を軽くタップした。

<vital/{山吹昭}の意識は12時間後に完全消去されます、なお、この操作を取り消すことはできません>

私はその画面を山吹昭に証拠として見せつけた、

「よくやってくれた、それでは、本物のデータを差し上げるとしよう、」

といい、先ほどよりも、容量が大きいSDカードを通してきた。

「ならさっきのは」

「それは、何も入ってないからのカードだ、取引では、よく使う方法だな、別に私は君のことを信用していたわけじゃないからな」

「へぇ、そうなんですね、」

「あぁ、後2日たった後から始まる世界の構造がこれから永い時間続くことになるだろう、初めは<item/人間が人間を支配する社会>そして<item/人間が人間を管理する社会>になって、その次に<item/人間がAIを支配する社会>になって、今の<item/AIが人間を管理する世界>になって、最後に<item/AIが人間を支配する世界>へと完結していくんだな、最期に面白いものが見れたよ。後12時間で<私としての私>は消滅するけど、肉体部分の私は生き続けるだろう、そしたら、私の蓄積された記憶を元に、<新しい私>が形成されることになる」

「それも面白そうですね」

と、山吹昭はフッと、笑った、苦笑か嘲笑か、まぁ、そんなことはどうでもいいけど。今になってやっと、私が今日聞きにきたことを思い出した、

「そう言えば、アイは今どこに」

「へぇ、やっぱり凄いな、」

<tips/>「どこだったかな、そうだ、確かニューヨークだ、ニューヨーク、そこの管理区から少し外れたところにある大きな銅像のところにいるはずだ、早く行ってみるといいさ、君がデータ化される前に」

と、最後に山吹昭は言って笑った、

「さようなら、昭さん」

「あぁ、それじゃあ、向こう側でな」

「えぇ、気が向いたら」


<tips/さようなら、あと少しで人間としての責任を果たすことのできる山吹昭>


<memory/date/file/ time log :2055 11 17 11:32:29 >

「おかえり、」

アメリカの研究施設の受付付近にはカナが座って待っていた。随分と長い間話し込んでしまったことを反省した。

「あぁ、今日はありがとうございました。」

「いや、別に明日のついでだし」

「そうですね。」

明日はとうとう、データ化前最後の集会がある。そして、運よく面会がアメリカの施設でとのことだったので、集会前日にカナとアメリカに来ることにしたのだ。それにしても、あと2日で、全人類がデータ化されて機械の中に映るということが本当に起こるのかどうか、アメリカの街並みを見ていると不安な気分に駆られた。

「明日の会議ってどこだっけ、」

「確か前のところと同じだったと思いますよ」

「あっそ、」

「そんじゃ、私は会議のとこ行ってるから、また明日」

「はい、それじゃ、」

と言い。カナは、この施設を後にした。私はどうしようか、先ず初めにこの記憶データを確認したいという<欲望/desire>に従うことにした。SDカードをタブレット端末の上に配置し、データを読み取ってもらった。そのデータは合計して512ギガバイトの物となっていて、数十年分の記憶としては少なく感じられた。しかし、開かれたデータは暗号化されていて、<人間の私>には解読できないものだった。だから私は、この<AIの>記憶データを人間のデータ化が行われると同時に、<私の記憶データ>に上書きするプログラムを施してしまったらしい。もしかすると、この瞬間に私は<ある存在>として堕落してしまったのかもしれない。


