ネリ義姉様の報告
「おかえり、イリーサ」
「まさかお兄様が迎えに来てくださるとは、嬉しいです、何をそんな変な顔なさっているの?」
怪訝な顔をしたジョッセル兄様を不思議に思っていたが、手厚い送迎をしてくれたアクアティル王国の騎士や兵士の皆さんに別れを告げなければならない。
「皆さんのおかげで、この旅路が安心安全で過ごせたこと感謝しています。本当にありがとうございました」
と挨拶をして別れるのかと思いきや、後ろの馬車の荷物があるために兵士2名と御者がダルリル領までついてくると聞かされ、少し恥ずかしい。
「引き続きよろしくお願いします」
王族専用馬車と比べてはいけない頭ではわかっているが身体は、正直なものですぐにお尻と腰にきた。
「何故あんな立派な馬車で帰ってきた。父様は、これを知ってたから俺を迎えに来させたのか?」
とぶつぶつ言う兄に、
「お父様は、ご存知だと思います。ルイから報告があったでしょうし、色々ご迷惑をかけるしだいになりまして」
と言うと、聞きたくない、もう面倒は嫌だ、と頭を抱えている。何があったのかしらと様子を見てもわからなかったが、ダルリル領の領主館で兄が頭を抱えていた意味を知った。
ダルリル領は、左を見ても右をみても緑眩しい畑、畑の中にポツンと一軒家が続いている。遠い奥を見れば山が連なっている。そこから何本も小さな河川が枝分かれして豊かな土地だ。
領主館に着くとまず出迎えてくれる赤い薔薇のアーチに両脇にピンクの小ぶりの薔薇。
私覚えている。
ゾクっと震えた。
「お兄様、私この薔薇覚えています」
「お母様が大事にしていた薔薇だからね、これきっかけに思い出すかな」
と兄様は嬉しそうに笑った。きっと母様を思い出したのではないだろうか。
私も白い羽織をかけた金髪の女性を思い浮かべた。
ズキっとした痛み。
片手で頭を押さえた。すぐに感じなくなったのでそのままにしたが、ふとイリーサの記憶が私にあるのかも?とよぎる。
扉を開けるとあの可愛いらしかったネリ義姉様が、全く違う人物になっていて、考えている事がぶっ飛んだ。小さくお人形のような見た目の義姉様がいない。明るい茶色の髪がボサボサで麦の穂になって、どこからだしたかわからない眼鏡をかけていた。
「イリーサちゃん、待っていたわ。すぐに来て、荷物は、ジョセに渡して、一緒に来て」
とネリ義姉様が捲し立てる。お兄様と義姉様を交互に見たが、お兄様が驚いてない。これが日常?
「ネリ義姉様、お待ち下さい。お爺様お婆様に挨拶をしなければいけません」
「大丈夫、お爺様お婆様、捜索の旅に出てます」
「捜索の旅?」
と言ったが答えてくれるつもりはないらしい。
連れて行かれた場所は、家の書物部屋らしい、本が乱雑に開かれ、床に落ち、よくわからない絵らしきものまで描いてある。
「ネリ義姉様これは一体どうされたのですか?」
「ごめん、調べてたら夢中になってて、それよりイリーサちゃんもう一度、水龍の鱗を見せてくれる?」
「えぇ」
と言って、ワンピースの中にかけているネックレスを表に出した。
「七色に光っているわね。やっぱり人の手で作られたものとは思えないわ。ここを見て、ある物語の話、虹の向こうに妖精の国があって、天候を操り好き放題やっていた妖精達に水龍が妖精の国に雷を落とした、その仕返しに荊で出来た檻に閉じ込められてしまった。水がない水龍は、苦しいともがくと亀が甲羅に水を乗せて水龍の所まで運んだ。列をなして水を運び、土も豊かに荊には花が咲いた。ある時土から顔を出した土竜が、柔らかくなった土を掘り荊に穴を開けて水龍を逃がした。しかし荊で傷を負った水龍は、泉に潜ってしまった。その後、土竜は、土を掘り土壌を豊かにした。これがカルビニア王国。亀が運んだ水によって荊から花が咲いた。これがフラニカ共和国。そして怪我が治った水龍が水を引き通った跡が、アクアティル王国。この文献には、要約するとこんな風に書いてあったの。何かアクアティル王国で聞いたことない?」
「そうですね、レオルド王子がアクアティル王国の成り立ちは、水龍が通った跡が国になったと聞きました。土竜が関係している、これはカルビニア王国の成り立ちだとも。龍の鱗のネックレスは、水と風を操って国を守ったとされる事、花のネックレス、花をきれいに咲かせる為に天気を操り晴れや雨を降らすと言ってました」
と言うと義姉様は、ぶつぶつ言っている。
「花のネックレス?」
と聞いてきたから、
「ネリ義姉様、アクアティル王国では龍の鱗のネックレスと花のネックレスの存在がわかりました。花の姫についてはわかりましたか、ドワーフとか。あとカルビニア王国の伝え歌、最後にダルリル領に亀池はありましたか?」
と言うと義姉様は、首を振った。
「亀池は、イリーサちゃんが言う通りダルリル領にある気が私もする。今、お爺様お婆様が探しているわ。私は文献からだけど、知り合いに頼んでも資料が少ない。王宮の図書室なら、もしくは禁書なら土竜と花のネックレスがわかるかもしれない。見たいし、知りたい、調べたい」
と言いながら、手を前に私に迫ってくる義姉様。
「義姉様、どうしたの?」
「ネリの禁断症状がでた」
とジョッセルが義姉様を押さえた。
「義姉様?」
「ここじゃ中々文献や資料が手に入れられないからね。ネリの本に対する欲求が出る、イリーサ、話は夕食の時にしよう」
案内された部屋に入るとポッシェットからラックが出てきた。
ラックを見て
「あなた、亀池知っているのではないの?案内してくれたらいいな」
と言って見たが、うんともすんとも言わない。桶に入れると気持ち良さげに水を浴びているように見える。
先ほどの義姉様の話を思い出す。妖精に水龍は閉じ込められて亀が水を運び土竜が穴を掘って荊に花が咲いた。今まで出て来なかった妖精が出た。確か花の姫は虹の七色の光を浴びて羽根がはえ、自由に飛び立ったと歌われている。花の姫は妖精?最近の流れでフラニカ共和国が悪みたいに考えていたけど、妖精の国が出てきた。
ルイを呼ぶ。
「アクアティル王国に手紙を届けたいの。手配して」
きっとこれは共有すべき事だと思った。




