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イリーサじゃない私

あの日から、5日ほど経ちました。

まだ話せません。

理由は、階段から落ちた衝撃で口の中を切りましたから。

それだけではなく、私のお世話をしてくれるメイドさんが、私の動きにずっとびくびくして怖がっているからだ。怖がらせないよう黙っている。私自身、心細い。


客席ダイブしたと思ったら、私、イリーサになって離宮の階段から落ちたと理解しました。こんにちは、異世界。

嫌だ嫌だと言っても少しずつ慣れてくるのは、人は適応能力が高い動物だと理解する。

さすがに私のメイドさん、リリアンさんも、私がおかしいと気づきました。

怪しがる顔つきで

「お嬢様じゃない?」

とまさに直球の質問に、まだ話せない私は、頷く。

ここから、イケ外人父が来て、同じ質問をされる。

「君は、イリーサじゃないの?」

記憶もないし、実はもうどうでもいいと言う気持ちが強くて、大きく頷く。


『もう一度階段から落ちれば元にいた世界に戻れる?』少しだけ希望を持っている。


さすがイケ外人、オーバーリアクション。目を大きく見開き手の平で口を押さえている。自分自身、名前も何処に住んでいたかもわからないから聞かれても首を振る事しか出来なかった。

凄く悲しい顔をしたイケ外人、名前をダニエルさんと自己紹介してくれた。泣いてしまったダニエルさんは、妻と子、つまり私?を亡くした事に悲しんでいた。後からアリーナ医師に診察されたが、同じように頷いた。そしてその後二日ほどダニエルさんは部屋を訪れることは、なかった。


そしてその二日間、メイドのリリアンから幼い頃のイリーサの話を教えてもらった。なんとリリアンは、小さい頃からこちらの屋敷に奉公しているらしく、歳もまだ22才という若さ。しかし私(前のイリーサ)のわがままに悩まされいた。

「私の対応がお嬢様を苛つかせていたのです。悪いのは私です」

なんて言う。

こんないい人を虐めるなんてイリーサは、悪い子だわ。私に出来ることを少しでもしてあげなくてはいけない。怖がらせないように心に決めた。

近々こちらを辞めるはずだったが、私のこの怪我に同情してくれたらしく、治るまで世話をしてくれると約束してくれた。


その間に何かイリーサに代わって御礼をしなければ、ロックじゃないわ。ロックを聴きたい。音楽ならもう、なんでもいい。

一週間も音楽から離れるなんて、信じらんない。

出ない声と怪我して無い方の手を布団を叩いてリズムをとる。一曲全てではなく部分的な曲、フレーズ、忘れたくない。何度も何度も頭で繰り返す。


あ〜もっと音が欲しい。

魂を揺さぶる音が欲しい。

命を感じる音が演奏したい。


びっくりするのは、名前も住まいもわからないのに最後の演奏をまだ覚えているのだ。客席を煽ったことも覚えている、でもなんて言ったのだろう。客席ダイブの感触もこっちにいたころは、覚えていたのに、今は、記憶だけ、あの光景を忘れたくないのに忘れていく私に、なんで私がこんな目にあうのと、泣きたくなるが、ぐっと堪える。泣いてしまったら、何か負けたみたいで、泣きたくなる時は、天井の一点を見つめて睨む。今の私を支えているのは、私達の演奏した曲のワンフレーズ。これだけが私だと証明している気がして手放せない。

一人になるとよくこの光景になるが、今日は、執事さんがいる目の前で睨みつけていた。

執事さんが、

「今日の午後、王子がお見舞いにくると先触れがありました」

と言い、簡単に説明された。

イリーサは、王子の五人いる婚約者候補の一人だというもので、今日、王子が見舞いにくるという事。よくある話でイリーサは、王子に夢中、でも王子は、イリーサを嫌いという話。そして候補から外れると伝えられるはずだと言う。

これって俗に言う

『悪役令嬢』

ってやつのパターンだよね。

ふ〜、会いたくないよ。

私、王子知らないし、色々悪い事を始めたのは、婚約者候補?になった頃からだと言われた。しかもイリーサの猛烈アプローチで父に頼みこんで決まったらしい。普通侯爵家はそんな事しなくても相手側からお願いされるものなんです、と言われた。それは、イリーサは、問題児だからと言いたいのだろう。相変わらず、イリーサの事が嫌いって言葉からよく出ている。


私はイリーサではないので私に言ったって仕方ないのにと思いつつ、この執事も大概ヤバい人だと思った。どれだけ迷惑をかけられたか王子がくるまでずっと話す気なのだろうか?

イリーサがみんなに迷惑をかけたことは、謝れば済むことなら全て受け入れようと執事の小言で嫌気がさした。

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