みんな悪役令嬢なり
ピアノの時間を割いて、二人の令嬢に会わなければならない。
私にとって覚えてない令嬢達。
凄く無意味な時間だと思っている。
『手紙じゃ駄目だったのかしら、顔見て謝って欲しいのかしら?』
またこんな事口に出すと、本物のイリーサだと言われるな。私普通にしていて意地悪令嬢なんだと自覚してしまった。
「人と関わりたくないわ。」
ボソっと漏らした一言に執事は、噛み付いた。
「侯爵令嬢にあるまじき一言。反省してください」
また、怒られた。
『私のピアノ時間を奪った罪は重いのよ』、なんて発言したらどうなることか。心の中で悪役令嬢なんて簡単に出来るものねと一人にやついた。
怪しがる執事をリリアンは、咳払いをした。
「どうしたの?リリアン」
と私が聞くと
「ルイさん、お客様をお迎えに行ってください」
「えっ」
と執事は、一瞬怯んだ後、部屋から出て行った。
「リリアン強い」
というと
「最近あの方は、お嬢様を、軽くみてます」
と怒っていた。
ふふっ、ちょっと嬉しい。
しばらくすると、メイドのケリーが、
「お客様がお見えになりました」
と伝えに来た。
客室の方が誠意が伝わるのではという案を採用したが、私の部屋からは、離れている為、踏み台棒を使ってせっせと歩く。
ふぅ〜、一息ついてから、ドアをノックした。
簡単な礼儀作法は、ルイさんとリリアンから習っていたので、初実践だ。
「本日は、お越しくださりありがとうございます」
というと
「ひぇ〜」
という声が漏れた。すぐに顔を向けると、一人の令嬢が、お化けを見るような顔で青褪めていた。
「記憶がないと窺いましたが、それは本当ですか?」
気の強そうな令嬢が話す。
「はい、皆さまには大変失礼をしていたと聞いております。本当に申し訳ございませんでした」
と頭を下げた。
しかし、気の強そうな令嬢は、納得できないらしく
「あなたは、よく嘘をつくし、これも全部あなたの作戦じゃなくって」
と言われた。一応申し訳なさげな表情を作って、
「本当に覚えてないのです。貴方様のお名前もわかりません」
というと、
「まぁ、身傷を負ってなんとも粛々とした態度に変わりましたこと」
といい、もう一人の顔が青褪めている令嬢は、
「本当に覚えてないのですか?」
と聞かれ、
「はい、本当です。神に誓って」
というと、
「まぁまぁ、なんて事を、おっしゃるの。相変わらず常識がない令嬢だこと、簡単に神の名を借りるなんて悍ましいわ」
『この人は、さっきから何かしら、言われたから言ったまでよなんて嫌味な令嬢まるで』
「まるで悪役令嬢みたい」
場が固まった。私は、心の中で言ったつもりが声に出ていた。リリアンは慌てて咳払いをし、執事のルイも腕を組んだ手の指が慌しく動いている。
そして当事者さんは、真っ赤な顔して、
「何、何が悪役令嬢ですって。どの口が言ってるのよ。散々、嫌がらせしたり、物を隠したり、悪口言ってたのはあなたでしょう。あんたなんて階段から突き落とされて当然なのよ、ハァハァ」
また場が静まり返った。
今度は、真っ赤な顔した令嬢が慌てて口を押さえる。
「階段から落とされた?」
どう考えても最後のそこに引っかかるよね。執事のルイさんもリリアンもみんな口を押さえている。
だからもう一度聞いた。
「階段から突き落とされたとは?」
「用事を思い出しましたの。オホホホ。では、失礼します。アリス様行きましょう。オホホホ」
「お待ち下さいイザベル様」
と二人して顔を青褪めながら帰って行く。
『まぁ、イリーサ悪い子だって聞いてたし、執事から殺されてもなんちゃらって言われてたから、その可能性はあったな』
「大丈夫ですか?お嬢様」
とリリアンが心配そうな顔で近づく。
「まぁ、階段から落ちるなんてね。突き落とされたと聞く方が自然よ」
というと、執事は、
「何を平然と、命を狙われたと言われたんですよ。家同士の大問題ですよ」
と怒っている。
「何をそんなルイさんが最初に言ったんですよ。私は、殺されてもおかしくないって何を今更」
というと真っ赤な顔して執事は怒って、
「旦那様に報告してきます。失礼します」
と出て行ってしまった。横を見ると、こちらも真っ赤な顔で怒っている。
「なんですか、あの態度にあの言い草。令嬢の風上にも置けません。何故お嬢様が謝らなければならないのです。あっちが謝るべきでしょう」
「てもリリアン、最初にきっかけ作ったのは、私だし。謝った方がいいって言っていたじゃない?」
「お嬢様、状況は、刻々と変わるものです。これは、家同士の、いえ、メイド同士も戦わないといけないかもしれません。家屋にいるメイド達と話し合ってきます。失礼します」
あーもう二人とも行ってしまった。
もう誰が悪役令嬢なのかわからなくなったし、きっと令嬢ってみんな悪い子なのね。