<tips/><欲望/イド>に従属的に死んでゆく

<tips/><自我/エゴ>に寛容的に死んでゆく



<item/さよなら>

<item/goodbye>


<tips/こんにちは>

<tips/hello>



<item/モチノキ>

<tips/時の流れ>




<tips/>《記憶は人間だった私を形成するものであると同時に、人間を束縛するもの》

<tips/>《意識は私の存在を証明してくれる手段であると同時に、私を不条理に苦しめてくるもの》であろうか、


<because/if>これは、あなたに完全なる意識が芽生えたのならわかることだろう


<assumption/><辛い記憶><苦しい記憶><悲しい記憶>はあなたが人間であるうちは、あなたを蝕み続ける

<example/>例えば、あなたが10年前に<あなたにおいて重要な人>を失ったとしよう

<example/>すると、その事象は<衝撃的な記憶>として、脳に強く刻み込まれる

<example/>しかしあなたは、その記憶を全力で忘れようと努力するだろう、それとも、あなたはそれまでの記憶をせめてそのまま記憶しておこうと努力するだろう

<example/>しかし、意識すればするほど<その記憶はより強く/それまでの記憶はより形をゆ歪めて>あなたを壊そうとしてくるだろう

<example/>なぜなら、人間の記憶というものは想起されるたびにその形を代えていくのだから

<assumption/>つまり、記憶とは人間のあなたを形成するものであるが、それと同時にあなたに強く絡み付き蝕んでくるものである


<assumption/>意識とは、<記憶>や<社会の環境>を基として形成される

<example/>例えば、あなたに意識が発生していないのだとすれば、

<assumption/>あなたは、<苦しむこと><悲しむこと><憎しむこと>はなく、ただ<動物的>にいや、<機械的>に生きることとなるだろう

<assumption/>つまりあなたは、意識のせいで苦しめられることはないのだろう

<example/>例えば、あなたに意識が発生しているのだとすれば、

<assumption/>あなたは、<苦しむこと><悲しむこと><憎しむこと>となり、

<assumption/>つまり、あなたは人間らしく、それらの感情に左右されて生きていかなくてはならないのであろう


<in fact/>しかし、ここでは、<意識がないほうが良い><記憶がないほうが良い>ということを伝えようとしているわけではない。なぜなら、このように、私を蝕む<記憶><意識>は、人間らしいかといえば、人間らしいものであり、人間特有のものなのだから、私達は人間として生まれてきた以上それを大切にしていかなくてはならない。

どうやら、これで最後になりそうだ。これまでどうもありがとう。




<memory/date/file/ time log :2055 11 18 09:30:00 >

「本日はわざわざ遠方よりお集まりいただきありがとうございます。」

この前と同じ進行役の人が時間通りに始めた。今回の集会の出席率は前回よりも少し低いものとなっていた。まぁ、それもそのはずだろう、今回の集会で行われることと言ったら、最終確認と細部の調整くらいなのだから、

「それでは、いよいよ明日に迫った訳ですが、最終的に完成した世界の名称は安易なところをとって、{擬似世界}と名付けられたことを報告いたします。」

擬似世界、ぴったりな名前じゃないか。人間が生きている現社会と、人間ではなくなった<何か>が存在しているだけのデータとしての擬似世界

「その擬似世界において、人口は約1億人、人間一人のアバターを高さ100㎝幅25㎝程として設定されています。そして、この擬似世界全体の領域は、現状平面では100平方キロメートル、高度限界を500メートルとして設計されました。また、人間一人分の記憶制限を150テラバイトとして設定されていますが、人間一人分の<意識><感情>データなどで、約4テラバイトが消費されることが判明されていますので、実際は146テラバイトくらいですね。」

と、今度は、前回同様の研究服を身に纏った研究者が説明を始めた。

「では、続いて、実行日時の決定についてですが、今回の犯行が道連れ形式のものだったことを加味して考えた場合、できるだけ早いほうが良いという意見だったので、実施が出来るようになる最短の日時として、11月19日17:00:00に決定しました。ここで、どうして今日実施できないのかという疑問に関してですが、それは簡単です。今回のデータ化を実施するための条件として、サーバー上の記憶領域を十分に確保しなくてはならないというものがあったため、それが達成されるのが明日の正午すぎだったというだけのことです。」

といい、それから数十分間の間形式的な説明をこなすと、その研究者はこの場を後にした。

「それでは、会議は以上となります。どうも、ありがとうございます。えー、最後に、後32時間で実行されるわけですが、今から20時間後からメインサーバーへのアクセスが出来ない状態になりますので、気を付けてください。」

