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異形の村(1/5)

今は引退した元・冒険者の男が、新人に語る恐怖の冒険談……




 お? あんた新人だね?

 わかるよ。俺も、こうしてこの飯屋を始める前は冒険者だったからな。

 さ、こいつはオゴリだ。当店特製のスタミナシチューと黒パンだ。シチューは評判が良くてね。パンに浸しながら食うのがオススメだ。オカワリも無料だぞ。


 ん? 俺が現役の頃の話が聞きたい? いいとも。

 俺の昔いたパーティーが解散する原因になった一件について話してやろうじゃないか。

 ちょっと怖いかもしれないけど、まぁ、とくと聞いてくれ。


 それは、ありがちな仕事のはずだったんだよ……。

 ほら、ギルドの掲示板を見たら、いつも1つ2つはあるだろう? どこかの田舎の村が、ゴブリンとかトロルに襲われたから、助けてくれっていう依頼さ。

 腕に覚えのある奴を数名、できれば魔法が使える奴も連れて行くと確実に片付く、定番の仕事だよ。

 依頼主はたいてい貧しい村だけど、こういう仕事は村々から税金を徴収する「お貴族様」にも価値があるから、たいてい補助金が出るんだよ。だから食っていけるだけの報酬になる。冒険者と呼ばれる連中の半分は、これで食ってるもんなんだ。


 で、俺もその時はちょうど、金が必要でね。少し前の依頼で剣が折れちまって、新しいのを買ったんだが、蓄えが底をついてたんだよ。それで掲示板を物色してたら、問題の依頼が貼ってあったのさ。


 内容は定番のゴブリン退治。ちょうど秋の収穫が終わって少し過ぎた頃の話さ。年貢として徴収されるはずの麦を狙って、盗賊が襲ってくるって話は聞いたことあるだろうけど、モンスターどもも、秋は略奪の季節でね。

 なんでも、ゴブリンの一団の攻撃を受けて、麦袋を載せた荷車を丸ごと奪われたらしい。元々、ろくな産業のない貧村らしく、これで収入源も絶たれて、村人は野草の根をかじって飢えを凌いでいるとか、そんな悲惨な話も記載されてた。


 この依頼はその村の食料支援も兼ねていたから、ギルドが用意した食料(こういう事態のために備蓄されてたカラス麦だ)を馬車に載せて、俺と、冒険者仲間のカールとアリウス、それに御者の合計4人で、依頼先の村に向かったのさ。


 街道を一昼夜進み、さらに街道を外れた狭い道を進むこと一日。そろそろ日が傾き始めた頃合いだった。

 こんなところに人が住んでいるのかと思うような森の奥で、急に視界が開けたその先に、問題の村はあったんだ。


「さあ着きましたよ」

 御者の声を聞いて、俺も、仲間も、みんな馬車から身を乗り出したよ。何も娯楽がない馬車で丸二日、座って過ごすってのは、ストレスキツかったんだ。

 ひとまず馬車を降りて、身体を伸ばして、それから早速、積み荷の麦袋を降ろしにかかった。荷物を全部下ろすと、御者は五日後に迎えに来ると告げて、去っていった。


「さあて、仕事を始めるぞ!」

 餓えた村人とやらは、きっとこの救援を待ち望んでいたことだろう。大喜びで俺たちを歓迎してくれるだろう


……そんな風に思ってたんだ。

 今にして思うと、俺たちは能天気だったんだな。


 カールは元・農民の戦士で、こいつは故郷が飢餓で崩壊して、冒険者になった。だから、この仕事に、なんというか、使命感みたいなものを持ってたんだよ。はた目にも分かるほど張り切っててな。重い麦袋を一人で二つ抱えて村の奥へと走って行った。

 俺も麦袋を一つだけ抱えて、カールの後ろをついて行ったんだけど、なーんか村人の様子が変だった。飢餓の村なら特有の、あの荒んだ空気がなかったんだ。


 何より、なぁ。

 そうだな。一番変だったことを言うなら、村人たちが、どいつもこいつも筋肉特盛のマッチョだったってことだ。


 顔色もいいし、体格もいい。身体の奥に、力がみなぎっているみたいな、そんな空気さ。明らかに、冒険者として怪物を討伐してきた俺達より体格が良かったんだよ。みんな八等身だ。

 男も女も、不気味なほど健康的な笑みを浮かべている。その、まとわりつくような視線に晒されながら、俺たちは麦の袋を広場まで持って行って積み上げた。

 広場には、よそ者の俺たちが珍しいのか次々に村人が集まってきていた。その中に村長と思しき年輩の男がいて(コイツも例外なくマッチョだった)彼は両手を広げて俺たちを歓迎する意向を示した。


「ようこそ。ギルドから派遣されてきた冒険者のみなさんですね? お疲れ様です」

 村長の言葉で、俺たちはこの村が間違いなく目的地の村だとわかった。ひょっとして御者が道を間違えて別の村に来たんじゃないかと思ってたんだが、そうじゃなかったんだ。

「歓迎ありがとうございます。俺は冒険者のサムソン。こっちはカール、それから……」

 俺は自己紹介をして、そこで気が付いた。すぐ後ろにいると思っていたアリウスがいなかったんだ。

「アリウス? おかしいな、アリウスっていう魔法使いも一緒だったんですけど、どこで道草くってんだか」

 頭を掻きながら視線をさまよわせると、果たして、アリウスは村の入口に近い木の陰にいた。なんだか知らないが、身体を縮こまらせて、こっちをおっかなびっくり覗いてやがるんだよ。


 その態度に、カールは怒ってね。

「おい! アリウス、そげなところで何やってる?」

 アリウスは何も言わずに、ただ首を横に振ってるんだ。近づいてみてわかったが、アイツはガタガタと身体を震わせて怯えてたんだよ。アリウスの奴は、若くて背が低い、眼鏡で童顔の男だった。その当時はまだ十代だったな。たしか。

