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プロローグ:グインドール、魔王やめるってよ

(まずい……マズイ、マズいぞッ!!)


 悪魔城の広々とした玉座の間にて、魔王グインドール・アルフェリオンは焦燥に表情を歪める。

 多くの女悪魔を見惚れさせる、凛々しい容貌のエルダーデーモン種。

 その筋肉質の身体が小刻みに震え、漆黒の翼は力なく垂れ、青い肌には大量の汗が浮かぶ。


「……フィーネ。今日の日付を教えろ」


 グインドールが尋ねた瞬間、近くの柱の影から、黒い煙が立ち昇る。

 ほどなくして煙が霧散して、美しい女悪魔が姿を現す。


「はっ! 本日は、白龍の月16日でございます!」


 七大悪魔の一柱……グラマラスな身体つきをしたララフィーネは、その場に跪きつつ答える。

 途端に、グインドールの身体の震えが増した。


「どうしたのですか、グインドール様? まさか……貴方様を悩ませる不届き者が!?

 どこの誰ですかその汚物にも等しい最下級のゴミは! 

 嗚呼……アアアアッ許せません許せるわけがありませんグインドール様を苦しめるなんてどうしてなんでどこまでも愚かで救いがたき大罪人!

 今すぐ私が始末して、貴方様の心に平穏を取り戻してみせましょう!」


 ララフィーネがイっちゃってる感じに暴走しているが、部下を諌める余裕など今のグインドールにはない。

 玉座からララフィーネを見下ろしつつ、魔王は告げる。


「貴様に――――否。魔軍の総員に命じる」

「!!」


 その命令を、どう捉えたのか。

 美しい顔を喜色に染めながら、ララフィーネは声をあげる。


「人間どもの帝都に総攻撃を仕掛けるのですね! お任せください! 忌々しい救世主も皇帝も、私が……ッ」

「解散だ」

「…………え?」


 ぽかん、と口を開いたままララフィーネが硬直する。

 追い討ちをかけるように、グインドールは宣言した。



「魔軍は解散だ! 総員、本日中に地獄へと撤退せよ!」



 広々とした玉座の間に、魔王の叫びが響き渡った。


「物資も拠点も全て放棄! 逃げ延びることのみ考えろ!」

「え……え……?」

「フィーネは今の命令を全軍に通達! それが済んだら、お前もすぐ地獄に帰れ!」

 

 呆然と硬直する部下に構わず、矢継ぎ早に指示をする。

 それから、心の中で叫ぶ。


(なんで……なんで俺が魔王になってんだよっ!?)


 自分の名前は伊藤健太郎――東京に住む中年サラリーマンだ。

 趣味はゲームと漫画、32才童貞、ブラック企業勤めの社畜。

 なんとも冴えない男だ。

 そんな自分が、交通事故で命を落として。



 意識が戻ったら、ロールプレイングゲーム『バイブリック・ファンタジー』の魔王になっていた。

 


 魔王に転生したこと自体は、そこまで悪いと思わない。

 なにせ世界最強クラスの力を持ち、高い地位もあるのだ。

 剣と魔法の世界だって好きだし、悪魔の美女たちにもモテそうだ。


 どうせ元の世界では恋人もおらず、両親も死んで孤独の身だったし……。

 ただの社畜だった人生より、こちらの世界の方がよほど楽しめそうだ。

 だが致命的かつ緊急の問題があった。


 ゲームのシナリオ通りに進むなら、明日――――。



 白龍の月17日に、魔王グインドールは死ぬ。



 神の加護というチートでパワーアップした救世主が、悪魔城に乗り込んでくるのだ。

 救世主とは『バイブリック・ファンタジー』の主人公で、プレイヤーが操作する要は勇者みたいなものだ。

 その戦闘力は極悪にして絶大。

 ララフィーネを含む幹部は皆殺しにされ、魔王グインドールも討たれる。

 

 

 ならば、悪魔城でのん気に過ごしている場合ではない。

 三十六計逃げるに如かず…………とっとと脱出するに限る。


「俺は魔王を辞める! お前も逃げて、生き延びろ! ではさらばだ!!」

「お、お待ちください! グインドール様ァァ――――――――ッッ!」


 背後でララフィーネがなにやら叫んでいるが、世界最強クラスの魔王の全力ダッシュには追いつけない。

 こうしてはグインドールは、魔王を辞めた。

読んでくださってありがとうございます。

次話は本日(4月27日)、22時頃に投稿予定です。

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