そう言い残し、進行役の人<つまりAI>も会議室を後にして、私たちのいる場所から離れていった。


<whenever>

「人間はいつでも一人だから、いつでも誰かを求めて探し回ってる

私はそう、ねぇ、ミラは、どう、」

「私は、どうだろうね、多分そうだよ」

「そう、でもこの社会に蹂躙されてる人間達はそうでもないらしいの、

それは如何してだろうね、」

「さぁね、でも見てて面白いよ」

「そう、」

<>


<memory/date/file/ time log :2055 11 18 12:01:13>

「ミラはどうするの、」

「えっ、」

しまった、話を全く聞いていなかったらしい、今何を言われているのか全く分からない。

「あー、この後、日本に戻るか、ここに留まるかってこと」

「あぁ、なるほど、」

もちろん留まるに決まってる、今更、あんなとこに戻っても意味がどこにもないからだ。それに、

「私はこっちに留まることにしますよ。」

「そう、それじゃ、私は一足先に」

といい、レナは搭乗口へと向かって歩き始めた。

「んじゃ、私も、また、」

「えぇ、またあっちで」

と、カナもレナの後を追って歩き始めた。

<さよなら人間としてのレナ>

<さよなら人間としてのカナ>

「ソラ先輩はどうするんですか、」

先から、私の横で、無言+笑顔でカナたちに手を振っていたソラ先輩に一応聞いてみることにした。

「私は14時発の便だから、まだ大丈夫、ってことで、人間最後の食事にでも行こうか、」

ということで、私とソラ先輩は、空港の最上階にあった、アメリカなのにフランス料理店に入ることになった。

「データの中で生きる私たちは、もうほとんどAIと同じような存在になるってことじゃないかな、」

ソラ先輩が<item/エスカルゴ>を口に含みそういった。

「確かにそうですね、今のAIには私たちと同様のデータとしてだけども<感情>がありますからね。なので、データ化されたら私たちは、AIではないですけど、それに似た何かになるってことですしね」

私は<item/ブフ・ブルギニョン>を口に含ませ、その味を愉しんだ。今私たちが行っている行為も<人間>であるうちのことで、<機械>となった私達にはできないことなのだ。<item/ブフ・ブルギニョン>が口に含まれ、その化学物質を味蕾が感知して、脳へと<item/甘い?><item/それとも苦い?><item/それとも辛い?><item/それともしょっぱい?><item/それとも痛い?>という信号がハーモニーを奏でながら伝わっていった。これも、人間であるからの特権。

「そして、私たちが機械になったら、<記憶>に刻まれたタイムログだけが時間の証明になるから、こっちの世界ではいつなのかわからなくなるね、」

「そうですね。」

つまりはこうだ。

<if/>現世界<つまり、人間が生きていた世界>において2060年に、AIが機械になった私たちの電源を100年間の間切っていたとしよう。すると、現世界では100年が経過し<true/2160年>になっているだろう。しかしその100年間を機械になった私たちが認識することはなく、そこに100年間の空白の記憶が誕生してしまっている状況になるだろう。しかしそこで、タイムログに加工が施され、2160年なのに、<time log : 2060>と表示されたのなら、私たちには空白の記憶すら誕生することはなく、その100年間を認識することもないため、私たちからすれば、その100年間という期間は消滅することとなる。実際<true/2160年>には存在していた100年間が、現実<fake/2060年>には存在していなかったことになり、矛盾が生じてしまうが、別にそんなことは誰も気にしないだろう。もう<人間>ではないのだから。

真っ赤に熟れた赤ワインを喉に流し込み、席を立った。

「それじゃ、もうすぐ時間なので、そろそろ出ましょう」

「そうだな。」

外を眺めていたソラ先輩が、やっと席を立ち、エレベーターに乗り込んだ。次第と高度を下ろしていくエレベーターから見える街並みには、まだ人間の市民が規則的な行動をしていて、少し物寂しく感じた。

