願いの果て
少女が洞窟の外に出ると、予想外の事が起きていた。
雨の量が多すぎる。激しく打ちつける雨粒は、地面を砕き土石流となって麓へと流れていっていた。少女はしばらくその場から動けなかった。豪雨のせいもあるが、この状況に恐怖したためでもあるだろう。
雨が止み、少女は村へと走る。足元は原形をとどめておらず、泥濘に足をとられ何度も転び泥だらけになった。しかし、そんなことは気にしていられない。少女は無我夢中で走った。
そこに村はなかった。土石流と鉄砲水により、村は破壊され飲み込まれ、泥の下に埋まってしまっていた。
「あぁ… ああぁ…」
少女が掠れた声で泣きながら、我が家があったと思わしき場所へと歩く。
「あ… あああーっ!!」
少女は絶叫した。泥の下から真っ黒な、しかし見覚えのある小さな手が見えた。急いで駆け寄り、その手の回りを掘る。少しでも可能性が残っているかもしれない。必死に泥を掻き分ける。が、
「ぽとっ…」
その手が倒れた。棒倒しで失敗した棒のように、唐突に。そう、それは手、だけであったのだ。少女は力を失い、その場に崩れ落ちた。
ふと、何かが目に入った。包丁のような刃物。少女はふらふらと、それに近寄り、手に取り、走り出した。神の祠に向かって
「何が神様だ! 皆、皆が死んでしまった! お前は人殺しだ!」
「私は、お前の願いを叶えた…」
「私の願いは皆が幸せに生きることだった!」
「違う… お前の願いは雨を降らせること… 村人が苦しまぬようにすること… 故に雨を降らせ… 二度と苦しまぬように命を絶った…」
「違うっ! 私の願いは!!」
「私はお前の願いを叶えた…」
「うわああああー」
少女は突進し、そのままの勢いで御簾の奥の神に包丁を突き立てた。神の上に御簾が被さり、その上に少女がまたがるような格好になる。
「はぁ… はぁ… うわあああー」
少女はそのまま何度も神を滅多刺しにする。
「お前が! お前がー!!」
ガキンッ
包丁が折れた。
「私はお前の願いを叶えた…」
神はそう言って立ち上がり、元の場所へと戻り静かに座った。神は傷一つ負っていなかった。少女は恐怖と絶望で生きる気力を完全に失い、そのままその場所に倒れた。そしてそのまま息絶えた。




