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詐欺師と泥棒と殺し屋と  作者: yomuyomu
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狸穴の光さん3

         6


 コースを回った後、夕食をとり、クラブハウスを出たのは夕方の六時過ぎだった。近くにあるという薄葉の別荘で打ち合わせをすることになり、薄葉が正木のベントレーに乗り込み、光生は自分のクラウンを運転して目的地に向かった。

 三十分ほど走り、車は山道の中に入っていった。

 街灯のない片側一車線の道を進む。対向車の気配はない。葉を落とし、骨だけになった樹の影が道の両側に迫っている。樹と樹が重なってできた闇は、月の明るい夜の暗さより深く、道路の上にまで伸びた枝に挟まれた細長い空に、砂を散りばめたような星が瞬いていた。

 脇道に入り細い道をしばらく進むと、急に視界が開けて明るい場所に出た。街灯が、高い塀とその向こうに見える三角屋根を照らしている。塀の上には監視カメラが設置されていた。門扉が自動で開き、ベントレーに続いてクラウンを中に進めた。

前方に尖った大きな屋根と三角屋根の小屋窓が並んだ建物が見える。家の窓から溢れているオレンジ色の灯が、背後に覆いかぶさる暗い森に滲み出ていた。

 アプローチを進み、ベントレーが車寄せのある玄関の前で停まった。光生のクラウンも後ろに停める。ポーチに髪を顎のあたりで切りそろえたスーツ姿の女が立っていた。

運転席から正木の秘書が飛び出し、後部座席のドアを開いた。先に薄葉が降り立ち、続いて正木が降りる。光生もエンジンを停めクラウンを降りた。

「お待ちしておりました」

 女が手前に扉を開き、身を退かせた。扉の脇に立って頭を下げる。光生は習性的に扉の内側に目を向けていた。鍵が三つ付いている。しかもあのデザインはおそらく全国防犯協会認定特Aランクのものだろう。扉の脇に警備会社のシールも貼ってあり、監視カメラも設置されている。防犯対策は、まあまあ万全というところか。

「さ、先生、どうぞ。蜂谷さんも」

 薄葉が右手を広げ中に促す。

 玄関に揃えられたスリッパを履いて床に上がった。光生は目だけで周りを観察した。

正面の壁の前に赤や黄色の細かい模様の入った壺が四脚の台の上に載せて飾ってある。その左右に模様ガラスの入ったドアがあり、右側の部屋のガラスから光が漏れていた。左側の扉はあまり人の出入りがないのだろう。ドアノブに皮脂の反射が少なかった。

 正木は慣れた様子で先に進み、そのドアを奥に開いた。

 ドアの向こうは四十畳くらいの居間になっていた。

磨きこまれ、濃い飴色に輝いているフローリングの床、塗り仕上げで凹凸感のあるクリーム色の壁を天井に埋め込まれた間接照明が照らし、十人は余裕で座れそうなL字型の革張りのソファが中央に設置されていた。奥にはグランドピアノも見える。

天井まで届く大きな窓の外には、木製のテラスが伸びていて、丸いテーブルとチェアが置かれていた。その奥はライトアップされた森の樹が迫っている。居間の奥はダイニングキッチンになっていて、背もたれの高いチェアが六つ、テーブルを囲んでいた。

全体的にさり気ないが、内装に金が掛かっている部屋だった。 

 薄葉に促され、光生はL字の角を挟む形で正木とソファに座った。尻が思ったより深く沈んだのでバランスを崩しそうになる。

薄葉が向かいの肘掛けのついた一人掛けのソファに腰を下ろす。無垢材にガラスの天板がはめこまれた低いテーブルの上には、チーズやサーモンなどが皿に盛られた、簡単なつまみが載っていた。

「相変わらずいい家だね」

 正木が背もたれに身体を預けた。

「先生、上着をお預かりしましょう」

 薄葉が正木の上着を受け取り、ワゴンにウィスキーやグラスを載せて運んできた先ほどの女に預けた。

「あとは僕がやる。ありがとう」

 薄葉がいい、女は頭を下げてダイニングのほうに下がった。柔らかく微笑んだ女の目尻に皺ができていた。秘書兼愛人か、くらいに思っていたが案外、歳は薄葉より上かもしれない。

「先生はダブルのロックで宜しかったですね。蜂谷さんは?」

「あ、ワシも同じものでええです」

 ウィスキーのボトルは陶器製でイギリスの近衛兵のような形をしている凝ったものだった。薄葉は手慣れた手つきでグラスに氷を入れ、琥珀色の液体を注いでいった。

「それでは、蜂谷さんとの出会いを祝して」

 薄葉が気障な台詞を口にして、グラスを顔の前に掲げた。

 光生も小さくグラスを上げてひとくち含んだ。もっぱら焼酎派なこともあり、スナックの安ウィスキーとの味の違いはよくわからなかった。

 正木と薄葉がウィスキーの味がどうだとか、スコッチウィスキー云々と話している。正直、まったく興味がなかったが、光生は真剣に耳を傾けている表情を作りながら、さり気なく部屋の中をもういちど見まわした。

よく見ると広い窓は割れにくい合わせガラスで、窓枠の下にサブロック、横には侵入者が近づくと反応するセンサーが設置されている。まあまあ警備は厳重といったところだが、その気になれば何というものではない――。

そこまで考えて思わず唇が緩んだ。何を考えているのだ、俺は。もうとっくに稼業からは脚を洗ったではないか。

「おや、蜂谷さん。楽しそうでらっしゃいますね」

「あ、ああ、いやいや」

 薄葉の言葉に、光生は慌てて顔の前で手を振った。

「薄葉さん、そろそろ彼に、例の話をしてもいいんじゃないのかね」

 正木がすっかり顔を赤くしていった。

 薄葉が正木に膝を揃えて頭を下げ、尻をずらして光生に身体ごと向き直った。ずっと口元に浮かんでいた笑みは消え、目は真剣だった。

 思わず光生も背筋を伸ばしていた。


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