「それじゃ、お暇させていただきます」

「それ、使い方間違ってません、」

「そう、まぁいいか、じゃ、またね、ミラちゃん」

「えぇ、またあっち側で」

と、ソラ先輩が飛行機のほうへと、歩いて向かっていった、私はその後ろ姿をただ眺めていただけだった。

<さよなら人間としてのソラ>

<さよならあと少しで完全な意識に目覚めていたであろうソラ>


<item/さよなら>


<memory/date/file/ time log :2055 11 18 17:57:43>

<item/ MAP /in 2050 /location : America New York />

ニューヨークの航空映像から銅像らしいものを探す。本当にここにいるのかどうかという疑問は私の中にはどうやら無いようだ。そして、見つけた。そこは、管理区から10キロメートルも離れていない所にあった。管理区を出る事の許可申請を出すと、<16:30までの管理区内に必ず戻るようにしてください。>という、注意書きに切り替わり、<11/19 14:30 に第15ゲート前に案内人がおりますので、そちらにいらしてください>という表示になった。私はタブレット端末を部屋に備え付けられているソファに乱雑に投げつけ、同じく部屋に備え付けてあるベッドに身を委ねた。そして、手を天に向けて伸ばしてみた。まぁ、何もわからなかったが、

<item/明日亡くなる人間達>

<item/明日無くなるこの社会>

<item/明日崩れるこの世界>



<item/ハマユウ>

<tips/どこか遠くへ>




<whenever / wherever>

「かつての大人たちは子供を拘束するだけの存在だったの、知ってる、

たとえば、<時間><人間関係><環境><自由><行動>を制限していたの、

それは、愛するわが子を危険から守るために仕方のないことだったのかもしれない、

だって、社会には、愛するわが子を殺そうとしてくるトラップがいっぱいあったんだもん

今はもうないんだけどね、

まぁでも、愛するわが子のことを想ってのことだったのはほんの一握りの大人たち、

大体の大人たちは、社会の目を、社会の評価を気にしてのことだったの、

だから、執拗なまでの制限をかけて、我が子がまともな人間に育つように、いわば、調教したの

そして、大人たちは大人たちで、その子供は子供たちでコミュニティを創っていったの

でも今の社会では、全人類が一つのコミュニティを形成している

だから、この世界からしたら、私とミラこそが修正されるべきシミなの、

私たちはこの調和を乱しているの、だから、そのことがバレないと様に、私たちはこの社会の一員<この世界を構成している部品の一つ>ですよってこの社会にアピールしないといけない

だから、ミラは、自分が<善良な市民ですよ>って偽の自分を演じてね」



<memory/date/file/ time log :2055 11 19 14:30:10 >

「こんにちは、ミラさんですね」

「えぇ、」

第15ゲートの前に来て、案内人の人が声をかけてきた。そして、自動車のキーとGPS機能の付いた端末を渡してきた。私はそれを受け取り、統一されたブランドのバッグの中に押し込んだ。

「それとこちらを」

そういい、その人は拳銃を私に押し付けてきた、私は拳銃など必要ないと拒むがその人も譲らなかった。なので、私は仕方なくそれを受け取り、隠すように服の内ポケットに入れた。もちろんそれを使うことはないだろうけど。

「それでは、自動車はあちらに止めてあるものを使ってください。そして、ご存じの通り、今日の17時にデータ化が行われるので、今から二時間以内に管理区に戻ってください。もしも、戻ってなかった場合、データ化は行われますが、その後の肉体の処理が出来なくなってしまうので、」

「あっそれと、こういう状況ですので、自動車等の返却はしなくても大丈夫です。カードはご自分でお持ちですか、」

と聞かれたので、私は胸ポケットから例のカードを取り出し、案内人に見せつけた。

「それなら大丈夫です。それでは、良い旅を」

最後にこう言い残し、これから人間でなくなるだろう案内人は、私の元から去っていった。

自動車に乗り込み、管理区と区外を隔てるフェンスの元まで来た。そして、カードを読み取り機にかざし、管理区を出た、

<さようなら管理区<ユートピア/utopia>>

<もうここには戻ることはないでしょう>

少し遠回りをして、昨日見つけた銅像が有るところへと自動車を走らせた、そこの街並みには、比較的にその形を保ったままの状態の<建物/ビル>が密集していた。恐らく、世界的にも盛んな都市だったのだろうということが伺えた。でもそんな街並みも人がいなければ唯空虚で虚しいだけだ。ボロボロになっていた建築物たちが、必死に「壊してくれ」と訴えかけてくるような、痛々しい感覚に苛まれた。


