アパートでの団欒
「よし、夕飯はハンバーグにしよう」
匠は来て早々、勝手に冷蔵庫を開けて中身を確認すると、荷物開いて整理する晴夏と優弥に向かってそう言った。
匠はハンバーグが好きだ。
挽き肉以外の具材もつなぎもなく、こしょうで味付けし、ただ固めて焼いただけのハンバーグだ。
いつも適当に作っているので焦げていることも多い。
匠は、晴夏のアパートに来てはそればかり作っている。
それがわかっているから、晴夏も冷蔵庫には必ず大きいサイズのトレイにパックされた挽き肉を買って用意しておく。
「僕、ハンバーグ好き!」
「そうか。じゃあ沢山作ろう」
いつも匠が作り過ぎたハンバーグを翌日も食べ続けている晴夏は、優弥が飽きてしまうかもしれないと作りすぎないよう注意しようと口を開いたが、優弥が嬉しそうにしている姿を見て、言葉を飲み込む。
代わりに、思っているハンバーグとは違うかもしれないと伝えると、優弥は頷いて笑った。
「お父さんのハンバーグ、まん丸で好きだよ。大きいのや、小さいのや、ちょっと焦げてるのもあるんだ」
どうやら一緒に住んでいたときに食べたことがあるらしい。
「お母さんがお仕事で忙しい時に作ってくれたんだよ」
「作りすぎなかった?」
「いっぱい作ってたよ。だから、お母さんが次の日に煮込みハンバーグにしてた」
「じゃあ、明日は煮込みハンバーグにしよう」
嬉しそうに笑う優弥に、晴夏もつられて笑う。
優弥は匠に懐いている。
再婚してから、何度か弥生と会ったことがあるが、弥生も匠と仲が良さそうだった。
だから、一年ほどで別居したと聞いて驚いた。
先日のカフェで会った時に理由がわかるかと思ったが、結局、弥生の出張と優弥を預かる話しか出来なかった。
優弥は、別居の理由を聞いているのだろうか。
無邪気に笑う優弥を見て、晴夏はそんなことを思いながら荷ほどきを手伝っていると、匠が出来たと言って、山のように皿に盛ったハンバーグを持ってやって来た。