心
「では、神の管理、くれぐれも頼みますね」
「うむ、急にすまなかったな。あとは任せるがよい」
「先生ばいばーい」
町長と子供たちが見送ってくれる。扉の前、なんとか笑顔を作り手を振る。警笛が鳴り響き電車が出発する。そして、私は席に行くこともなく、その場に座り込んだ。罪悪感が波のように押し寄せる。
神へ願い、あの母親の存在を消した。そして、それに関する記憶を子供たち、町長、そして町の人々からも消した。死者蘇生に関する記憶も消し、子供たちは町長が引き取り養っているという偽りの記憶を植え付ける。そして、私は「神が不調らしいので見てくれ」という依頼で来たことにした。多数の人々の記憶改竄。存在の消去。これ程に規模の大きな願いは、実際に神の力を大きく使うことになり、しばらくの休息が必要になったので、結果として神の老朽化という話に辻褄があった。
自分一人で決め、自分一人しか知らない、覚えていない事実。どうせなら自分の記憶も… と逃げたくなる。だが、耐えなければならない。調査の先にこそ、私の進むべき道があるのだから…
「先生、おかえりなさい!」
「おつかれさんっす。てか、ひどい顔っすよ?」
「そういう言い方はないでしょう。実際、お疲れなんですよ!」
「そんなに怒らなくていいじゃんよ。てか、とりあえず風呂どーっすか? 沸かしておきましたっすよ♪」
偽りのない優しさの感情。ズタズタになっていた私の心を癒してくれる。世理須一人ではここまで癒されることはなかっただろう。
「いや、先ずはお茶にしよう。お土産があるんだ」
やったと喜びハイタッチする二人に思わず笑ってしまう。同時に心の奥底を過る
(もし、この二人が死んだら…)
という自身の心の片隅にわき出たドス黒い思考には気付かないフリをしながら…
「これが私が隠蔽した神の事件、伊耶那美命事件の真相です」
暗い部屋の中、椅子に座って話す私の声が響く。
「そうか。つらいことを思い出させてしまったね」
「いえ、自分で選んだことですから…」
「で、あのことは聞いたのかい?」
「もちろんです。ですが、やはり無理だと…」
「そうか… では、失礼するよ」
その人物は静かに去っていった。まるで闇に溶けるかのように。一人になり、天を仰ぐ。まるで天井など無いかのように真っ暗で、このまま宇宙に吸い出されそうな錯覚を抱く。
「あれほどの力でも無理なら、単体では不可能なのかもしれない…」
ポツリと呟き、いつしかそのまま眠りに落ちていた。




