干魃
村は死にかけていた。雨が降らない。故に作物が育たない。保存してある米は少しはあるが、水がなければ炊くことも出来ない。川が干上がってから既に一週間が経っていた。
「村長、やっぱり神様にお願いをするべきだって!」
「そうだ! このままじゃ確実に死んでしまう!」
「どうせなら可能性のある方を選ぼうよ!」
村人が村長に進言する。しかし、村長は悩んでいた。
「お前たちの言うこともわかる。だが、隣村は願い方を間違ってしまったために滅んだと言われておる。この村も、正しい願い方が失われて久しいのだ…」
「それも本当かどうかわからないんだろ?」
「そうだ! 生き残りなんていないんだ。そんなの本当かどうかなんてわかんないだろ!」
「だいたい、正しい願い方なんてあるのかい?」
大人たちは、昨日よりも激しく言い争っていた。水がなければ風呂にも入れないし、着物を洗濯することも出来ない。異臭は不快感を強め、討論をより激しいものにしていた。神は願いを言えば、だいたいの事は叶えてくれる。しかし、願い方を間違ってしまうと大きな災いが起きるとも言われている。どういう意味かはわからない。数十年前の天変地異によって、様々な書物が消失し、また知識を持った人々も失われてしまったのだ。既に伝承が途絶えて久しい。ましてや年端もいかない少女には、到底理解出来ない。
「なにか特別な礼儀作法でもあるのかな? でも神様だもん、ちゃんとお願いすればわかってくれるはずだよね!」
今年で11才になる少女には年の離れた弟がいた。3才になったばかりで、少女によくなついていた。その弟も栄養失調で死にかけている。なのに、大人たちは連日討論ばかりで状況が改善する気配はない。少女はしびれを切らし、神がいると言われる山の洞窟まで行ってしまうのであった。
洞窟の奥、神を奉る祠があった。神の力によるものなのか、洞窟の中は灯りもないのに視界が通っている。祠の中には御簾が垂れていて、その向こうに神様らしき姿が見える。
「あの… 神様ですか?」
「そうだ…」
ゆっくりと影が答えた。
「あの、村が、雨がぜんぜん降らなくて、作物が育たなくて、弟も死にそうで…」
「………」
神は黙って聞いているのか反応がない。
「お願いです。雨を降らせてください! 村の皆が、もう苦しまないでいいようにしてください!」
「わかった。その願い、叶えた…」
神がそう言うと、外から雨の音が聞こえ出した。
「あ、ありがとうございます!」
少女は満面の笑顔で外に駆け出した。




