家族になるには愛が多すぎる
「まさかこんなことになるなんてなぁ。」
深くため息をついて、ユニは洗濯ものを片付けていた。
それを見ていた親戚の子が手伝いに来てくれたので、お礼を言って頭を撫でた。
「ねぇ!そろそろ家族になるお家は決まったの?」
子供の無邪気な質問に、苦笑いを返す。
「まだ、難しいかな~。」
ユニは現在、両親がいない孤児である。
詳細は省くが、いろいろあって母方の祖父の元へとお世話になることになった。
しかし問題はそこからである。
娘を溺愛していた祖父からは随分と気にいられているのだが、あまりに年をとりすぎていた。
老い先短い老人の世話を焼くのは大変だろうという話から、他の親戚の元で過ごした方がいいのではないかという意見が持ち上がった。
話は揉めに揉めて、最終的には週間ごとに各家にお世話になってみることに決まってしまい現在にいたる。
既に全てのお家にはお世話になったし、そろそろ決めなければならない時期だろうしで。
本日は家族が集まる日でもあったがゆえに、気まずい心境だ。
「うちには来てくれないの?」
「お兄ちゃんには反対されてるからなぁ。」
「えー。お兄ちゃんってば、ユニのことなんで避けるんだろ。」
幼馴染みだからかもしれない、なんてユニは心の中で呟いていた。
彼らの母親とは仲良くなれたのだが、今の彼とはどうも微妙な仲だ。
いっそ二人が結婚しちゃえば?なんてちゃかされたこともあるが、養子になったらそんな話もなくなるだろう。
「おばさんのところはどうだったの?」
「うーん、うまくやっていけてるかが問題かなぁ。」
おばさんは出稼ぎに出ていることが多く、無口な息子さんと二人きりの日々はわりとキツかったものである。
恥ずかしがり屋らしいので、おそらくは顔を会わせにくいのだろうと推察できた。
最近ようやく一緒に料理もするようにはなったのだが、まだ距離感があるように思えた。
「それじゃあ、ユニはおじいちゃんのところに行くの?」
「あはは、おじいちゃんからは切望されてるけどねー。」
だが祖父のところには、既に養子が一人いるのだ。
溺愛していた母親が出て行ってしまってから運命の出会いをした子供なんだとか。
養子同士、二人で仲良くやれるかもねーとは言われているのだが。
女性もいないし、親子になれた二人の邪魔をするのもどうかという気持ちで複雑だった。
本来なら選ぼうと思って選べるものでもない、贅沢な悩みだ。
エニは再びため息をつきながら片付けを終えると、気分転換に外へ出た。
「やっと見つけたぞ、ユニ!」
「え、おじさん!?」
声をかけられたので振り向いてみれば、そこには見知った顔の男が車の窓から顔を出していた。
たしか、たまにお土産を渡しに来てくれていたおじさんである。
「久しぶり。」
「懐かしんでる場合じゃない、とりあえず乗れ。」
「なんで!?」
「いいから早く!」
やけに急かされてしまって、仕方なく開けられたドアから車に入る。
ユニがシートベルトをしたことを確認すると、おじさんはすぐに車を動かし始めた。
「まったく、母方のじいさんとこに連れ出されてるなんて。俺に相談してくれればよかったのに。」
「なんでおじさんに相談するの?たしかに時々飴とか貰ってたけど、そこまで親切にしてくれなくても。」
「お前もしかして知らなかったのか?俺はお前んとこの親父の兄貴なんだが。」
「え、ええええええ!?」
知りませんでしたけど?と絶叫するエニの声を聞いて、本当に知らなかったんだなと男は思い知らされていた。
ドライブしながら男が改めて自己紹介をしたり、ユニのこれまでの経緯を聞いているうちに目的地についていた。
「ここが俺の家だ。とりあえずここに座っててくれ。」
ユニはおじさんの家の椅子に座らせられる。
少し気が落ち着いたところで、祖父や他の皆に何も言わずに来てしまったけれど大丈夫だろうかという不安がよぎった。
これはもうひと悶着あるかもしれないと考えていたところで、扉が開く。
「え。」
「あ。」
知らない男性が、こちらを見ていた。
固まっていた二人の元に、おじさんが戻ってくる。
「なにこいつ不審者!?」
「バカ言え!お客様だよお客様っ、親戚の子だよ!」
「だからって勝手に女連れ込んでんじゃねぇよ!驚いたじゃねぇか!」
「事情があるんだよ事情がぁ!」
この後、養子にするだの泊めるだのという急すぎる話にまで展開していくことになる。
もうひと悶着どころではないな、とユニは乾いた笑いをこぼしていた。
※一応R15にしていますが、誰と家族になって誰と恋がしたいか…な話なので家族枠と恋人枠は別という前提ではあります。