親は最大の味方
あの二人の令嬢が来てから我が家は、慌しくなっていた。特にダニエル父だ。
「王に掛け合う」
なんて大袈裟なと思うが、ルイさんに
「何を暢気な、これは家同士の面子、戦いになったっておかしくない」
と言われた。
何度も言いますが、元を正せばイリーサじゃないの?という事をみんな忘れているのではなかろうか。
と今日も私は、ピアノの部屋に通う。
ピアノを弾いている時、音楽に溢れている世界にいるみたいで幸せだ。
風も雨音も世界に音がある事を思い出させる。
最近は、フライパンの音や水の音、洗濯の音などを再現している。これがなかなか難しい。
「絶対音感が欲しい」
というと、リリアンが
「絶対音感?」
と聞かれた。
「あらゆる音が音階に聞き分けられるの」
というと、リリアンは、不思議がっていた。
普通に暮らしてれば要らないか、と思っていると執事が、ノック後部屋に入って来た。
「旦那様がお呼びになっております」
ノックをする。初めて入る、ダニエル父の執務室だ。
黒を基調とした重厚感ある机と椅子とサイドの書棚に目がいく。
「お呼びですか?お父様」
というと、
「イリーサ、なんで今まで言わなかったんだい。離宮は!いや王宮の候補者達の集まりは、お茶会なんてものではないじゃないか!」
『えっそうだったの、いや確かに見舞いに来た令嬢もなんか悪役令嬢ぽいなって感じていたのよ』
「全く覚えてなくてすいません。お茶会じゃないって?」
「私が聞いたのは、ドレスが切られたり、アクセサリーが盗まれたり、時には髪を引っ張りあい叩きあい靴を投げあい。騎士や商会へ賄賂をし、相手に嘘の情報でお茶会に参加させなかったり、時間をずらしたり、茶葉が腐っていたなんていうのも聞いたよ」
ハァ〜、なんとなくわかる全部中心にイリーサがいる。ただ喧嘩は一人では出来ないから両成敗にしてくれるとありがたいな。
「すいません、全く覚えてません。でもやっぱり私ですよね?犯人は」
「イリーサ、君だってやられたからやったまでだ。あの馬鹿王子、全て知っていて面白がっていたそうだ。賭けをしたりと遊んでいたそうだ。露見した以上断固抗議で王子を謹慎させたよ」
「そんなことして大丈夫なんですか?」
「私とマリーの娘に怪我を負わせた奴らは、みんな吊るし上げてやる」
えっ、人がいいダニエルさんって聞いていたのに、何ともバイオレンスな発言。イリーサ、なるようにしてなった悪役令嬢なのでは、と少し思ったが
「お父様、やはり私も悪いので、ほどほどでお願いします。また仕返しされてしまいます」
はっとした顔をしたダニエル父。まさか私の怪我いや、階段落とされた事、仕返しだと思わなかったのか。やっぱり親子だな。思い込んだら一直線、暴走する馬のようね。
「大丈夫ですよ」
急にしょんぼりするダニエル父に声をかけた。
「こうしちゃいられない。仕返しがあるならすぐにでも領地に行かなければ」
「え、まだ二週間以上あります。まだピアノが弾きたい」
「安心して、イリーサ。あっちでピアノの先生を雇っているはずだよ」
「お父様、ありがとうございます」
自分だけでは限界だった。なんと嬉しいお知らせだろう。にやにやしていると、執事のルイさんがまた冷たい視線を私に送る。それを見て決めたかわからないがダニエル父は、
「領地に向かうのは、イリーサとリリアンとルイで、あと護衛を何人かつけるから」
と言った。その言葉にびっくりしたのは、ルイさんだ。
「待って下さい、旦那様。私は、まだ王都のタウンハウスで執事をやりたいです」
と懇願していた。しかしダニエル父は、首を横に振って言う。
「ルイ、君にはこれから私ではなく、イリーサの執事になってくれ」
聞いたルイさんは、口を大きく開け、少し動きが止まり、その後口をパクパクさせ、次に顔が青褪めた。ルイさん面白い。百面相ってこういうことね。
「では私は、失礼します」
と言って席を立ち、踏み台棒を両脇に挟んで、廊下を歩く。ダニエル父が
「踏み台棒、医療の現場や軍兵の医師などからも好評で近々製品として商会から売り出す。イリーサのおかげだよ」
と笑って言う。だから私も笑って
「お役に立てて嬉しいです」
と言ってその場を後にした。
「なんでこんなことになった」
と一人いじけるルイを除いて我が家はにこやかだった。