消火
村にいてもしょうがないのであれば、さっさと神の祠へ向かった方がいい。男に案内を頼み道を進むと、行く手を炎が塞いでいた。
「祠へは一本道。このトンネルを抜けて行くんだけど、すっかり炎に塞がれてさ」
入口が炎に覆われ、隙間が無い。水をかぶって突っ込んでも、さっきの布のように一瞬で焼死だろう。上を見上げると断崖絶壁。普通の人間が登れる壁ではない。
「少し、いえ大きく離れてください」
青年はそう言って何やら袋から取り出し、炎に向かって投げ入れた。と同時に耳を塞ぎながら反対方向へ逃げ走る。男も一緒に走り出す。
ドーン!!
爆発が起こる。投げ入れたのは爆弾だった。壁が崩れ落ち、炎を埋めてしまった。
「すっげー あんたやるな! 火が消えたぞ~」
草むらの陰から首を出し、半分崩れたトンネルを見て興奮気味に話す。
「いや、たぶん暫くすれば、また燃え出しますよ。急いで通り抜けよう」
足早に崩れたトンネルの隙間をくぐり抜け、祠へと向かった。どうやら炎は「村内」にだけ出ているらしく、トンネルを抜けた先の「村外」には一つもなかった。
「やはり「火を村にくれ」という言葉を忠実に叶えているようですね」
「なんだかなー 神様のくせに、細かく説明してやらねーといけない感じか?これ」
「そうですね。神といえども万能ではない。抽象的な要望では、手段も結果も望むものにならない。そういう可能性が高いようですね」
「そーゆーとこは人間と変わらねーんだな。なんか変な感じだわ」
そうですね、と青年は呟き一瞬視線を落とした。男は、その憂いの目に気づくことはなかった。




