アパートで二人
優弥は、学校からの帰り道を間違えそうになり、慌てて晴夏のアパートの方を向いた。
これから一週間、晴夏と一緒だと思うと、夏休みは終わったのにまだ続いているかのようで、何だか嬉しくなる。
優弥は、祖父母の家に行ったことがない。
だから、誰かの家に泊まるということが、とても嬉しかった。
わくわくした気持ちでアパートに帰ると、晴夏が笑顔で出迎えてくれた。
「昨日も来てすぐに宿題してたけど、えらいね」
帰ってすぐに、ランドセルを開けて宿題を取り出した優弥に、晴夏が声をかけてくる。
「宿題すると、帰ってきたお母さんが喜ぶから」
優弥は少し照れながら答える。
いつも帰ってすぐに宿題をしているのは本当だ。
疲れて帰って来た弥生が、嬉しいそうに頭を撫でてくれるから。
いつもは弥生が帰ってくるまではシッターの人と一緒にいる。
匠と一緒に暮らしていたときは、匠が保育園まで迎えに来てくれて、弥生が帰ってくるまで一緒にいてくれた。
「早くお母さんの今のお仕事終わって、またお父さんと一緒に暮らしたいな」
優弥の言葉に、晴夏は少し間をおいて頷いた。
「……そうだね」
優弥はひらがなの宿題で、「かぞく」と書かれた文字を見つめた。
「お姉ちゃん家族ってなあに?」
晴夏は優弥が思っていた以上に困惑して答えた。
「何だろうね。わからないや」
そして、スマホで「家族」と検索し出す。
晴夏が調べて読み上げる「血が繋がり」や「同じ家に住む」という言葉は、優弥たちには当てはまらない。
「でも、僕もお父さんもお母さんもお姉ちゃんも、家族でしょ?」
優弥が少し不安になって聞くと、今度ははっきりと晴夏は答えた。
「そうだよ」
「そうだよね」
「うん。だってとっても大切だから」
晴夏の言葉に、優弥は安心して笑う。
つられて、晴夏も微笑んだ。