実りの大地
樹海を進む。が、道は既に存在しておらず、なかなか先に進めない。あらゆる果樹が生え実り、その木々の間には野菜が、水辺には水稲や蓮が覆い尽くしている。意気揚々と樹海に向かって歩きだしたが、足元の悪さに直ぐに体力が尽きる。
「先生、大丈夫ですか?」
「はぁ… はぁ… 我ながら情けな… げほっ!」
あまりにも立派な野菜や果物が実っているので、踏まないように折らないようにと気を遣って歩いたのもよくなかった。元々体力に自信はないというのに無理をしてしまった。
「ここまで酷い… いや、凄いとは…」
「たしかに、異常発生してる割には実ってる食物は立派なのが多いっすよね。先生もどうぞ?」
三日月が、手近な木からもぎ取った林檎を噛りながら自分にも差し出す。喉も渇いてきていたので受け取り噛る。旨い。果汁が溢れでて喉を潤す。
「これは、旨すぎますね…」
「そんなにですか!?」
「いや、たしかに美味しいんですが、この土地にこの密度で実ったものではあり得ない質という意味です」
「あーたしかに! 肥料も摘果もなくここまで育つのヤバいっすよね。この土地、大丈夫すかね?」
神が栄養素を与え続けているなら大丈夫だろうが、もし土地から無尽蔵に吸わせているだけだとしたら…
「早く、進まないといけないかもしれませんね」
そう言って歩きだそうとすると、三日月が目の前で背を向けてしゃがみこんだ。
「どうぞっす。世理須は大丈夫っすよね?」
「もちろんです!」
「いやいや、世理須が歩くのに私が背負われるなど…」
自分より遥かに年下の世理須を差し置いておんぶで進むなど流石にプライドが許さない。しかし、この助手たちに逆らうことは出来ず、しばらく三日月におんぶされて進むことになる。妙に心地好い背中に安心して身を任せてしまっていた。世理須が息も乱さず着いてきたのが意外であり、大分落ち込まされることになった。
問題なのは足場と自分だけ体力だけ。食糧に困ることはなく、体力お化けの三日月のおかげで順調に進めたが、丸一日かけての目的地到着となった。
「先生、たぶん村っす」
背中から頭を出して前を見る。そこには植物に侵食され、朽ちた村の姿があった。石は砕けて砂に、藁葺きの屋根はボロボロに枯れ落ち、水路は只の溝と変わり果てていた。
「風化のスピードが早すぎる… あの植物、やはり周囲の栄養素を無尽蔵に吸っている。いや、吸わされている?」
「先生、この辺りに先程の植物たちが無いのは…」
「はい、栄養を吸い尽くしたということでしょう…」
「この土の状態、そういうことかよ。クソッ! 先生、早く神を見つけようぜ!」
コクりと頷き、神の社を目指す。