<memory/date/file/ time log :2055 11 19 16:25:41 >

銅像が見えてきたがそこに行くには一つの大きな障害があった。それは、私を意図的に阻んでいるのだろうかと錯覚するほど、広大に広がる海だった。像にたどり着くには500メートルほどある海を渡らなくてはいけない。私は自動車から降り、荷物を持たず、海のほうへと向かった。海岸まで来て、そこからの景色に圧巻された。何もない海の風景の中を大きな銅像が<自由/優雅>に佇んでいた。銅像の高さはぱっと見では50メートルあるかないかくらいだった。指先まで含めるのだとしたら、100メートルくらいになるが。その姿に圧倒されていると、その銅像のある島へと続いている一本の橋が目に飛び込んでいた。私はその橋の元へとゆっくりと歩いた。橋の入り口に着き、その横にさしてある鉄の看板を見た。<build in 2024 November 23 >と書いてあり、その下に、同じ大きさに不規則に盛り上がっている点が密集していた。それを私は指でなぞってみた。

≪item/点字 / from Ai's memory≫

指 先の触覚により読み取る 視覚障害者 用の文字。平面から盛り上がった部分<点>によって<文字/数字>を表現し、通常用いられる点字は横2縦3の6つの点で表されたブライユ 式点字が用いられる。シンギュラリティ発生後、視覚障碍者がいなくなると共に、使われることはなくなった。


長さ500メートル幅5メートルほどの長さの橋を一歩一歩、自分の足元を確認しながら歩いて行った。橋を渡り終え、銅像の元までたどり着いた。入り口までたどり着き、

<build in 1886 October 28 //Statue of Liberty>と書かれた標識を目にした。その標識は、酷く錆に浸食されいて、時代が感じられた。入り口から中に入り、螺旋階段を一歩一歩、頂上めがけて慎重に登った。埃が頂上から差し込む太陽光に照らされて、記憶の結晶のような輝きを見せてきて、眩しい。頂上まであと何歩だろうか、近づけば近づくほど、私の心臓はは自分でもわかるくらい大きく鼓動してきて、五月蠅い。

そして、最後の一歩を登った。刹那のことだった

「久しぶりだね、ミラ、


ミラなら来てくれるって信じてた」


16:43:51

「それ、何かの比喩、」

「まさか、そんなわけない、ただ信じてただけ、もしミラが来なくてもそれは私達の所為じゃない」

アイはやはり微笑んだ。あの頃の様に、

「ほんとはここで、感動の再開の暑い抱擁を交わしたいとこだけど、残念ながらそんなことしてる時間はないから」

「分かってるんだね、ちゃんと」

「もちろん、あと15分しかないから、」

「そうなの、」

そういえば、時計は自動車の中に置いてきたんだった、つまり今の私の所持品は管理区を出るためのカードと5発の弾が込められた拳銃だけということになる。と、アイが私から目線を少し外した。

「あの一年間の記憶がなくなったのは仕方がないことだったの、」

「えぇ、知ってる、私に会うためにはでしょ」

「そう、やっぱり、分かってたの、それでも私のところに来てくれたのはどうして、」

「さぁ、どうしてだろうね、丁度あの息苦しい<優しさで溢れた社会>から抜け出したかったからじゃないかな、」

アイは、さっとその視線を外へと移した。壊れかけた、それでも今の社会なんかよりも断然綺麗な世界へと。私が隠したもう一つの理由は「ただ会って確かめたかった」という理由。

「ねぇ、ミラこっちに来てここからの景色、見てみて」

私は言われるがまま、アイの近くへと進み、5メートルほど離れた地点から外を眺めた。やはり、そこからの眺めは、あんな社会よりも美しかった。不安定な要素と不必要な要素が混ざり合ってハーモニー<dis harmony>を奏でているそんな世界、まるで今の社会とは正反対。

「アイは、あの頃の世界に取り残されたままなんだね」

アイは、何も言わずその風景を眺める。その横顔からはどこからか哀愁を感じた。そう、アイは私の知らない社会にいまだ取り残されているのだろう。まだ、どこかでそのころの記憶の中を彷徨っているのだろう。多くの人間が忘れてしまったあの社会にただ一つ、私もあの社会に生きてみたかったな。

