塔の街
神巡りは滞りなく完了した。神々の力の残量はバラバラではあったが、幸い全ての神が稼働していた。懐かしい神との再開もあった。もちろん彼らにそのような感情はなかったが。
「モノの見事に廃墟っすね~」
「獣の気配もしない… それなりの年数が経っているように見えますが…」
「それなりの年数が経っているから、だね」
塔の街と呼ばれる所以である廃ビル群は、今でも崩れることなく聳え立っている。が、地面は硬い石で固められ植物は一本も生えていない。獣のエサになるような物はないということだ。元は何かの形を成していただろう鉄屑等が散らばり、腐った油のような臭いがするだけだ。
「かつてはこの星の中心であり、数十万人の人間が住んでいたと言われる街ですが、こうなってしまってはただただ邪魔な空間ですね…」
クーデターによって何が起こったのか、月読に事件の大まかな流れは聞いたが詳細は教えてもらっていない。思い出すのもつらい、話すのも憚られるような事件なのだろう。そう思うとそれ以上は聞けなかった。
「これから何処へ向かうんですか?」
見渡すかぎりの廃ビルに二人が不安になる。広大な未知の森よりも、圧倒的に不気味に感じているようだ。無理もない。
「この一番広い道をずっと真っ直ぐ。5km程進むとこの星で最も高い塔が建っていて、その頂上にいるとのことです」
「なんか、歩きやすいけど… これ、気分が悪くなるっすね…」
森の中では私を背負ってぐんぐん進んでいた三日月が急に弱気になる。ずっと田舎暮らしだった彼には、見渡すかぎり同じ景色の無機質空間がかなりしんどいようだ。
「あの森の半分もない距離です。ちょっと急げば一時間もかかりませんよ。頑張りましょう!」
あの時とは立場が逆転。それに気づいて笑う二人。少しは元気になってくれたようだ。




