音楽の楽しみ方
私の毎日は、踏み台棒と共にイリーサの部屋とピアノの部屋の行ききだけだったが、今日は、調理場を覗いた。調理場は、音に溢れていた。
フライパンから聞こえる、じゃがいもの皮むき、食器を洗う音、叱る声笑う声。どれも一つの部屋のなかで起きる様々な音。
私の身体が震える。生きた音が生み出される事に歓喜する。
「なんて事なの、私は、知らなかっただけで、生きた音は、どこにでもあったのね」
この音に影響され、今までの歌の曲に付け加えたくなった。
楽しい、音楽は本当に楽しい、世界が広がっていくわ。自由な世界は私だけが作り喜び、遊び場。
弾いていると窓の向こうで薔薇の手入れをしていたアレクが、手を叩いて喜んでいる。
初のお客様。
ブルっと身体が震える。私は、この感覚を知っている。知っていた。
この瞬間私は、決めた。
『私は、わたしの音楽を作る』
イリーサとして生きる。階段落ちはしない。もちろん意地悪もしない。この世界でも生きていける。音楽がある。
「ありがとう、アレク」
と言い、せっかくだからアレクに教えてもらった曲を私の感じたままに弾いた。
楽しい曲をアレクは教えてくれたので右手に主旋律左手は、ジャンプするように跳ねるように意識して楽しくを基本に弾いた。この曲は、スローバージョンもいけるなと次の事も同時に浮かぶ。
アレクが手入れをしていた薔薇をくれた。楽しい時間は、あっという間にに過ぎる。執事さんが立っていた。
「イリーサお嬢様に先触れが届いています。コロイド侯爵家のイザベル様とリスト伯爵家のアリサ様からお見舞いに来たいとご連絡いただきました。どうされますか、お嬢様?」
「はぁ、ルイさんもう決めているのでしょう。そのお二人の事は、覚えていませんが、以前に意地悪をした相手ですか?謝ればいいですか?」
執事のルイさんは、呆気になり少し目線が泳ぐ。ついこの前まで黙って聞いていた私に言い返されるとは、思わなかったのか?あなたが私が散々悪い子だと言ったのだから、『謝る』と言うに決まっているのに。
「いつお見えになるのですか?」
「本日のお茶の時間に予定しております」
「わかりました」
ピアノを弾いていたかった。とピアノを見つめていると、
「やっぱり本物か」
と呟く執事。何?と怪しむ顔をすると、慌てて礼をして出て行く。
今のうちに弾いておこうとピアノを弾き始めると、先程言ったルイさんの「やっぱり本物か」に引っかかる。もちろん疑っていたのは、知ってる。でも中身違うって言ってたのに、中身同じって。
「それって、私、知らない間に意地悪しているってことですか?」
鍵盤に指がひっかかった。音が止まる。
「リリアン」
と呼んだ。控えていたリリアンが、
「どうしました、お嬢様?」
と甲斐甲斐しく聞くから、おずおずと
「リリアン、私知らなかったけど最近また意地悪している?」
と聞くと、リリアンは笑った。
「してませんよ。最近は、みんなに挨拶をされ楽しいですし、ただ歌やピアノに夢中になり過ぎがお嬢様らしいと思います」
「それってどういう事?」
「好きになったら、それしか見えないですかね」
そっか、少しイリーサの気持ちを理解した。私な音楽を好きな気持ちは、イリーサにとってあの冷たい王子に向けていた好きと一緒なのか。
私も音楽があればという気持ちを人に向けたイリーサ。
ハァ〜
「どうしましたお嬢様?」
「ますます会いたくなくなってしまった」
と本当のことを言った。
リリアンは少し笑って
「しょうがない、お嬢様だこと。素直に謝ってしまえばいいのです。好きが過ぎてしまって邪魔をしたと。妨害は悪いことですが、気持ちを正直にです」
「でも好きだった記憶もないのよ、もちろん意地悪した覚えもない。謝って許してくれるのかしら。優しい人だといいな、何かの時は咳払いとかでフォローしてねリリアン」
というと、少しだけ、への字眉にしながら頷いてくれた。