 それにしても、怯え方が普通じゃなかった。


 俺はアリウスの目の前で手をゆっくり振って、俺の顔を見るように促した。

「どうしたアリウス。俺がわかるよな? 何かあったのか?」

「ボク……イヤだ。この村の連中は、変だよ、おかしいよ!」

「確かに、まぁ、変だなぁ」

 俺は振り返る。夕闇の迫る村をたむろする人影は、どれもこれもムキムキでたくましい。

 カールが首をかしげながらいう。

「想像してたのたぁ違うけど、これって、あれじゃねえか? 依頼に書いてあった内容が、ちょっと盛ってるってだけなんじゃね?」


 依頼主が、同情を誘うような話を盛って冒険者を呼びよせるってことは、以前も俺たちは経験したことがある。


「可愛い盛りの子供がモンスターにさらわれたから助けてくれ」って依頼を受けて、地下五階のダンジョンを攻略する冒険の末に救出した「子供」が、どう見ても三十歳超えた肥満体の無職男だったってケースもある。

 まぁ、親から見れば、何歳でも「子供」だよなぁと納得するしかなかったな。あれは。


 酷い例には「モンスターに立ち向かって行方不明のお父さんを助けて」っていう五人兄弟の子供たちの依頼を受けて、これまた大陸を横断するほどの大冒険の果てに見つけ出した父親が、子供の遊び相手をすることに疲れ果てた、一家の大黒柱と言う名の奴隷だったというケースもある。

「俺は、モンスターに立ち向かったんじゃない! 家庭から逃げたかったんだ! たとえ死んでも、自由が欲しかったんだよぉおお!」という、男の絶叫は、今も耳に残っている。


 まぁ、その話は別の機会にな。

 えっと、貧村の話だったな。


「盛ってるだけならいいんだよ。多分、ボクらは罠にかけられたんだ!」

 アリウスが早口でまくし立てた。

「罠ぁ?」

「罠って、そげなもんにオラたち引っかけて、この村になんの得が」

「知らないよ。知らないけど、この村は異常だよ。いますぐに、ここから逃げよう! 急いで走れば、馬車に追いつけるよ。ねえ逃げようよ!」


 そこで会話に割り込んできたのが、村長だった。

「何か、お困りですか?」

 あくまで穏やかに微笑む村長は、どこか不気味だ。

 何かといわれても、さっきアリウスが言った話をするわけにもいかず、俺は適当に誤魔化すことにした。


「いやぁ、連れが長旅で疲れ切ってるだけです。一晩眠れば元気になりますよ」

「そうですか。今日はもう遅いですから、ゴブリン退治は明日から始めましょう。まず麦をありがとうございます。こちらで管理しますので、後はご心配なく。今晩は、空き家を冒険者様のために開放しておきましたので、そちらでお休みください」

「ありがとうございます。しばらく、お世話になります」

 俺が礼をいうと、カールも礼をした。しかしアリウスは首を振って、何か言おうとしている。

 ここでトラブルは御免こうむる。俺はアリウスの首をつかんで、強引に連れて行くことにした。村長の先導にしたがって、俺たちは、当分の寝床となる家へ向かった。


 今にして思えば、ここでアリウスの言うとおりにしておけば、あんな結末にはならなかったんだよな。俺は今も自分の判断が正しかったのかを考え続けている。


 問題の空き家は普通の民家だった。部屋は二つだけ。ベッドが3つある寝室と、台所しかない。トイレは外にあって、他の家と共同だ。貧村だったらこんなもんだ。

 村長は、明日の朝食後にゴブリン退治の相談をしたいので広場に来て欲しい、と告げて去っていった。

 ただ、彼が家のドアを閉める瞬間、はっきりとその目はアリウスの方を見ていた。俺もその目つきには、一瞬だが、ゾッとさせられた。


 村長の姿が視界から消えると、アリウスはへなへなと床に倒れ込んだ。

「サムソン、カール、聞いてくれ」弱々しい声で、アリウスは話を始めた。「ボクは見たんだよ。あの村人たちが何をやってるかを」

「なんだ? あのマッチョの身体に何か秘密があるのか?」

「ボクは君たちに遅れて村に入った。荷物をまとめるのに手間取ったからだ。それで急ぎ足で村の広場に向かったんだ。でも、一軒の家から、なんとも異様な臭いが漂ってきて……」

「臭い?」

「そうだよ。鼻が曲がりそうな嫌な臭いだった。それで、その家の入り口が開いてたから、ボクはそこを何気なく覗いてみたんだ。そしたら……」


 アリウスはそこで、言葉を切った。何か、思い出したくもない記憶と頭の中で戦っているような、嫌な沈黙が降りた。カールが耐えかねて、先をうながした。


「なんだぁ? もったいつけねぇで、早く教えれ」

「そしたら……そしたら、何か、村の住人が料理をしてる光景が目に入ったんだよ。何か大きな鍋で材料を煮込んでいた。でも、その鍋からは……小さな、人間の足みたいなものがはみ出してたんだよ! 怖いよ、ここはきっと、人食いの村なんだ!」


 そんな馬鹿な。

 俺と、カールがアリウスの言葉を否定しようと、口を開きかけた、そのとき。

 どこからか、絶叫が聞こえてきた。それは、狼の遠吠えなんかとはまったく違う、おぞましい声だった。まるで人が拷問の末に殺されたような、悲壮感と苦痛を感じさせる恐ろしい響き――。

 絶叫は長く尾を引いて反響し、静寂が戻るまでには、少し時間がかかった。


「……あれは、何だ?」

 俺の言葉に答えるものは、いなかった。


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