アパートで一人
晴夏のもとに、弥生から優弥を預かって欲しいと連絡が来たのは、次の日の夜だった。
シッターが見つからないので頼みたいと、電話がかかってきたのだ。
「――ごめんなさいね、結局頼んじゃって」
「いいえ。自分から言ったことなので」
「ありがとう、これで安心して出張に行ける。優弥、お姉ちゃんに早く会いたいって今から騒いじゃって大変なの」
遠くから、「お姉ちゃんと話してるの?」と優弥の声が聞こえてくる。
「私も久しぶりに会えるの楽しみです」
優弥とは、匠と弥生が同居していた時に、たまに遊んだことがある。
晴夏は、初めて会った時に、照れながらも「お姉ちゃん」と呼んでくれた優弥の姿を思い出し、思わず目を細めた。
弥生との電話を切ると、居酒屋のバイトを休まなくてはと、晴夏はスケジュール帳を開き予定を確認する。
晴夏は、スケジュール帳に色々と予定を書き込むのが好きだ。
しかし、予定のほとんどは大学の講義とバイトで埋まる。
大学に行けば、一緒に講義を受け、お昼ご飯を食べる友達はいる。
たまに買い物など遊びに行くこともあるが、誘って貰ってもバイトがあると断ってしまうことが多い。
そうして、自分でバイトを優先しているのに、何故か誰かとの予定が少ないことに、突然、無性に寂しくなるのだ。
一人が好きなのに寂しがり屋という変な性格がどうしたら治るのか。
家族と一緒に暮らしたら良いのか、友達を沢山作れば良いのか、恋人を作れば良いのか。
一人でいると、同じことを何度も何度も考えてしまう。
「…明日、シフト代わってもらえるか聞いてみよう」
晴夏は来週の予定欄に一週間、線を引くと「優弥が来る」と記入し、スケジュール帳を閉じた。