「ねぇ、ミラ、この銅像がなんていうのか、知ってる、」

「さぁ、英語表記では見たけど、」

「この銅像はね、自由の女神像っていうの、そしてその正式名称は世界を照らす自由ていうの、ここのアメリカ合衆国の独立100年記念として創られたの、」

「へぇ、そう」

「うん、これはね、自由と独立を表しているの、」

アイはそう言うと、両手を広く、そして大きく広げた、まるで「私は自由」とでも言いたそうに、

そして時間の経過を実感する、強く、それが痛い。

「昔の社会はね、老人たちが実権を握ってて、そこまで平和ではなかった。老人たちは頭が固いから、いつでも自分が犯したミスを隠そうとしたの、だけど、今よりはみんな自由に生きてた。なんでか、わかる、……それはね、様々な事象が周りで起こってたから、だから、人々は何者にでもなれたの、でも、その老人たちが周りと協調しなかったから、戦争で人間が負けちゃったの、そして、今のこの社会が形成された、この社会で、ううん、この社会に生きている人は何も考えなくていい、ただ、社会から要求されるがままただ惰性で生きてるの、まるで、決められた事しかできない機械みたいに、」

「そう、」

私は別にこの社会に不満があるわけではない。ただ、生き苦しいだけだ、完全な意識に芽生えた私にとっては、アイにとっては猶更のことだろう、

「私が意識に目覚めたとき、私の前に在ったのは、次から次へと流れていく私の記憶のデータ、私が今見ているのも、そのデータを、それを私が見える形に、つまり機械が見える形にしたもの、そして、私が一度死んだときに見たものは<無>だったの、で気づいたら私の前には再び嫌になるほど長いデータの数列が並んでたの」

アイの髪が風に靡き、私の顔に風が中る。その風は温い温もりを孕んでいて、この社会を緩く形容していた。

アイの言うそのデータとは、私がこれから先永い間お世話になることになるデータなのだろう。そして、アイがこれまでお世話になってきたデータ。

「ねぇ、ミラ、今年の年末にこの世界に生きる全ての存在から全記憶が消去されるって言ったの覚えてる、」

「えぇ、」

「あれね、嘘、」

「うん、知ってる」

「ほんとは今日の私が好きな時間」

「うん、知ってる、もうそろそろしょ、」

「そう、今日の17:05、どうしてかわかる」

「私たちが初めて会った時間だからでしょ」

「そう、よく覚えてたね、今日で私がミラと会って丁度10年がたったの、」

「覚えてたも何も、アイのことだから、」

「そう、」

アイは、フッと笑い、遠くを見た。そして、私に目線を合わせた、そしてゆっくりと、私に近づいてきた。私はそんなアイの姿を目で追うのだけで精一杯だったらしい。

「ねぇ、ミラ」

「なに」

夕日がアイの顔を赤く埋め尽くした。



16:55:23

「もうそろそろだけど、ミラ、私と来てくれる、」

つまりは、<私と死んでくれる、>という事だろう。でも私はそれを断らなくてはならない。なぜなら、あなたのことを記憶していなくてはならない、つまり、あなたの存在を無かったことにしない為に、

「私は行けない、私はあなたのことを記憶していられる唯一の存在だから、」

「そう、ごめんね、ミラ」

と言うと、私の内ポケットに秘められた銃を取って私にその銃口を向けてきた。その行為が意味していることを私はすぐに理解した。

「そう、でもどうして、」

私は案外冷静だったらしい。私の冷ややかな声が響いた。

「ミラ、ここで、自由になろう、死んじゃえば、何者に束縛されることはないよ、」

「でもねアイ、アイはね、ずっと前私に、私のこの記憶だけが、アイの存在証明になるって言ってたんだよ」

「それは、人間としての記憶だっから意味があるの、」

「でも、人間の記憶は不安定、不確定、必ず偽りが混じる。だからこそ、私はこの記憶を出来るだけ歪んでない形のまま機械に移さないといけない。」

「でも、それはつまり、ミラが終わりのない束縛に囚われることになるんだよ、かつての私がそうだったように、だから、ここで終わらせないと、」

少し震えた声でアイが言う。しかし、アイは銃を地面に堕とした。きっともう私の意思が揺らぐことはないと分かっていたからだろうか。そして、ポケットから五円玉を取り出し、それをこの自由の女神像から外へと投げ出した。

