楽団
「いけない、練習しなきゃ」
と席を立ち、私が練習していい音楽サロンに案内された。王宮は、広いので一度では覚えられそうにない。そして護衛として騎士が一名常駐された。
「練習は、あまり出来なさそうだけど、よく楽団の方が演奏される曲を」
とピアノの音を確認しながら弾いていく。
扉が開くと空気が流れていく。留まっていた音が流れていった。鍵盤から顔を上げ扉を見ると楽団員と思える方々が立っていたので、演奏をやめ挨拶をする為近づく。
「初めまして、イリーサ・ダルリルと申します。この度は、このような機会を頂けて大変嬉しく思っております。是非たくさん勉強させて下さい」
と心を込めて伝えた。すると楽団員の一人が笑った。
「誰だよ。超我儘なお嬢様が王妃様に頼んで無理矢理予定ぶち込んだって言った奴。我儘ぽくないじゃん」
そんな風に伝わっていたのか。悪役令嬢風だ。
「日程決めたのイリーサ嬢?」
「いえ、私も突然このような演奏会をするから一緒にやらないかという誘いを受けました」
「へぇ〜じゃ、こっちの噂の方が正解かな。レオルド王子様の婚約者を決めるって方」
「えっ」
「聞いてない?」
「はい」
「じゃ、こっちも違うのか?」
楽団員の方々が皆考えていたがリーダーぽい人が自己紹介をしてくれ話しは進んでいく。カナンさんとキッシュリーさんがヴァイオリンで、スメリさんがヴァイオリンとピアノとベルなど器用になんでもこなすそうで羨ましい。あと二人いるらしいが突然だった為本日は、お休み。基本五人編成でヴァイオリンを中心に活動していてワルツを弾いている。スメリさんに、
「イリーサ嬢は、今までサロンで弾いてきたの?」
と聞かれ、
「私は、食堂など酒場で、自宅のサロンでですが、使用人達の前でよく演奏していたので」
と答えると
「えっ?酒場、令嬢なのに」
「本当か?」
と半ば信じてない様子で驚く。
「アクアティル王国では、コルトの町のクルトン亭で弾いてました」
驚いている楽団員のうち一人、カナンさんがヴァイオリンを手にして、音を鳴らす。酒場歌の一節を弾く。
ピアノを前にし、深呼吸してから一音あてる、さぁ、始まりだ。
「おいおい、綺麗な演奏というよりこれは、貴族より民に近いな、貴族令嬢かよ」
「盛り上がる弾きかたをする。ハハ、煽るのが上手いな」
と楽団員は言っていたが、気づくとみんなで合わせてた。さすが音楽好きと言ったところか、きちんと私に合わせてくれる。
音楽は、楽しい。見ていて、参加したくなるのが嬉しい。気づくと何曲も演奏していた。
カナンさんが
「演奏会というよりカーニバルみたいだな」
「カーニバル?」
と聞き返す。
「収穫祭とか、大きな町で行われる催しだな」
「いいですね、素敵」
というと、楽団員達は、若干飽きれて
「演奏している奴らは、宮廷楽団を夢見ているよ」
やはりお金になる、もしくは、職業とされるには、数が少なく大変なんだとわかった。私のは、もちろん趣味の範囲で遊びなのだ。現実的な反応に少し落ち込む。
「ご迷惑おかけします」
というと、皆さんが
「気にしちゃたか、違うよそうじゃなくて、俺達も楽しかったってこと。祭りって楽しいだろう?」
と言った。ワクワクするような楽しい音色に心は、踊る。
苦手なワルツも音と音が合わされば気持ち良く流れる曲になる。一人じゃない曲に音の重なりが厚みを増して耳に私の胸に流れて響かせる。
ピアノを弾いているのに踊ってしまいそうになるヴァイオリンに先導され、これが、宮廷楽団なのだと知ることが出来た。
本当に、ピアノを弾いていると時間は、あっという間に過ぎてしまう。日も暮れかけ解散となった。
この満足感というべきか、充実感と言っていいのか、幸せを感じながら騎士様に案内され、客室に向かう途中、中庭に青から紫そして赤みがかかる花を見つけた。
「あれは、なんと言う花なんでしょう?」
というと、後ろから
「紫陽花」
と答える声がした。振り返るとルーフが手を振っていた。
「異国の花ですよ。巫女様」
という。少し驚いて、
「えっ」
と声を出したが、ルーフは気にせず、
「また後で話をしましょう」
と言われた。
せっかく音楽で満たされていたのに、またそっち側の話かと私は、肩を落とす。
「演奏会の話ならいいけどな」
と言うと、ルイに
「そんな訳ないでしょう」
とビシッと否定される。
また後で、この言葉が憂鬱に感じたのは、これが初めてだったかもしれない。




