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奇妙な死体(3/5)

 すぐに村中を探し回ったが、アリウスは見つからなかった。村の連中に聞き込みをしても、誰もが「知りません」の一言を返すだけだ。嘘を吐いていると思うが、その証拠はない。あいつが自分でどこかに行ったにせよ、誰かに連れ去られたにせよ、いったいどこへ?


「サムソンよぉ」カールが鎧を身に着けながら口を開いた。「アリウスの奴は、歩いて村から逃げたってことはねえべか?」

 あまり考えたくない想像だ。一度来た道とはいえ、あいつが一人で戻れるだろうか。案内もなしで。

「いくらあいつでも、それはないだろう」俺はカールの推測を否定した。「村人を怖がって人食いの村と思ってたのに、一人でフラフラ出歩くか?」

 カールは難しそうな顔でうーんと唸り声を出し、それきりしゃべらなかった。


 村にいても埒が明かない。ゴブリンの巣を探すついでに、アリウスも探す。見つからなかったら、その時はその時だ。

 俺たちは目星をつけた場所をいくつか周り、ゴブリンの痕跡を探した。襲撃から日にちが経っている上に、村人たちが食料を探しに周辺を歩き回ったせいで、手がかりは乏しかった。ゴブリンどもの足跡でも残っていれば、すぐに見つかるんだが。

 だが、そろそろ日が傾いて、帰る時間を考え始めたころ、俺は異変に気が付いた。


「うん? サムソン、どうしただ?」

 後ろでカールが声をかける。俺はすぐに振り返り、声を低くするように頼んだ。

「つい最近、この近くでなにか起きた。誰かいるぞ。村人かもしれないが、アリウスか、それともゴブリンかもしれない」

「なんでわかる? 何か見えただか?」

「いや、何も見えないが、木の臭いがする。気が付かないか?」


 俺は戦闘力ではカールに劣るが、罠や危険の感知では右に出る者はいない。ある程度は毒や魔法の知識もある。ちょっと器用貧乏だがね。


「言われてみりゃあ、なんか青臭い匂いがするな」

「誰かが木を傷付けてる。樵の作業場でもないのにな」


 身を屈めた茂みから周囲をうかがう。音はない。

 俺は、茂みから茂みへ移動し、匂いの元を探した。やがて、地面に周辺の木の枝葉が落ちて積もっている場所を見つけた。葉はまだ青々としていて、落ちてからまだ時間が経っていないとわかる。


 積もった枝葉を少しかき分けてみると、その下にいたのは……

「え? ゴブリン? なんでゴブリンがこげな所に倒れてるだ?」

 カールが驚く。ゴブリンは既に死んでいた。身体を調べてみたが、刃物の傷はない。全身の骨がぐにゃぐにゃに折れている。その目は大きく見開かれ、死ぬ直前に受けた衝撃の大きさを表していた。


 何をどうやったら、こんなふうに死ねるんだ?

 ふと、違和感に気づいて空を見上げた。他の場所では葉と枝に覆われているはずの頭上に、青い空があった。

 ここだけ切り取ったように、葉と枝が打ち払われていたのだ。


「このゴブリンは、上から落ちてきたってことか? どこからか飛ばされて、ここに叩きつけられたんだな」

「でもぉ、どうやって? アリウスが魔法か何かでゴブリンを投げ飛ばしたとか?」


 アリウスは幾つかの魔法が使えるが、魔法使いとしてはまだヒヨッ子だった。

 風の精霊に命じて人を巻き上げる魔法は実在する。だが、けっこうな魔力を必要とする術であったはずで、アリウスに使えるとは思えない。


「わからん。アリウスがやったわけじゃなくて、何かゴブリンとは別のモンスターが移動してきたのかもしれんな」

「めんどくせぇなぁ」カールは露骨に嫌そうな顔をする。「いつだったか、討伐予定だったゴブリンの巣にオーガが攻め込んでて、ゴブリン退治がオーガ退治になったことがあったじゃねーか。あんなのは勘弁して欲しいべ」

「もしそうだとしたら、共倒れになってると嬉しいんだがな」


 この一件以外に、異常は見当たらず、ゴブリンの巣も、アリウスの姿も、どこにもなかった。俺たちは、夜になる前に村に戻ることに決めた。

 村を飢饉から救ったグロテスクな食べ物とはどんなものか。やっと正体がわかるだろう。


 しかし、帰ってみれば、村は騒然としていた。誰かが出迎えるかと思ったが、それどころではないらしい。広場に村人たちが集まって、何か大声で話し合っている。


 集まりの中心へ分け入ってみると、そこにいたのは全身怪我だらけの村人数名だった。確かコイツらは、朝にすれ違った連中だ。狩りに行ったはずたが、今は担架に乗せられている。


「村長さま、申し訳ありません。私どもの筋肉では、勝てませんでした」

 怪我だらけの男が、村長の手を取った。

「仕方がない。戦い慣れしていない我々では、勝てなくて当然だ。今は身体をいたわってくれ」

 これは村長。

「村長さま……」

「バラン……」

 いや、大の男が見つめ合うなよ。


「あのー。聞いていいか? 何があったんだ?」

 俺は口をさしはさむ。村人たちは、やっと俺たちの存在を思い出したようだった。

 村長と、担架に乗せられた村人たちが経緯を説明してくれた。


 その話を要約すると、今日の朝、狩場へと向かった村人たちは、獲物を発見して追い詰めた。ところが、そこに男が現れて、村人たちを一人、また一人と腕力で制圧したのだという。

「男? 筋肉まみれの村人を腕力で負かしたのか。格闘家かな? 面識はないのか?」

「それが……」バランと呼ばれた村人が、言いにくそうに答えた。「あなたの仲間のアリウスさんです」


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