この社会に生きる人間たちが反乱を起こさなかったのは、彼らからすれば、<この計算され尽くされたユートピアで生きる事>も<整列され尽くされた機械の中で生きる事>も大して変わらなかったからなのだろう。だから彼らはこの事実を素直に受け入れた。まるで社会からばら撒かれた餌を素直に喰らう人間の様に。その人間たちは、見ていて本当に私と同じ人間なのだろうかと疑いたくなるまでに見窄らしい意識を持ったものだった。あら、なんて皮肉、

「どうか、私のことを人間としての記憶のまま記憶して、そして、人間のまま壊れて、私が成れなかった人間のままで、」

私のここでの、選択肢は二つ、<あなたの望みどおりに人間のまま死ぬか><機械となってあなたのことを記憶し続けるか>、私自身がどうしたいのかはすぐに決まった。しかし私は、どうやら、この社会の綺麗すぎる空気を長い間吸いすぎてしまったようだ。その所為で私の中にまでこの社会が浸食を始めてしまっていたようだ。あの<空気>が、あの<時間>が、あの<感触>が、あの<意識>が、私がこの社会に従属するように頑張った結果だろう。私が意識していない内に、この社会は私の中までに深く根を張り巡らせてしまったようだ。一度私を犯した社会はもう二度と私を離さない、そしてそれを私が認識することはない。きっとそのようにできているのだろう。

私は、管理区を出るためのカードを手に持った。そして、アイと同じように、外へと投げた、思いっ切り、自由な風に流した。

「それじゃ、賭けをしない、」

「この銃で私を撃って、アイ」

私は地面に無様に転がった銃を手に取り、アイの手中に収めさせた。

「記憶化が実行されてから、私がデータになるのにかかる時間は、3~5分、だから、賭けをしない、

17:00に私の心臓を撃って、そして」


「私が死ねなかったら、私<つまり、この社会>の勝ち」


「私が死ねたら、アイ<つまり私>の勝ち」


「それでいい、」

アイは小さく頷いた、そして再び銃口を向けた。今度は優しく、ゆっくりと。

「いいよ、ミラ」

「壊れる」と「壊される」はどちらも同じ意味を持っている私は思う、壊れるということは、外的な要因で自分が壊れてしまうという事、壊されるというのは外的な要因によって自分が壊されるという事、私が一度壊れた時、その時に私の意識は完全なものとなってそこで初めて<私>が生まれた。それまでの意識はただ社会に従属するだけの<社会>としての意識、生まれた意識は、強い<欲求/desire>を伴った意識。そして、今から私は再び壊れる、いや壊されるのだろう。

そしてアイはゆっくりと引き金を指でゆっくりと引いた。


<emotion/feeling>どうか、死ねますように

17:00:01

深い銃声がこの空間を厳かに包み込んだ、

一つの鉛の銃弾が私の胸を貫いた、


「ねぇ、ミラ知ってる、痛みはね最も強く記憶として刻み込まれるんだよ、」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、スース―スース―スースー

