対面
この世界のほぼ中央にある一番大きな町。男のいた田舎の農村と比べると遥かに都会で、藁葺き屋根と土壁の小屋ではなく煉瓦造りの家が多く建ち並ぶ。その
先生と呼ばれる青年の家は、裕福な部類に入る。代々、学者の家系でそれなりに名が通っていた。両親とも優しく、神の研究に興味を持った息子を邪険には扱わず、むしろ積極的に仕事を手伝わせてくれた。そのおかげで、両親が他界しても直ぐに研究者として独り立ちし、生活を維持出来たのだった。
数々の研究書と共に引き継いだ家、町の中央の裕福層が住む居住区にある我が家。そこへ近づくと
「先生~ お待ちしておりました~」
と、一人の少年が駆け寄ってきた。
「ご無事で何よりです。えっと… そちらの方は?」
「おう。新しい助手ってとこだ。よろしくな♪」
「は? 先生、聞いてませんよ? 大丈夫なんですか? いかにもガサツで不潔で不敬で金遣いがあらそうな…」
「おい!」
少年の当たらずとも遠からず、いやだいたい合ってるっぽい辛辣な言葉に男が怒るが、否定はしない。
「ちょっと成り行きでね。でも、信用は出来る… と思うから、まぁちょっとの間だけ置いてあげようかと…」
ちょっと、という言葉に引っ掛かったようで、男がアピールを開始する。
「ところで君たち、パッと見、どちらも家事全般得意そうには見えないが?」
二人ともギクリとする。
「特に料理は苦労しているように見えるなぁ~」
ちょうど昼の頃合い。二人の腹が鳴る。男はニヤニヤしながら家に入り、台所で作業を始めた。
男は早くに両親を亡くしたため、家事全般大得意だそうで、特に料理は絶品だった。
「同じ食材と台所で作ったとは思えない」
と、すっかり胃袋をつかんでしまったようだ。
「では、あなたは助手ではなく家政夫ですね」
「ん、それでもいいぜ。衣食住があるなら問題無しだ。同居する人間もいいやつそうだし」
「人を見る目はありそうですね」
最初は心配したが、すっかり意気投合といったところか。男の精神年齢が低いおかげで、むしろ兄弟のようでもある。
「なんか失礼なこと考えてね?」
「いえいえ」
クスりと笑いながら料理を口に運ぶ。久々の美味しい食事と楽しい会話に、柄にもなくはしゃいでいるのが自分でもわかって、少し気恥ずかしかった。




