火の神
罔象女神の時と同様に、ここの神も洞窟の中、祠の御簾の向こうに鎮座していた。
「俺、余計な事言わないように黙ってるっす」
と男は口に手をあてて静かにしている。
「神よ、私の願いを聞いてもらえるか?」
「願いを言ってみるがいい…」
「まずは、この村に発生させた炎を消してほしい」
「その願い、叶えた…」
「もう一ついいかな?」
「言ってみるがいい…」
「この村の平均最低気温だけを3度程上げてほしいんだけど?」
「その願い、叶えた…」
「では最後に、以後私が許可するまでは人間の願いは聞き入れないように!」
「………よかろう。その願いも叶えよう…」
「ふう、これで一安心ですね。さて、ここの神は火之迦具土神としましょうかね」
祠の外に出て、ホッと一息つく。
「ぷはー! いや~俺では思いつかない「お願い」だわ。さすが先生!」
「先生はやめてください。気恥ずかしいです。でも、これで村の人も…」
村へと戻ると、村人は姿を見せず家の中からこちらの様子を伺っている。人々に変化は無いようだ。いや、よく見ると、さっきまでとは村に違いがある。明らかに足跡が増えている。家から出て喜び歩いたような形跡だ。つまり、私たちが戻って来たから屋内に避難した、ということになる。
「すまね、先生。やっぱり俺だわ。出よう」
二人で足早に村を出る。
「悪いな。解決すれば、先生だけでも礼を言われるって思ったんだけど、俺と一緒だと同類扱いみたいだわ」
「別に私は構いませんよ。騒がしいのは苦手ですから。静かに出てこれてよかったです。それより、これからどうされるのですか?」
「ん~ それなんだけど、しばらく先生に着いていっていいか?」
「はい?」