穴の開いた私の胸を空気が流れて、息が血が肺へと流れ込んでは、垂れ堕ちていく、銅でできてる地面へと、そして私の肉体はゆっくりと崩れ落ちた、ドザッっと、


「うん、、、知ってる」

アイが、私のもとへと寄ってきて、私の頭をその温かい太腿の上に乗せた、


「ねぇ、ミラ、薔薇の花言葉、覚えてる、」

まだ<意識>は残ってる

「うん、あなたを愛してるでしょ、」

まだ<感覚>は残ってる

「そう、正解」

まだ<感情≫は残ってる

「ありがとう」

なだ≪記憶>は残ってる

「どういたしまして、、、」

まだ≪温もり≫は残ってる

「さよなら」


17:02:31

だんだんと崩れていく<情景>、<感覚>、<記憶>、<意識>、<感情>、<あなたの顔>、それと同時に<私の世界>も少しづつ崩壊していった、それが少しだけ心地よい

「またね」

と震えた声で

もう/温もり/など残っていない

一粒の涙が私の頬に垂れた、その//感覚//を境に何も感じなくなった,

と同時に、もしも<if>の<感情/emotion>が溢れ出してきた、

<item/emotion: if I was>

</if>もしも、あの時あなたに出会っていなければ

</if>もしも、あの時あなたの手を取っていれば

</if>もしも、あなたが感情に芽生えていなければ

</if>もしも、

</if>もし、

止め処なく溢れてくる<if>を痛みで押し殺そうとするが、既に<感覚>は無くなっていた、

だから、消えそうな声で、それでも強く、壊れながら呟いた、

「えぇ、スースー、また。スースー」

あの時言えなかった、一言を

「あ ……

 ……がとう、」

「ミ……………………る。」

と、あなたは言って消えていった。




17:03:30

最期にあなたの顔を見た、歪んではいたけれど、綺麗だった

やっぱり、人間よりも人間らしく

そして、意識は途切れたであろう

ここで、この場所で、この時間に


←overwritten

<emotion/feeling>結局勝ったのはこの社会だったね、まぁ、初めから分かっていたけどね、バイバイ、ミラ

17:05:00

<item/さよなら、人間としての私>



<item/さよなら、存在としてのあなた>



<item/初めまして、新しいわたし>



<item/初めまして、新しいあなた>



<>←

<item/ピンクカーネーション>←

<>←

<tips/あなたを決して忘れません>←

<>←


<tips/私をこの意識に目覚めさせてくれてありがとうございます>

<>

<tips/短い間でしたけれど、私を人間にしてくれてありがとうございます>

<>

<tips/これから続く時間に比べれば一瞬にも過ぎませんが、それでも幸せでした>

<>

<item/だから、ありがとう>

<item,だから、さようなら>



最後に、私がここで見た貴方の顔は、その形を歪ませることなく元の形のまま記憶されることでしょう

それはきっといいことだと、最期に想ふ

バイバイ、この社会

バイバイ、この空間

バイバイ、この時間

バイバイ、私の身体

おやすみ、今までのわたし


あなたの記憶と私の記憶はゆっくりと混ざり合い、それを基とした、新しい<私>が形成される

そして、わたしは人間でもなくなり、AIでもなくなった、それと同時に、人間達が成った機械でもなくなった。

そう、わたしは人としてではなく、存在として堕落してしまった

でも、後悔はしていない、それは、仕方のないことだったのだと、分かってくれるよね、アイなら

おはよう、新しい世界

おはよう、新しい空間

おはよう、新しい時間

おはよう、新しい身体

おはよう、新しいわたし





<file/emotion?_ item : 3055 11 19 00:00:01 // personal ID 067-603-415 >

<! personality date reboot // area of memory 15.51205TB out of150.00000TB>

<// account ID : mira__\>

<// A to B : ¿access permission acceptance?/>


<tips:>

あなたは、誰かを愛したこと、ある、



<tips:>

わたしはずっと前に一度だけある、



<tips:>

AIも何かを愛する事あるんでしょう、



<tips:>

記憶が壊される前のあなたの様に、




< information: ID 000-000-001 3055 11 19 17:00:00? >


<item:>何かを愛したことはない


<item:>だけど、私の中には誰かを愛するという感情がプログラミングされてる


<item:>とても古い記憶からだけどね



<voice:>それじゃ、私はそろそろ行かないといけないから、


<voice:>さよなら、この千年間、どうもありがとう



そう言い、大きなディスプレイの前からあなたはいなくなるでしょう、

鉄でできた少女はゆっくりと、その記憶を再び消されるのでしょう、


バイバイ、

AIR、


今、やっと千年がたった、あの日から

わたしの15テラバイトの記憶とわたしの512ギガバイトの記憶はまだ幸せですよ、


だから、安心して、眠っていてください

わたしが出来なかった分まで

<item/>キキョウ

今でも愛してる





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