全てを飲み込む森
新たな依頼が来た。要約すると
「森が迫って来ている。なんとかしてほしい」
という内容だった。
「何かの比喩でしょうか?」
「でっかい亀の上に森が乗ってるとかか?」
「まさか。繁殖力の強い新種の植物でしょう」
「神絡みなら化物の可能性もあんじゃね?」
我が助手たちは手紙を覗き見て、それぞれ推理に興じる。前回、一人旅の上に何も話さなかった私への当て付けもあるのだろうか。
「では、その推理が当たっているか、皆で確かめに行きますか?」
二人は「やった!」と喜び旅支度を始める。
依頼をくれた村は、ちょうど世界の反対側。電車と馬車で片道二日の距離である。
「ただの自然災害なら先生の出番無しすか?」
「そうですね… 状況をまとめて政府へ依頼のお手伝いになりますかね」
「先生は政府高官にも顔が利くのですよ!」
世理須が自慢気に話す。しかし、自分の力というより亡き父のコネクションだ。それに今の政府は…なので自慢されると、少し恥ずかしい。こんな調子で時間が過ぎていった…
もうすぐで最寄りの駅に到着という所で、車内が急に騒がしくなる。何かあったようだ。
「なんか、外がどうとか言ってるな。カーテン、開けますね?」
三日月が、日差しが眩しくて閉めていたカーテンを開ける。すると、予想外なモノが目の前に広がる。
樹海だ。本来は田畑が広がっているはずの場所。しかし、数メートル級の植物群が埋めつくし、先が見えなくなっていた。
「これは… すごい…」
「これ、どこまで広がっているんですかね?」
「つか、依頼の森ってこれ? だとしたら、もう飲まれてるんじゃね?」
依頼の手紙によれば隣村の方から迫って来ていた森、方角的に見ると依頼主の村は眼前に広がる森の向こう。絶望的だ。とにかく駅に降りる。
駅は逃げて来た人々で溢れかえっていた。電車の数は限られている。なので、数日ここで足止めされている人もいるらしい。そんな人の流れに逆らい、駅の外へと出る。
「すごい人だったな~」
「みんなパニックといった様子でしたね」
「逃げて来るということは、危険な木なのでしょうか? 話が出来る人がいるといいのですが…」
まともに会話が出来そうな、状況をうまく説明してくれそうな人物がいないか、と辺りを見回していると、そんなこちらの様子に気付いて近寄る人が一人。
「あの、もしかして瓊杵先生ですか?」
「はい、あなたは…」
「依頼した村長の豊寿と申します。寺の住職も兼任しておりました」
村長の話によれば、森の成長速度は一定で進んでいる。人間に直接的な被害は無いが、村の至るところから芽が出て、根をはり、急激に成長して実をつけたそうだ。建物は侵食され居住不可能。おまけに奥地は腐敗した作物の臭いが凄まじいらしい。
「想像以上の早さで広がり… もっと早く依頼を出すか村を棄てるかの判断が出来ていれば… ご足労いただきましたが、依頼はなかったことに…」
「そうですか。ちなみに、村の方角はどちらになりますか? それと、神の社の場所も知っていたら助かるのですが…」
三人ともびっくりしたように私を見る。が、これは間違いなく神の力。ならば私は行かないわけにはいかないのだ。




