状況調査
「この町はそちらと同じくそれなりに裕福でな。わざわざ危険を犯してまで神に願う者などいなかったのだが…」
久しぶりの対面ではあったが、町長は直ぐに「問題の場所へ案内する」と話ながら歩きだした。白髪が増え、以前より痩せたようにも見える。
「そもそも、神の所在を知る者も少なかったというのに… いや、それは言い訳だな…」
死者蘇生は禁忌とされている。文献でも昔からそういう扱いで、重罪と記されていた。禁忌を犯した者へ、というよりは気を配ってやれなかった自信への怒りだろう。少し言い訳がましくなったことを謝罪する。
「あの家だ。母一人、子が三人。母親が重い病気で子供らがいつも泣きそうな顔をしていたのだが、最近子供らが笑顔で学校に行っている。母親の病気が治ったと言ってはいるが、医者が言うにはあり得ないと。そして、肝心の母親の姿は確認出来ていない」
「奇跡が起こったとか?」
「その奇跡が「神」ではないかと思っている」
「そんなに難しい病気だったんです?」
「末期の癌だ。手術も手遅れのな」
「それは… 誰も確認しに行っていないのですか?」
次々と言葉を発してきた町長が、下を向いて口をつぐんでしまった。そして、一呼吸おいて
「もしそうなら… 子供らがあまりにも、な…」
と言った。たしかに、そうだった場合のことは考えたくはない。
(情状酌量、もしくは隠蔽… いや、それは私が考えることではないな。私の仕事は調査だ)
子供らが学校から戻らないうちに、家の中へと入る。
「こんにちは…」
扉を叩いて声をかけると
「はーい、どうぞ…」
と返事があった。若い女性の健康的な声。少なくとも病気は改善したようだ。問題は、それが死の前後どちらかだ。
「失礼しま…」
中へと一歩入ると、思わず鼻を塞ぐ。耐え難い異臭。
(何だ? いったい何が?)
仕事への使命感か、単なる好奇心なのか、その異臭をなんとか堪えて奥へ進む。
(この臭いの中で普通にいられるのか?)
半分開いた扉の奥、おそらく居間だろう。ゆっくり覗き込み…
そして私は逃げ出した。驚く町長をその場に置き去りに、どこまでも走った。いや、私は体力がない。そう思っただけで、実際に走った距離はそれほどでもない。間も無く町長も追い付いた。
はぁはぁ… はぁ… げほっ! はぁ…
町長のがずっと年上なのに、既に呼吸は落ち着いていた。呼吸を止めての全力疾走だったので、回復に時間がかかっているのだろう。そうであってほしい。呼吸器官がヤられた可能性が過り恐怖する。
「何を見た?」
町長が問う。
「………化け物が… いた…」




