火種
この世界で最も北にある農村。北は寒く、南は暖かい。故にこの村は本来、常に寒さと戦う土地であった。しかし、今は絶えず燃え続ける炎が村の至るところにあり、熱く危険な村と化している。
「なんとまぁ… よくぞ、ここまで歪んだ願いを発したものですね」
「いや、違うぞ? 最初はこーじゃなかったんだ。最初はな、あんまり寒いから気温を上げてくれって願ったんだ。そしたらアホみたいに上がってさ!」
青年のボヤキに、長身でボサボサ頭の若い男が悪びれずに答える。
「んで、これじゃ暑すぎる。下げてくれ!って言ったら前の時より寒くしやがってよ!」
青年は白い目で長い溜め息を吐いている。
「頭に来たから、気温は元に戻せ。その代わり消えない火を村にくれ!って願ったのさ」
「それでこうなった、ということですね?」
「そ。まさか村中あちこちに出すなんて思わねーじゃん? おかげで神様んとこにも行けなくなっちゃってさ~いや~まいったまいった~」
あっけらかんに言ってのける若者に、もう黙ってくれと言わんばかりに青年は頭をかかえる。
青年の元に依頼の手紙が届いたのが一週間前。
「神の火で村が大変なことになったから助けてくれ」
そう短い文の手紙で呼びつけられたのだった。
青年は神の研究者。神のトラブルは研究が捗るが、その原因を作った人間とは関わりたくないのが本心だ。
「この火ですね。たしかに神の火だ」
水をたっぷり含ませた耐火性の布を被せるも、直ぐに燃え尽きてしまう。
「すげーよなー 薪がなくても燃え続けるなんてよー」
「おそらくは可燃性のガスが地下より供給され続けているのでしょう。とくにこの辺の地域は…」
「すまん。何言ってるかさっぱりわからん」
やれやれと呆れる。そういえば、他の村人はどうしたのだろう。辺りを見回すと、各家の中からこちらの様子を伺っているようだ。視線をいくつも感じる。
「わるいな。俺、すっかり疫病神扱いでよ。とばっちりすまん」




