準備
王都にあるタウンハウスでは荷造りも忙しい。
なるべくドレスではなく簡易のワンピースを、しかも丈夫な生地の物を希望していた。その商品が、今日商会から届いた。どれもいい物だったので3着ほど選んだが、執事のルイは気に入らず、倍の6着も買うことになった。綿生地のワンピースはどれも丈夫で着やすそう。それに合わせて頑丈な靴も購入した。なかなかの金額になったが、私が買っていたドレスに比べれば、全然安いらしい。
起き上がれるようになって、最初に見せられたクローゼットの中身に絶望したのは覚えてる。フリフリしたドレス、もしくは胸の開いたり、背中が開いたドレス、原色カラーの遠くからでもわかるような色をイリーサは、好んでいた。
いわゆる派手好きである。
全く違う趣味にビックリしたが、売る事も出来ると聞いてルイに頼んだ。
この中のドレスが切られたり、破かれたりしているのだろうか?
そう、あのルイが私の執事になるという、ダニエル父の発表から翌日、
「ルイとお呼び下さい」
と言われ、今に至る。気持ちの整理がついたのかしら?尋ねてみると、
「は、返り咲いてみせますよ。いづれ、ジョセル様が家督を継ぎますから、領地に行ってジョセル様と仕事をすべきだと考えました。早いうちに親交を深めた方が、ジョセル様も私も、今後がやりやすいですから。その間だけ貴女様いえ、イリーサ様の執事をやらさせていただきます」
「はあ、相変わらずというか野望があるのね、ルイは。では領地で兄様の執事になるまでよろしくね」
とは言ったものの『腹黒執事』なことには変わりない。そこをダニエル父は、見越しての今回の移動だったのでは、なんて考える。当人のルイは、どこまで考えているのか。
「ひとつ聞いてもいい?私のドレスで破れているものってあった?アクセサリーが盗られたなんてことはあったの?」
と聞くと
「切られ傷や破かれ傷がドレスに数点あったので、喧嘩があったのは、間違いなさそうです。アクセサリーに関しては、リリアンにも確認しましたが、お嬢様が落としてきたと言った物が数点あるそうです」
「そう、お父様の言っていた事は、事実なんですね。イザベル様は、気の強い感じを受けましたが、アリス様は、そんな風に見えませんでした」
「そうですね。友達同士協力体制で臨んでいたのかもしれません。ただお嬢様は、一人で喧嘩を受けていたと思います。何せ仲の良い御令嬢はおりません」
悲しい事をサラッと言ったわね。イリーサあなた一人でよく耐えた。無事じゃなかったのが残念だけど。
「リリアン、あなた私と一緒に領地に来て大丈夫?王都が良ければ、タウンハウスで働けるよう、進言するわ」
「まだまだ、お嬢様の怪我は治っておりません。お嬢様の我儘に免疫があるのは、私をもって他にいませんから、私が行かねば。それに私は、ダルリル領出身です。奉公に出たあと、戻るつもりでいました。なんといってもお嬢様を放り出したら、どうなるか」
と目が怒っている。
昨日のこと。
「領地にも行くし簡素なワンピースにも似合うように髪の毛を切りたい、肩より上ぐらい」
と発言から、リリアンが解いていた櫛を落とした。目が飛び出すんじゃないかと思うぐらい大きく開けた。
「なんて事をおしゃるのですか?令嬢が髪を切るなんて、一生修道院に仕えると言っているものです」
とすごい剣幕で言われ、
「それでもいいかなぁなんてね」
『こっちの世界では髪は女の命なのね』
でもこのぐるりと巻いているます何本かの捩れ波動のようなこのぐるんが自前の上天然ものなんて信じられない。いくら伸ばしてもばねのように戻る。唯一お風呂上がりの濡れた髪の毛のみウェーブだ。このぐらいだったら可愛いのに。
と思っているとこれが
『悪役令嬢』
某国某革命されたマリーさんを思い出す。最後ギロチン。調子にだけは乗らないようにしなければ。
そして四日後、私は領地に旅立つ。
私はダニエル父に
「怪我をしてからここで働くみんなにとても良くしていただいた御礼がしたいです。私が出来ること、みんなに教わったことをピアノで伝えたいです。お父様、サロンを開放してもいいですか?」
とお願いすると、ダニエル父は、満面の笑みで
「もちろんだ。旅立ちの会をしよう」
と言った。
「嬉しい」
ぼそっと言った言葉は、本心だ。ここに来て既に二か月近く経つ。人の優しさ、親切さの上で私はここで笑える。
旅立ちの会楽しみだ。