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ドクトルさんの最強白魔法  作者: 秋山 楓
本編

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26/42

25.ウェルリア東区の決戦

 長い時間、ドクトルはギルティ・ローズの猛攻に耐えていた。


 残っていた『経路』はすべて手放し、身体が壊れない限界ギリギリの『強化』を自らに施して、無数に伸びる根っ子の攻撃を避け続ける。


 串刺しになるのだけは何としてでも避け、鞭のようにしなる根っ子は『強化』がかかった片腕で弾き飛ばす。反射神経に任せた回避は幾ばくか肉を抉り、重い打撃を防ぐごとに腕の骨が折れた。


 無限の『宝氣』により体力と治療のための魔力が底をつくことはない。だが精神力は別だ。いつまで続くのか、またいつ殺されるかも分からない状況下での戦闘は、ドクトルの集中力を徐々に削っていった。


 ただ今のドクトルに避ける以外の選択肢が無いのも事実。


 反撃をしようにもギルティ・ローズまでの道のりは遠く、ドクトルの方には遠隔攻撃のような手段はない。さらに逃げようにも、退路は城壁と根っ子で塞がれてしまっていた。


 となれば、最後の希望である『宝氣』切れを期待するしかない。いくら魔人といえど、これほどすさまじい魔法を使い続けていれば、いずれは『宝氣』が枯渇するはずなのだが……ドクトルの脳裏に、最悪の想像が浮かぶ。


 もしかしたら相手も悪魔との契約者なのではないか?


 いや、もう断定してしまってもいい。間違いなくそうだ。この圧倒的な暴力は、魔人個人以外の力が介入しているとしか考えられない。


 だとすると、悪魔から得た恩恵は何か。

 もし自分と同じ無限の『宝氣』だとすれば……『宝氣』切れを起こすことはなく、持久戦になればなるほどこちらが不利になってしまう。まさに絶体絶命だった。


 苦虫を噛み潰したように、ドクトルの鼻の頭に皴が寄る。


 このまま『宝氣』切れに賭けて攻撃を避け続けるか、それとも一か八か術者である魔人に突撃するか、もしくは何とかして逃げ道を作るか。


 どこに活路があるのか、徐々にすり減らされていく思考能力をフル回転させたまま、大きな根っ子の殴打を回避したのだが……着地した瞬間、何かを踏んだ。足元を見れば、遠くの地割れから延々と伸びている細長い根っ子が横たわっていた。


「しまっ……」


 声を上げるも、もう遅い。細い根っ子は蛇のようにドクトルの足首へと絡みついてくる。


 見誤った。明確な殺意を持って攻撃してくる根っ子だけに集中していたため、遠方から徐々に這わせてきた罠に気づかなかったのだ。それだけ彼女の余裕が無いことの証明でもある。


 足に絡みつく根っ子を睨み下ろすのと同時――、

 ギルティ・ローズの腕から伸びた根っ子が、ドクトルの元へと一直線に奔る。


「――ッ!?」


 回避は不可能。防御も不完全。ならば致命傷だけは絶対に避けるべく、身をよじるためドクトルが身構えた……その時。


「おおおおおおおおおおおおお!!!!」


 闇夜を劈く雄叫びとともに、全身に炎を纏った男が空から降ってきた。


 バスケットボール大の金色に輝く『宝氣石』を脇に抱え、迫り来る根っ子とドクトルの間に割って入るように着地する。


 串刺しを厭わぬ構え。だが男が根っ子に貫かれることはなかった。

 全身から燃え上がる炎に触れ、根っ子が一瞬にして灰と化したのだ。


 炎が燃え伝うことを嫌ったのか、ギルティ・ローズは無言のまま根っ子を手放す。突然現れた闖入者を警戒しているように、一時的に攻撃が止んだ。


 まるでドクトルを庇うように仁王立ちをする炎の男。

 その背中を、彼女は見覚えがあった。


「ケ、ケントさん!?」


 いるはずのない人物を前に、状況も忘れて素っ頓狂な声を上げてしまう。

 肩越しに振り返った男の顔は、間違いなく健人だ。が、再会を喜んでいる場合ではない。


「逃げろ!」

「!?」


 言われ、ドクトルは即座に理解した。

 逃げるなら、ギルティ・ローズの攻撃が止まっている今しかない!


 足に絡みついている根っ子を素早く解いたドクトルは、後方へと急ぐ。城門を塞いでいる根っ子に触れると、その部分が腐り始めた。人一人が通り抜けられる程度の隙間が、瞬く間に出来上がる。


「こちらです! ケントさんも早く!」

「ダメだ! ドクトルさん一人で逃げろ!」


 想定外の返答に耳を疑ったドクトルは、慌てて振り返る。


 そこで気づいた。健人の抱えている『宝氣石』に罅が入り、燃え盛る炎が一気に勢いを失っているよう。


 まさか……健人は自分の身代わりになるために駆けつけてきたのでは?

 ドクトルの脳裏に最悪な予感が過った、その時――、

 地面から出現した複数の根っ子が、健人の身体を貫いた。


「えっ……」


 残念なことに、健人を護る炎は完全に鎮火していた。その隙を、ギルティ・ローズが見逃すはずはない。


「そんな……」


 目の前で起こった惨劇を現実として認識するよりも早く、ドクトルは無意識のうちに健人の元へと駆け寄っていた。


 刺さっている根っ子を枯れさせ、健人を串刺しから解放する。


 体中に開いた穴から大量の血が流れ、虚ろな瞳からは徐々に光が失われていく。とはいえ、まだ意識はあるようだ。


 屈んだドクトルは、急いで健人の身体を抱き起す。

 だがしかし、彼女を見上げる健人の目には絶望の色が宿っているようだった。


「な……んで……」

「喋らないでください、すぐに治しますから!」

「俺の、ことは……気にせず、逃げて。この命を、返しに……来ただけだから」


 薄れゆく意識の中で、健人はカーシャの言葉を思い出す。


『命を助けられたら、一生をかけても恩を返し続けるのが礼儀』


 自分は幾度となくドクトルに命を救われた。ならば、彼女が命の危機に瀕している時くらい身代わりになるべきだ。

 なのに――。


「お願い……逃げて……」

「ケントさんは……私が必ず助けます!」


 白魔法を施すドクトル。が、もちろん魔人が敵の治療を見過ごすわけもなく。

 忍び寄ってきた小さな根っ子が、ドクトルの目の前で健人の頭を貫いた――。

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