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バイト先の居酒屋

 居酒屋の制服に着替えた晴夏は、カウンター席の近くで開店準備していた店長の陽介に挨拶すると、シフトの件を相談した。


「いいよ。晴夏ちゃんいつも、他の子が都合つかないとき出てくれるし。紗良ちゃん、どう?」


「うん、私代わりますよぉ。こないだ晴夏ちゃんに代わりに出てもらったし、ちょうど彼氏が仕事で暇だし」


 陽介との話を横で聞いていた紗良と呼ばれた女性は、赤い口紅が塗られた唇で、子供のように、にっと笑った。

 この店は個人経営で、気さくな陽介の提案で、従業員は名前で呼び合っている。

 紗良は晴夏より年上で、派手な見た目とは裏腹に、人当たりが良く穏やかな性格の人だ。

 この店での勤続年数も長く、教え方も上手いため、他にも数人バイトがいるが、皆、紗良を慕っている。


「紗良さん、ありがとうございます」


「いいよぉ。で、彼氏とデート?」


「いえ。弟を一週間預かることになったので」


「晴夏ちゃん弟いたんだ」


「父の再婚相手の連れ子です」


 陽介と紗良は一瞬驚いたように目を見開く。

 しかし、紗良は直ぐににやりと笑い、陽介の肩を軽く叩いた。


「ほらぁ、今や離婚、再婚なんて当たり前だってぇ。陽介さんも奥さんと別れて何年も経つんだから、付き合ってる彼女と再婚したら?」


「いや、でもなぁ。晴夏ちゃんだって、お父さん再婚した時、思うことあっただろ?うちの娘、中学生になってから、面会してもあんまり口聞いてくれないんだわ。再婚なんて言ったら、会いたくないって言われそうで恐いよ」


 陽介は、そう言いながらも、嬉しそうに娘の話をする。

 離婚し娘と離れて暮らしているが定期的に会っているらしい。

 晴夏は努めて明るく返事をした。


「たぶん、大丈夫ですよ。私は、そうなんだって思っただけでした」


「いや。それはそれで何か寂しいな」


「もうっ。まずは、陽介さんが娘離れしなきゃ」


 他人と、親の離婚や再婚について世間話のように気軽に話をする日が来るとは思わなかったと、晴夏は不思議な気持ちになった。


 小学生や中学生の頃、母のいない晴夏は、同級生に気を使われていた。

 いじめられているわけではなかったが、まるで腫れ物を扱うような態度だった。

 高校に入ると、学校での親の存在は急に薄くなるので、あえて片親だとは言わなかった。

 高校時代の途中で、匠が一回目の再婚をしたが、友達には親について何も話したことはない。

 言っても気まずくなるだけだと思ったからだ。

 そのせいか、何でも打ち明けられる親友という存在を、晴夏は作ることが出来なかった。


 突然、開店10分前に鳴るように設定された時計のアラームが店に響く。


「じゃあ、シフトは変更しておくから。みんな、店開けるよ」


 そう言って店の鍵を開けに行く陽介に、店にいた従業員が各々返事をする。

 開店してしばらくすると、居酒屋の中は人の喋り声とグラスの音で賑やかになっていった。

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