家族の日常
優弥が弥生の元に帰り、晴夏の夏休みも終わった。
いつも通りに講義を受け、バイトをし、アパートに戻る日々だ。
少し変わったのは、匠だけでなく優弥も晴夏の部屋によく遊びに来るようになったことだ。
一週間一緒に過ごして、親戚の姉のような存在から、少し家族の姉という存在に近付けたのかも知れない。
今日も、匠と優弥が一緒にやって来て、匠はそのまま仕事へ行き、優弥は弥生が迎えにくることになっている。
「そうだ。今度、バイト先の友達連れてバーに飲みに来いよ」
匠は、優弥とゲームをして遊ぶ合間に、晴夏に向かってそう言った。
「紗良ちゃんと……バイトでお前と一緒にいた同じ歳くらいの男子。あの二人」
「……。真樹くんのこと?」
自分と同じくらいの歳で男は、真樹しかいない。
しかし、匠が居酒屋で紗良と会話していたのは見たが、真樹とは話していなかったはずだ。
紗良と何か話したのだろうか。
不思議に思う晴夏に、匠はにやりと笑う。
「いいから、二人連れて飲みに来い。その、真樹くんも、20歳になってるんだろ?みんなに一杯奢るから」
バイトのシフトを代わってもらったお礼だと誘うよう言われ、晴夏は頷く。
しかし、紗良はともかく真樹は来るかわからないと返すと、匠は笑った。
「絶対に来るよ。――いいねぇ。楽しみだな」
一人楽しそうな匠に、晴夏はただただ首を傾げるばかりだ。
「お父さん、続きしようよー」
「あと一回だけな」
匠は、優弥に急かされ、晴夏との会話を切り上げ、ゲームの続き始める。
晴夏は、匠と優弥がゲームをしている姿をしばらく眺めていた。
「――ねえ。また、公園行きたいね」
ゲームが終わり、仕事に行く準備を始めた匠に、晴夏が呟くように声をかけると、匠は驚いて晴夏を見つめた。
「……晴夏が、自分からしたいことを言ってくれるのは久しぶりだな。嬉しいよ」
「そう、かな。……そうかもね」
思えば、一人目の母が出ていったあと、匠に何かをせがんだ記憶がない。
晴夏は、匠が全て気をきかせて自分に与えてくれていると思っていた。
しかし、彼は何もねだらない娘を、寂しいと感じていたかも知れない。
そう思った晴夏は、再び同じ言葉を、今度ははっきりと口にした。
「また、みんなと公園に行きたい」
自分も行きたいと声を上げる優弥の頭を撫でながら、匠は嬉しそうに頷いた。
「ああ。家族みんなで、また行こうな」
晴夏は嬉しくて、気付いたら優弥と一緒に声を上げて喜んでいた。
血の繋がった匠と、三人目の母である弥生と、初めて出来た弟の優弥。
彼らとただ一緒いるだけで、無性に感じていた寂しさを感じないのだ。
晴夏は、今ならば優弥に問われた家族とは何かという言葉に、答えられるような気がした。